第3話 誘導士、絶体絶命の美少女を救出する
ベクベホの町を目指し、俺は夜通し歩き続ける。朝になったころ、大きな森にさしかかった。そのままさらに歩いて行くと、前の方から女性の悲鳴が聞こえてくる。
「キャーッ!」
何だろうか? 足を速めて様子を見に行くと、16、7歳ぐらいの少女がいた。ウェーブのかかった豊かな長い金髪で、丈の短い白いワンピースを着ている。そしてその少女を、チンピラと山賊と、直立する豚のような魔物、さらに小さな鬼のような魔物がそれぞれ十数匹ずつで囲んでいた。チンピラと山賊と豚の魔物と小鬼の魔物は、少女に向かって口々に言う。
「君、かわいいねえ。そんな透けそうな薄い服着て、俺達を誘ってるんだろ? これからいいところに連れてってやるから、気持ちいいことしようぜ?」
「ガハハハ! こいつはめったに見ねえ上玉だぜえ! 闇市で性奴隷として売り飛ばせば大金が手に入るぞお!」
「ブヒヒイィ! 俺達自慢の○×△な&※$を<#@してヒイヒイ言わせてやるでブヒィ!」
「乳もケツもデカくて孕ませ甲斐のあるメスでやんす! 巣穴に連れ帰って苗床にしてガキをどんどん産ませるでやんす!」
金髪の少女は、見るからに怯えた様子で震えていた。それでも気丈に、チンピラと山賊と豚の魔物と小鬼の魔物を拒絶する。
「下がりなさい! この無礼者! あなた達の思い通りになるくらいなら、わたくしは死を選びます!」
やれやれ、仕方がない。遭遇してしまったからには放っておくわけにもいかないだろう。俺は前に進み出ると、チンピラと山賊と豚の魔物と小鬼の魔物に話しかけた。
「待て待て。その辺にしておけ」
「何だと? お前は誰だ?」
「通りすがりの誘導士だよ」
「誘導士だと?」
俺の自己紹介を聞くと、チンピラと山賊と豚の魔物と小鬼の魔物は爆笑した。
「ギャハハハハ! 誘導士って最弱職じゃねえか! いきがってんじゃねえよ! ぶっ飛ばしてやろうか!?」
「怪我したくなかったら、大人しく帰ってママのオッパイをしゃぶってるんだな!」
「ブヒヒィ! こいつきっと、自分がどれだけ弱いか分かってないでブヒィ!」
「いっそのこと残ってるパンツも剥ぎ取って、森の外に捨ててやるでやんす!」
「初級火炎圏」
俺は呪文を唱えた。両手から炎がほとばしり、辺り一面火の海になる。広がった炎は、チンピラと山賊と豚の魔物と小鬼の魔物を焼き払った。
「「「うぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁ!!!!」」」
説明しよう。初級火炎圏とは周囲にいる火の精霊を自分の手にまず誘導し、さらに別の場所へ誘導することで任意の場所に着火する魔法である。直撃を喰らったチンピラと山賊と豚の魔物と小鬼の魔物は、黒焦げになってその場に倒れ、動かなくなった。
起き上がってくる者がいないのを確かめ、俺は金髪の少女に声をかけた。
「災難だったな。でも、もう大丈夫だ」
「ああ……」
緊張の糸が切れたせいか、金髪の少女は足をふらつかせた。そして俺に抱き付いてくる。
「おい、しっかりしろ。えっ……?」
慌てて受け止めた俺だったが、そのとき初めて気付く。少女が着ているのはワンピースではなかった。薄いシーツのようなものを体に巻いて、胸から下を隠しているのだ。その上彼女は、靴を履いていない。こんな森の中にいるにしては、どうにも不自然な格好だった。
まさか俺のように、身ぐるみ剥がされて帝都を追放されたわけでもあるまい。不思議に思ったが、質問できる雰囲気でもないので俺はしばらくの間、少女と抱き合ったままでいた。そのうちにようやく落ち着いたのか、彼女は俺から少しだけ離れる。
「大丈夫か?」
「はい……お礼も申し上げずに、失礼いたしました……」
「気にするな。礼を言われるほどのことじゃない」
「いいえ! あなた様が助けてくださらなかったら、今頃わたくしはあの者達の手でいかがわしい場所に連れ込まれ、闇市場で性奴隷として売り飛ばされ、○×△な&※$を<#@された挙句、苗床として魔物の子供を産む羽目に……本当にどう感謝して良いか分かりません!」
少女は涙ぐんで両手で俺の手を握る。全く大袈裟なことだ。
そこへ、武装した兵士が数十名現れた。その中から隊長らしい男が出てきて言う。
「我々はこの森の警備隊だ! お前達はここで何をしている? ややっ! ここに倒れているのはこの数か月間、森を通る旅人を襲って我々を悩ませていたチンピラと山賊と豚の魔物と小鬼の魔物ではないか! 一体誰がこうも鮮やかに退治したのだ!?」
「このお方です。このお方がこの愚劣で野蛮な悪党どもを一瞬で片付け、危ないところだったわたくしを救ってくださいました」
金髪の少女が俺の腕を抱きかかえて説明する。それを聞いて、森の警備隊は口々に言った。
「何ということだ! 我々が手も足も出せなかった凶悪な賊の集団を一人で倒すとは!」
「これでもう、通行人が襲われることもない! 森は安全になった!」
「まさに神が遣わした、森の救世主だ!」
「「「わっしょい! わっしょい!」」」
平和の戻った森に、俺をほめたたえる声が響き渡る。
やれやれ。目立つのは好きじゃないんだがな。やれやれ。