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第6話 誘導士、Sランク冒険者を瞬殺する

「…………」


 朝になり、俺はベッドの中で目を覚ます。夕べは仮眠の後、夕食をとってまた休んだのだが、やっぱりパウファと同じベッドで寝ることになった。


「ん?」


 ふと、息苦しさを感じた。見ると、パウファが俺に抱き付いている。どうやら寝ている間に俺を抱き枕か何かだと勘違いしたらしい。おかげで体が密着し、大き過ぎる乳房が俺の胸を圧迫していた。


「…………」


 そっと肩を押して離そうとしたが、かなり強い力でしがみついているようで、びくともしなかった。これは起きるまで待つしかなさそうだ。


 やれやれ。毎晩こうだとしたら俺の精神と肉体がもたないかもしれない。まあ、金が入れば部屋を別々に取れるだろうから、長くは続かないと思うけど。


 ☆


 起床して朝食をとった俺は、サンダルをはいてベクベホの冒険者ギルドを訪れていた。森の警備隊からもらった賞金だけではロズリゴ王国まで行く旅費にとても足りないので、臨時で冒険者の仕事を請け負おうと思ったのである。


「本当についてくるのか? 宿で待っててもいいんだぞ」

「いいえ。何かお手伝いができるかもしれませんから、ドクス様のお供をさせてください」

「そうか……」


 こんな調子で、パウファもついてきている。俺達は入口から建物の中に入った。すると、中にいた何人かがこっちを見る。


「何だお前ら? ここは乞食のくるところじゃねえぞ」


 古着でサンダルばき、おまけに何も持っていない俺達のことを冒険者とは思わなかったのだろう。一人の男がからかい気味に言う。そしてもう一人、筋骨隆々の男がパウファに近づいた。


「へへっ。こっちの姉ちゃんはなかなかかわいいじゃねえか。そんなヒョロい男と一緒にいることはねえ。俺がいろいろ教えてやるよ」

「なっ! 触らないでください!」


 肩に伸びてきた男の手を、パウファは払いのける。すると男は逆上し、殴りかかってきた。


「何だとこのアマ! 親切にしてやりゃつけあがりやがって!」


 まずい。俺はパウファの前に立ちふさがると、魔法を発動させた。


害物旋回(リード)!」


 説明しよう。害物旋回(リード)とは相手の攻撃を誘導して進路を変えさせ、自分に当たらないようにする技である。男の拳は俺とパウファから大きく()れ、入口横の壁に激突した。


 ゴォン!


「うぎゃああああああ!!」


 男は手を押さえて悶絶(もんぜつ)し、床を転げ回る。それを見たパウファが申し訳なさそうに言った。


「すみません、ドクス様。わたくしがついてきたせいでこのような厄介事(やっかいごと)に……」

「よくあることだ。気にするな。さて……」


 俺は奥の方に視線を向けた。そこにはカウンターがある。冒険者登録の受付は、そのカウンターでしてもらえるはずだ。


 カウンターの前には何人かの人達が並んでいたので、俺はその最後尾につこうとした。だがそのとき、前の方の様子がおかしいのに気付く。


「なあ、いいだろ? 今夜つきあえよ。俺、すごいいい店知ってるからさ……」

「そんな、困ります……」


 魔道士風の立派なローブを着た冒険者らしい男が、カウンターに座っている受付嬢を口説いていた。受付嬢は迷惑そうにしているが、一向に引き下がる様子はない。


 カウンターには屈強そうな冒険者が何人も並んでいたが、誰も魔道士風の男を注意する様子はなかった。受付嬢以外の職員も同様だ。明らかに仕事の邪魔になっているのだが、何かの理由で手を付けられないらしい。


 やれやれ。この調子ではいつ受付をしてもらえるか分からない。俺はカウンターに近づき、声をかけた。


「あのー、すみません。ちょっと俺達を先にしてもらってもいいでしょうか?」


 魔道士風の冒険者は振り向き、俺を怒鳴りつけた。


「何だ貴様は!? 俺が誰だか分かってものを言っているのか!?」

「いや、誰だか知らないけど、仕事の話してるんじゃないよな? だったら後回しにしてほしいんだが」

「ベクベホの町に名を(とどろ)かすSランク冒険者、ソンザーバ様の恋路を邪魔するとはいい度胸だ。いかなる凶悪な魔物も簡単に退けてきた俺の伝説は、いずれ帝国中に響き渡る。そのときには巨乳美人受付嬢とのラブロマンスエピソードがどうしてもいるのだ。それを邪魔するとは! 貴様のようなゴミクズにはもったいないが、我が力の一端を披露してやろう。氷矢豪烈雨(ひょうしごうれつう)!」

「や、やめてください!」


 受付嬢の悲鳴が上がるが、ソンザーバと名乗った男は構わずに魔法を発動させた。水の精霊が部屋中に集まり、長さ1メートルほどの氷の矢が無数に形成される。その矢が一斉に俺に向かって降り注いだ。


「喰らえ!」

害物旋回(リード)


 氷の矢は向きを変え、全部がソンザーバに命中する。


「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁ!!!!」


 自分の魔法の威力をダイレクトに受け、ソンザーバは吹き飛ばされた。壁に当たって床に転がり、そのまま動かなくなる。それを見て受付嬢は、ほっと安心したような表情になった。


 そして、周りの冒険者達は口々に叫んだ。


「な、何だあの男は!? ベクベホ最強のソンザーバに勝っちまったぞ!」

「ソンザーバの奴、強いからってやりたい放題だったくせに、情けないやられっぷりだな!」

「あの男、よくソンザーバをぶっ飛ばしてくれたもんだぜ! 奴もこれで少しは大人しくなるだろ!」

「「「わっしょい! わっしょい!」」」


 どうやら俺が退治したのは、ギルドでも嫌われ者の冒険者だったようだ。


 やれやれ。目立ちたくないのにまた目立ってしまった。やれやれ。

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