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9 墓穴を掘る

 今日も読んでいただき、ありがとうございます。

「ここ、(けもの)の通り道っぽいし、罠を仕掛けるのならここがいいんじゃないかな?」


「じゃあ、ここに落とし穴を掘ってみるよ」


 私はお姉ちゃんのアドバイスを受けて、獣道らしき場所へ落とし穴を掘ることに決めた。


「ただ、(にお)いに敏感な動物には感づかれるかもしれないから、あまり臭いを残さないでね」


「ああ……うん」


 私は自分の腋とかを()いでみる。

 自分の体臭なんてよく分からないけれど、お風呂に入れない生活を続けているので、(くさ)いかもしれない。

 ……それなら野生動物に近いから、逆に大丈夫なのだろうか?

 どのみち乙女としては、体臭がキツイのは嫌だなぁ……。


 そんなことを思っていると、お姉ちゃんが私の耳元で(ささや)く。


「大丈夫だよ、マルルからは凄くいい香りがするから……」


「もおっ、お姉ちゃん!」


 恥ずかしいことを堂々と言ってくれる……。

 でも親密度が100%になっている所為か、お姉ちゃんは私の考えていることが、少し分かるみたい。


 というか結局、私がいい匂いをさせていたら駄目なんじゃない!?

 う~ん、身体に土を擦り付けて体臭を誤魔化す……っていうのは嫌だな、さすがに。

 取りあえずこのまま、穴を掘ってみることにしよう。


「それじゃあ、あたしは周囲に獲物がいないか確認してくるから、何かあったら大声で()ぶんだよ?」


「んっ」


 と、お姉ちゃんは私の(ほほ)にキスをして、(やぶ)の中へ去って行った。

 ホント、イケメンなんだから……。


 さて、これからいつも農作業に使っている(くわ)で、落とし穴を掘る。

 浅い穴だと落ちた動物が簡単に抜け出してしまうので、2m近い深さは欲しいな……。


 ……と、思っていたのだけど、駄目だ……!

 思っていたよりも地面が固い。

 体力的にも2mも掘るのは無理……っ!


 これは方針を変更して、浅くてもいいから穴を掘って、その底に先を尖らせた木の枝を設置するタイプの落とし穴にしよう。

 ただどちらにしても、ある程度の深さまでは穴を掘らなければならない。


 そのまま暫く作業に没頭していた私だけど、不意に背後から気配を感じて、振り向いた。


「お姉ちゃん?

 何かい──たっ!?」


 てっきりお姉ちゃんだと思って話しかけたそれは、熊だった。

 体長は1.5mくらいだろうか?

 1.5mというと大したことがないように思えるかもしれないが、熊の大きさは頭からお尻までの長さを測るという。

 つまり後ろ足の長さは含まれていないので、立ち上がると実際にはもっと大きく見える訳だ。

 うん、見える。


「ひっ!?」

  

 思わず悲鳴が漏れる。

 すると熊がビクッと、反応した。


 あれ……?

 これ、大声を出して刺激しちゃ駄目……!?

 じゃあ、お姉ちゃんに、助けを呼べないじゃん!?


 ど、どうしよう!?

 いくらスキルがあったとしても、私では熊には勝てない。

 襲われたら確実に死ぬ。


 そして熊は食べ残しを地面に埋めるらしい。

 となると、私は自分が掘った穴に埋められることになるのだろうか……!?

 まさに墓穴(ぼけつ)を掘った状態だ、これ!?


 え~と……確か熊って走って逃げたら、追いかけてくる習性があるんだよね?

 だから熊から目を逸らさずに、ゆっくりと後退(あとずさ)って離れるのが正解だと聞いたことがあるけれど、実際には個体差があって通用しないこともあるという。


 あ……ヤバイ。

 全身が勝手に震える。

 やめて、熊を刺激しちゃうかもしれないから、勝手に動かないでっ!!

 

 それにこんな状態じゃ、まともに歩ける気がしない。

 このままじゃ、逃げられない!


 そんな私に、熊はフンフンと鼻を鳴らしながら近寄ってくる。

 やめてっ!

 こないでよぉ!!

 助けて、お姉ちゃんっっ!!


「マルルっ!!」


 その時、私を呼ぶ声が聞こえた。

 お姉ちゃん!?

 お姉ちゃんが駆けつけてくれた!?


「マルルから離れろ!」


 お姉ちゃんは(なた)を熊へと向けて威嚇した。

 お姉ちゃんなら熊にも勝てるから、刺激しても問題は無いだろう。

 実際、過去には熊を倒したこともある。


「ふふん、お姉ちゃんは凄く強いんだから、あんたでも勝てないよ。

 逃げるのなら今の内なんだから!」


 私もつい気が大きくなって、熊に煽るようなことを言ってしまう。

 すると、熊はチラリとこちらの方を見た。


「ひっ!」


 だけど熊はあたし達に背を向けて、そのまま走り去っていく。


「あ……」


 熊はいなくなった?

 もう戻ってこない?


 安心したのか、私はその場にへたり込んでしまった。


「マルル、大丈夫か!」


 お姉ちゃんが私に抱きついてきた。

 そんなお姉ちゃんの体温を感じて、私はようやく助かったのだと実感する。

 目からは、ボロボロと涙が溢れ出した。

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