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第7話 誘導士、水晶玉を割る

「助けていただいてありがとうございました。さっきからずっと()()に言い寄られていたものですから、仕事にならなくて本当に困っていたんです……」


 長いストレートの茶髪に眼鏡をかけた受付嬢は、立ち上がってカウンター越しに俺の手を握った。制服の胸元には名札がかけられていて、そこには“メランダ”と書かれている。


「別に大したことはしてないぞ。あっちが攻撃してきたから防いだだけだ」

「そんな! あの氷魔法をあんなに華麗に受け流す人なんて、初めて見ました。もしかして、このギルドに入っていただけるのでしょうか?」

「ああ、少しの間稼がせてもらえると助かるんだが……」

「分かりました! それでは私がサポートいたします!」


 するとパウファが、「エヘン!」とせきばらいをした。


「ドクス様。そんなところにいらしては並んでいる皆様のご迷惑です。早く後ろに並び直しましょう」

「ああ……そうだな。皆さん、申し訳ない」


 俺はメランダの手を離し、列の最後尾に並ぼうとした。そのとき、どたどたと足音がして二階から人が下りてくる。大柄でマッチョな中年男だった。


「うるさいぞ! 何の騒ぎだ!?」

「マスター!?」


 メランダが呼びかける。どうやら男は、このギルドのマスターらしい。


「ややっ、ソンザーバ! 大丈夫か!? 誰にやられた?」


 ギルドマスターは倒れているソンザーバに気付くと、かけよって助け起こした。ソンザーバは意識を取り戻し、俺を指さして言う。


「うう……パパ……あいつにやられた……」

「何だと!? 貴様! よくもうちの息子をやってくれたな! 一体何者だ!?」


 ソンザーバはギルドマスターの息子なのか。食ってかかってくるギルドマスターに、俺は答えた。


「ドクスと言います。職業は誘導士です。このギルドの登録試験を受けに来ました」

「何、誘導士だと!? 誘導士と言えば最弱職の役立たずではないか! 無能の上に、この町ただ一人のSランクにして最強の冒険者である息子ソンザーバに暴力をふるうとは! そんな奴をうちのギルドに入れるわけにはいかん! さっさと消え失せろ!」

「何ですと!? 無礼な!」


 俺が何か言う前に、パウファがキレた。


「わたくしが国に戻りさえすれば、吹けば飛ぶようなこのギルドなどあっという間に廃業……」

「待て待て待て!」


 俺は慌ててパウファを止めた。実は王女様なのは秘密だっただろうが。


 パウファが黙ると、今度はメランダが口を挟んだ。


「待ってください、マスター。先に攻撃をしかけたのはソンザーバさんです。その方は攻撃されたから身を守っただけです!」

「な、何……?」


 回りの冒険者や職員も、「そうだ。そうだ」とメランダに同調する。旗色の悪くなったギルドマスターは、ソンザーバの件を引っこめた。


「ううう……息子のことは許してやろう。だが、うちは伝統と格式のある冒険者ギルド。誘導士のような最弱職に試験を受けさせるわけには……」

「マスター! うちのギルドでは登録試験に合格すれば誰でも冒険者として登録できることになっています! 職業を理由に登録試験を受けさせないなんて、ギルドの規則違反ですよ!」


 また、メランダが俺の肩を持ってギルドマスターに抗議する。その正論には抵抗できないようで、ギルドマスターは渋々うなずいた。


「ぐぬぬ……そこまで言うなら特別に登録試験を受けさせてやる」

「当り前です」

「くっ……この町で一番美人で乳のデカい女だから愛人要員として採用してやったのに、いつもいつもわしに逆らいおって……メランダ、手続きが済んだらそいつを魔力測定室に連れてこい!」

「分かりました」


 ☆


 しばらくして、俺はメランダに案内されて別室に移動した。パウファもついてくる。部屋に入ると薄暗い。ギルドマスターとソンザーバが中に立っていて、その前には小さな机が置かれていた。


 机の上には、人の頭ほどの大きさの水晶玉が置かれている。俺はギルドマスターに聞いてみた。


「どうすればいいんです?」

「これに手を置いて魔力を通してみろ。そうしたら魔力に反応して光が出る。強い光が出ればこの試験は合格だ」

「分かった」

「まあ、最弱職の誘導士では、ろうそくほどの光も出せないだろうがな」

「そうだ! さっきは油断してやられたが、きちんと測定すれば、誘導士風情に大した魔力があるはずない!」


 ギルドマスターとソンザーバが、そろって俺をけなす。どれくらいの光が出せれば合格なのかさっぱり分からないが、とにかくやってみることにした。水晶玉の上に右手を乗せ、魔力を流し込むと、さっそく光り始める。


「これでいいか?」

「ふん。そんな弱々しい光で合格のはずがないだろう」

「そうか……」


 俺は、水晶玉に流し込む魔力を強めた。それに応じて、光はだんだん強くなる。


「これならどうだ?」

「な、何だ、この明るさは……? いや、まだまだ……」

「じゃあ、これぐらいでいいだろう?」

「だ、駄目だ! 最弱職を合格にするわけには……」


 そのうちに光が強くなり過ぎ、俺はまともに水晶玉を見ることができなくなった。顔をややそむけて薄目を開けていると、パウファとメランダが俺の背中に隠れる気配がする。彼女達もまぶしくてかなわないのだろう。


「おい、まだ合格じゃないのか!?」

「馬鹿を言え! そんな光では本も読めんわ!」

「じゃあ、手で顔隠すのやめろ!」

「うるさい! お前の魔力はそんなものか!? ありったけの魔力を込めてみろ! この程度が全力ならやはり不合格……」


 仕方がない。俺は水晶玉に注ぎ込む魔力をさらに強めた。そのとき――


 ドカーン!


 魔力に耐え切れなくなったのか、ついに水晶玉が割れた。破片が四方八方に飛び散る。俺は慌てて魔法を発動させた。


害物旋回(リード)!」


 俺の方に飛んできた破片がそれていく。おかげで俺の後ろにいたパウファとメランダは無事だったが、手で目をふさいでいたギルドマスターとソンザーバは避けようがなく、いくつもの大きな破片の直撃を受けた。


「「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁ!!!!」」

「…………」


 しばらくして光がおさまったので、俺は目を開けて様子をうかがった。ギルドマスターとソンザーバは床に転がり、ピクピクと体をけいれんさせていた。


 そしてメランダが、感嘆の声を上げる。


「す、すごい……Sランク冒険者の魔力を測ってもびくともしない魔力測定球が割れてしまうなんて……ドクスさんには一体どれだけの魔力が……」

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