2 王位継承を争う者
屋敷に巣くっていた第2王子派を、制圧する為の戦闘は続いている。
なんだか武装した人が多いけど、たぶん監禁していたラムちゃんの姿が消えたので、クリーセェ様を奪還する為の動きがあると警戒していたのかもしれない。
それならクリーセェ様を、別の場所に移動させておけば良かったのに……と思ったが、そうなると彼女も異変を察知して逃げ出すかもしれないし、それを危惧したのだろうか?
まあ、クリーセェ様が本気で逃げようとしたら、誰も止められないだろうしなぁ……。
少なくとも彼女を移動させる為には入念な準備が必要だと思うけど、それが間に合わなかった……と、見るべきかな?
あ、ラムちゃんに伝え忘れていたことがある。
私は念話で、彼女へと言葉を送る。
『監禁中に来た男がいれば、遠慮無く殺っちゃっていいからね』
『ありがとう、ママ!』
ラムちゃんを辱めた連中を生かしておくという、そんな選択肢は無いからねぇ……。
さて、私はみんなの後を追いつつ、クリーセェ様から話を聞こうかな。
「クリーセェ様は、何か酷いことはされませんでしたか?」
「いや……私は部屋に、閉じ込められていただけじゃな……。
もう何もするな……と、強要されておった。
ラムラスを殺すと脅されてな……。
むしろ酷い目に遭ったのは、ラムラスじゃろ……?」
「そう……ですね。
それについては、本人にも聞かないであげてください」
「う……うむ」
私の答えで察したのか、クリーセェ様は悔しそうにうつむく。
「それにしても、回りくどいですね。
王位継承権を捨てろ……とか、自害しろ……というような、要求は無かったのですか?」
そうしていれば、第2王子が次期国王になることが、今頃は決まっていたのでは……?
「ああ……結局、決めるのは父上の意向が大きく働くから、私が辞退しただけでは意味は無いのじゃ。
さすがに私も死ぬくらいならば、ラムラスの命と引き換えに、なんとしても兄上を斬るしのぉ……。
それに今は竜を倒したことで、私を推す国民の声も無視できん。
なんだかんだで国民は、強い王を求めているのでな。
だから私に何もさせず、そして悪い噂でも流して、国民からの支持を失うのを待っていたのじゃろう」
なるほど……。
だけど結果として、私達に時間を与えたのは、第2王子派の致命的なミスだな。
「それではこれが終わったら、第2王子もさっさと処分しますね」
「えっ、ちょっ、ちょっと待てぃ!?」
クリーセェ様が慌てる。
「大丈夫です。
絶対にばれないようにやるので!」
「うわ、消えた!?」
私は「完全隠蔽」のスキルを使って見せる。
これがあれば、暗殺など余裕だ。
しかし再び姿を現した私に、クリーセェ様は、
「そういうことではなく、兄上を殺しても、問題の解決にはならん!」
と、暗殺を否定した。
えぇ~……?
「あの……、ラムラス様の名誉に関わるので詳細は言えませんが、第2王子を生かしてはおけません。
これは絶対です!」
「……っ!」
クリーセェ様も私の言葉の意味を理解したようで、怒りの表情を浮かべた。
ラムちゃんのことを考えたら、第2王子を生かしておくという考えにはならないだろう。
「う、うむ……最終的には、兄上がどうなっても仕方がない。
だが、兄上がいなくなっても、その派閥は他の派閥に合流して、私の邪魔になる可能性が高いのじゃ。
やるのならば、派閥の力を大きく削いでからでないと……」
ふむ……なるほど。
必ずしも第2王子が、敵の本体ではないということか……。
「ちなみに、他の派閥は?」
「そうじゃのぉ……。
既に嫁に出ている第1王女にはもう王位継承権が無いから、気にする必要は無いと思う。
第2王女と第4王女の姉妹は、父上の第3側室の娘で、2人で1つの勢力と言える。
ただ、勢力としては、そんなに強くないのじゃ。
第3王子は私よりも年下じゃが、男と言うだけで後継候補としては強い。
それに正室の子じゃから、母親の威光が厄介かもしれんのぉ……。
ちなみに亡くなった第1王子も正室の子で、第2王子は第2側室の子じゃ。
我が母は、第4側室……ということになるが、平民であるが故に父上と正式な婚姻を結んではおらぬので、後ろ盾としては完全に無力じゃのぉ……」
ふ~ん……なんだ、他の候補は、『百合』を駆使すればどうにかなりそうだな。
「それじゃあ、他の派閥をこちらの味方に付けてから、第2王子の派閥を追い詰めましょう」
「な……できるのか?」
「少なくとも王女やお妃様を、私の味方に付けることはできますね。
私は無条件で女性から好かれる、『百合』というギフトを持っていますので」
「はぁっ!?
なんじゃその、無茶苦茶な能力は!?
あ……それでカプリファス様も……?
……というか、私には効いていないような気がするのじゃが……」
「精神的に男性だと駄目なようですが、クリーセェ様は違いますよね?」
親密度が見えるということは、少なくとも完全に『百合』の対象から外れている訳ではないようだ。
「おそらく、私の能力が効かない『ギフト』を持っているのでしょう。
貴重なのですよ、私と冷静に付き合える女性というのは。
そんなクリーセェ様には、公正な視点からの意見が欲しい。
私が私に好意的な女性の声ばかり聞いて、間違えないように……。
だから私は、あなたを助けるのです」
「う……うむ、そうなのか」
クリーセェ様は、少し気圧されたように答えた。
私の能力は、性別が存在するあらゆる生物の半分を、味方に付けるようなものだ。
使いようによっては、国の1つや2つは簡単に手に入れることができるだろう。
もしかしたら私は、クリーセェ様に危険視されるかもしれない。
それでも彼女とは良い関係を築きたいから、私は私の秘密を話した。
「ん……?
つまりラムラスも、おぬしの能力の影響を受けておるのか?」
「そ、そうですね……。
彼女は私に、剣を捧げると言っておりました」
「ふ~ん……」
クリーセェ様はそう呟いたきり、口をへの字に結んで、黙り込んでしまった。
あっ、友達を取られて拗ねている……?
でも、『百合』の魅了効果は、私の意思ではどうにもならないから、仕方がないんだよぉ……。
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