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第2話 誘導士、非情にも追放される

 夜になると、オイディッツ以下パーティーメンバーは宮殿で宴を開いた。俺は一応招かれていたものの、席は与えられず部屋のすみっこで床に座らせられる。テーブルについたオイディッツ達は、ぜいたくの限りを尽くした宮廷料理に舌鼓を打っていた。


「やはり宮殿の料理は美味だ! クエストに出るときの携帯食など、とても食べられたものではないからな!」

「全くでございます。いえ、わたくし共だけならば我慢もいたしますが、皇太子殿下にまであのようなまずい携帯食をお召し上がりいただくのは……」

「いかがでございましょう、次回クエストに出るとき、宮殿のシェフをお共にされては? 役立たずの誘導士など連れていくより、よほど有意義でございましょう」

「おお! それは良い考えだ!」


 そんな風に軽口を叩く、オイディッツとパーティーメンバー達。だが、そのとき突然、オイディッツが立ち上がる。彼は(のど)をかきむしって床に転がった。


「ぐあああーっ! 痛い! 痛い!」


 それを見たパーティーメンバー達は、口々にさわぎ出す。


「どうなさいました皇太子殿下! 毒殺ですか!?」

「ああ、皇太子殿下! どうか死なないでください! 少なくともわたくしを貴族に取り立てるまでは!」

「皇太子殿下がいなくなられたら、我々は誰に(こび)を売って出世したら良いのですか!?」


 悲痛な叫びが飛び交う中、床に座って硬いパンをかじっていた俺は、水を飲んでパンを喉の奥に流し込んだ。そしておもむろに立ち上がり、医者を呼ぶために部屋を出ようとする。


 だが、俺が部屋を出るより早く、オイディッツは体を起こした。


「ううっ……」

「「「皇太子殿下!?」」」

「さ、魚の小骨が喉に刺さった……」

「大事ございませぬか!?」

「ああ、どうやら抜けたようだ」

「おお! 魚の小骨すらものともしないとは、さすが帝国最強の戦士であらせられます!」

「さすがです! すごいです! 皇太子殿下!」

「早速今の武勇を、皇帝陛下にも御報告……」


 またしても口々にほめそやすパーティーメンバー達。だが、称賛されているにもかかわらず、オイディッツは険しい表情のままだった。そして立ち上がると、いきなり俺を指差して怒鳴る。


「ドクス! お前はクビだ! このパーティーから出て行け!!」

「えっ……?」


 何を言われているのか分からず、思わず俺は聞き返していた。


「どういうことでしょうか……?」

「意味が分からないのか!? どこまでも頭の悪い奴め! 言葉通り、お前をこのパーティーから追放する!」

「いえ、そうではなくて……魚の小骨とわたくしに何の関係が……?」

「決まっているだろう! お前のような無能を雇っているからツキが落ちて小骨が刺さるのだ! 僕はもうじき、隣国ロズリゴ王国から妃も迎える。その前にお前のような害悪は排除しておかなくては!」

「し、しかし……わたくしがいないと皇太子殿下が困ったことに……」

「何!? どういうことだ!?」

「それは……」


 俺は、いつもダンジョンでオイディッツがギリギリ勝てるモンスターのところに誘導していること、そして強力なモンスターは別にいて、後で俺が倒していることを説明しようとした。


 その瞬間、澄み渡っていた星空が突然雲に覆われる。そしてその雲が光り出し、放たれた稲光が窓から入ってきて俺の胸を貫いた。


 ドドオオオオン!!


「「「うぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁ!!!」」」


 俺だけではなく、近くにいたパーティーメンバーの何人かが巻き添えになった。彼らは悲鳴を上げて床に倒れ、体から白い煙を上げる。


 説明しよう。俺は自分のしたことや功績を人に説明しようとすると雷に打たれる体質なのだ。これさえなければ、俺を追い出すとどう困ったことになるか、オイディッツに説明できるのだが……やれやれ。


「失礼いたしました。何でもございません」

「それ見たことか。やはりお前は無能の役立たずではないか」

「あ、そうだ。せめて皇帝陛下にお伺いを立ててから……わたくしは皇帝陛下のお召しで殿下のお供をしておりますので」

「黙れ! これは僕のパーティーなのだ。父上の指図など受けぬ! 苦しまぎれに父上の威光を笠に着おって。者共、このゴミカスをボコボコにせよ!」

「「「ははっ!」」」


 パーティーメンバー達は棍棒やハンマー、鉄球を手に俺に打ちかかった。あっという間に俺はボコボコにされ、床に転がる。


「ぐうう……」

「わっはっは! この僕に歯向かうからこういう目にあうのだ。誰か、こいつの身ぐるみをはぎ取って帝都の外に捨ててこい!」

「かしこまりました! しかし、帝都の外に捨てるだけでは、また戻ってきてしまうのでは?」

「そうだな。明日の朝、帝都に触れを出そう。この役立たずが帝都のどこでも働けないようにするのだ。そうすれば二度と戻っては来られまい」

「おお! さすがは皇太子殿下。武勇だけでなく知恵もお見事でございます!」

「そんなに本当のことを言うな。では、このクズの始末は任せるぞ」

「「「ははっ!」」」


 こうして俺は、服をはぎ取られて帝都の門から外に捨てられた。


「じゃあな、役立たず!」

「最弱職は二度と帝都に戻ってくるなよ!」

「戻ってきたくても、その辺で野垂れ死にするのがオチだろうけどな!」


 俺を捨てたパーティーメンバー達は、門の中に戻っていく。門が閉じられると大通りを照らしていた光がささなくなり、俺の周囲は暗闇になった。


「……………」


 俺は立ち上がると、パンツ一枚の姿で夜道を歩き始めた。もう帝都ではどこでも仕事をもらえないという話だったから、生活のためには別の町へ行くしかない。とりあえず、道の先に続いているベクベホの町を目指すことにした。

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