幕間 従者と令嬢
幕間の話ですが、後半は本編よりもちょっと先の話かも。
僕の名前はエレン。
ソイゲント男爵家の家臣として、騎士見習い……を目指しています。
今はまだ、見習いですら無い……。
それは僕が、平民の出身だからです。
普通、平民は騎士にはなれません。
大抵は貴族の後継ぎになることができない、次男や次女以下の者がなるものなのだから……。
それでも実力があれば、貴族から直接召し抱えられる場合もあるそうです。
今の僕には、それだけの実力は無いけれど……。
何故僕が、そんな叶うあても無い夢を抱いているのかというと、たぶんジュリエットお嬢様の影響だと思います……。
僕の母がお嬢様の乳母をしていた関係で、僕達は兄妹のように育ちました。
いや、本当に手のかかる妹でしたよ。
我が儘……と言うのかどうか、彼女はこうだと決めたら行動せずにはいられない──そんなところがありました。
それは自分の為だけではなく、他人の為でもそうなのですから、やっぱり我が儘とはちょっと違うと思います。
僕はそれに、何度振り回されたのか分かりません。
それでもお嬢様は楽しそうだったので、ついつい付き合ってしまいました。
思えばその頃から既に、僕はお嬢様に惹かれていたのかもしれません。
だけど大人になったら、僕はお嬢様の傍にはいられなくなります。
いずれは何処かの貴族の所へ嫁ぐ淑女に、男の影は厳禁なのですから……。
実際、お嬢様が年頃になるにつれ、僕は彼女に近づけさせてもらえなくなり、そのお世話はメイドがすべてやるようになりました。
まあ……召し使いとして伯爵家の雑用の仕事はしているので、たまにお嬢様の顔を見ることはあるけれど、その時も挨拶くらいしか許されないのです。
でも、お嬢様の護衛役の騎士ならば──。
それならば、今よりも接点が増えるのではないか……僕はそう考えました。
そんな訳で、僕は剣の練習を始めたのです。
……たぶんこのままでは、努力も無駄に終わると、半ば自覚しつつも……。
そんな僕にチャンスが訪れたのは、ソイゲント男爵様が訪れた辺境の町でのことです。
その町は魔物の群れに襲われたのですが、その復興の様子を視察するのと、魔物の群れを退けた英雄に会うことが男爵様の目的だったようです。
その旅には、お嬢様も同行していました。
男爵様は娘を大層可愛がっていたので、何処にでも連れて行っていたのです。
僕もお嬢様の口添えがあったのか、雑用として同行することができましたが……。
町での晩餐会が終わった後、僕は男爵様に呼び出されました。
「貴様は……騎士の見習いになりたいそうだな……?」
「は、はい……!」
「ある者を暗殺してくれば、そちの願いを叶えぬでもないぞ……?」
「あ、暗殺ですか……?」
騎士見習いですらない僕には、無理だと思いました。
しかし男爵様は、こう言ったのです。
「ああ、何もそち1人でやれというのではない。
他に10人以上の騎士も参加する」
騎士様達が一緒ならば……。
だけど人殺しなんて、僕にできるのでしょうか……?
「標的は、魔王候補を倒した冒険者達だ。
奴らは殿下の邪魔になる」
「──!!」
やはり僕には、無理だと思いました。
しかしもうこの話を聞いてしまっては、断ることなど不可能でしょう。
そもそも男爵様は、僕が死んでもいいと思っていることは、薄々察することができました。
……実際僕は死にました。
男としても……人間としても。
えっ……女の子にされた上に吸血鬼って、なにそれ!?
でも結果として、お嬢様の横に並び立つことができるようになったので、良かった……のかなぁ?
それに、マルル様は言いました。
「いつかジュリエットも、吸血鬼にしてあげなよ。
そうすれば、永遠に一緒にいられるよ?」
──と。
それはいけないことであると感じたけれど、同時に凄くワクワクとしました。
私の名は、ジュリエットですわ。
ソイゲント男爵家の娘でしたけれど、今はマルル様の家臣となりました。
もう家のことなんて、どうでもよろしいのですよ。
私には弟のような存在の、エレンがいました。
男なのに私よりも身体は小さく、頼りなくて、私が指示しないと何もできない……。
でもなんとなく、放っておけない──そんな子でした。
そのエレンが私の前から完全に消えて無くなりそうになった時、私は思っていた以上にこの子のことが、大切なのだということを実感したのですわ。
そのエレンを生きて返してくれたマルル様には、心底感謝しておりますのよ。
……まあ、エレンが女子に……更に吸血鬼になってしまったのには、大層驚きましたが。
エレン自身も、トイレや生理など、女子特有の事柄に戸惑っているようですわ。
私はそれを、彼女に指導しなければなりません。
「ほら、エレン。
下着の付け方を教えて差し上げますから、裸になるのです」
「おっ、お嬢様!
1人でできます!
1人でできますからぁ!」
「できていないから、私が教えようと言うのです。
さぁ、脱ぎなさい!
さぁ!」
「あぁぁ~っ!」
私は無理矢理、エレンから衣服を剥ぎ取ります。
やっぱり胸に、何もしていませんわね。
小さいとは言え、これでは形が崩れてしまいます。
まったく……やはりエレンは、世話の焼ける妹ですね。
それにしても女の子になったエレンの身体は、なかなか綺麗ですわ……。
そういえばマルル様は、女性の方を恋愛の対象としているのですよね……。
何人もの御方が、夜伽をしているようですが……。
いつか私にも、マルル様と臥所を共にする時がくるのでしょうか?
その時に備えて、経験を積んでおくのも……。
いえ、違いますわね。
それは言い訳です。
私の身体を許す最初の相手は、エレンがいい……。
何故かそう思ってしまいましたの。
お互いに気心が知れた相手の方が、良いということでしょうか……?
エレンは弟……ではなく、妹のような存在だと思っておりましたが、マルル様も実のお姉様と仲睦まじい様子ですし、問題はありませんわよね……?
「あの……お嬢様?
着せたばかりの下着を、何故また脱がせるのですか?
それに……そんなところに指を這わせて……」
「まあまあ、あなたは私に身を任せておけばいいのです」
「えっ……ちょっ……あ、あっ……!
んむっ!?
ん~~! んん~~っ!!」
エレンが少々うるさいので、口を塞いであげましたわ。
ふふ……なかなか楽しいですわね。
今夜は、一睡もさせませんわよ、エレン……!
お互いの認識には、微妙な齟齬があったりします。




