第11話 誘導士、薬草取りの依頼を受ける(後編)
ふもとで少し休んでから、俺達は山を登り始めた。
「行くぞ。こっちだ」
「はい。ドクス様……」
ふもとから薬草の生えている場所に行くルートはいくつかあったが、パウファがいるので少し遠回りでもなるべく歩きやすいところを選んで進む。モンスターに出会うことはなかったが、小さな蛇や虫は出現し、苦手なのかそのたびにパウファは悲鳴を上げて俺にしがみついてきた。
「きゃあっ! あの高いところにある枝の付け根に虫が!」
「お、おい、大丈夫か!?」
「は、はい……申し訳ありません……」
「どうしても無理なら引き返すぞ?」
「いいえ、すぐに慣れますのでお気になさらず……きゃあっ!」
「…………」
何度もパウファに密着され、大きな胸を押し当てられながら登り続けて、正午ごろ、ようやく現場にたどりつく。
「着いたぞ。ここだ」
「ああ……」
パウファがため息をもらした。森の中の一角に、そこだけ木の生えていない場所が開けていて、上から陽の光が射し込んでいる。一面に背の低い草が生えていて、緑のじゅうたんを敷き詰めたようになっていた。
「美しいところですね……」
「そうだな……さて、飯にするか」
その辺りの岩に腰を下ろして昼食をとる。食べ終わると俺達は立ち上がり、緑のじゅうたんに足を踏み入れた。
「ちょっと待っててくれ」
「はい……」
俺は手袋をすると、草むらをしばらく探し回った。そして大きな三角形の葉を付けた草を1本ナイフで刈り、パウファのもとに持って帰る。
「これが、今回採取するシキタリ草だ。同じものを見つけて刈ってくれ」
「かしこまりました。ドクス様……」
パウファも手袋をする。そして2人で薬草を刈り始めた。草むらにはそれなりに虫がいたが、パウファはもう気にならなくなったようで、黙々とナイフをふるっている。
そうしているうちに、ほかの冒険者もちらほらとやってきた。大体は年配か、若い駆け出しといった感じの冒険者だ。おそらく、俺達と同じように薬草取りの依頼を受けてきたベクベホの冒険者だろう。彼らとあいさつを交わし、さらに作業を続ける。
そして太陽が少し西に傾きかけた頃、俺はカゴ一杯のシキタリ草を採集していた。手を止めてパウファに呼びかける。
「そろそろだな。どれぐらい採れた?」
「はい。これだけ……」
パウファは自分のカゴを俺に見せる。そこにもかなりの量のシキタリ草が入っていた。俺が採った分と合わせれば、依頼された以上の数だ。
「ずいぶん採れたな。やるじゃないか」
「ありがとうございます。ドクス様……」
パウファが微笑んだ。決められた数を依頼主に納めた後は、冒険者ギルドを通して残りの薬草を売りに出せる。買い手が付けば、俺達の臨時収入になるというわけだ。これからもパウファに手伝ってもらえるなら、早めにロズリゴ王国までの路銀をかせげるだろう。
「それじゃ帰るか。今から下りれば、日が暮れる前にふもとに着くから」
「はいっ!」
俺達はそれぞれ自分のカゴを背負う。見ると、ほかの冒険者達も帰り支度をしていた。せっかくなので、彼らと一緒にベクベホまで戻ることにする。
そして山を半分ぐらい下ったとき、下の方から数十頭ものモンスターがこちらに突進してきた。先頭には、3つの首を持った黒い巨大な狼のようなモンスターがいる。冒険者達は口々に叫んだ。
「うわああああ! モンスターの集団暴走だ!」
「まさか、この山にモンスターが出るなんて!」
「クソ強Sランクモンスターのケテルケルベロスが先頭にいるぞ!」
モンスターの群れはどんどんこっちに迫ってくる。道の片側は岩壁、もう片側は崖になっていて逃げ場はない。冒険者の何人かが前に出た。
「くそっ! やられてたまるか!」
彼らは呪文を詠唱し、攻撃魔法を放った。光や炎、水の帯が宙を走り、モンスターの群れに吸い込まれていく。直撃を受けた何匹かのモンスターの足が少し鈍ったが、大半はそのまま突っ込んできた。
「や、やっぱり駄目だ……全く通じない!」
「先頭以外も、かなりの高ランクモンスターだぞ!」
「終わりだ……俺達はここで死ぬんだ……」
冒険者達が悲痛な叫びを上げる。俺は前に出ると、呪文を唱えた。
「走指生育!」
説明しよう。走指生育とは草木の精霊を誘導して、植物を一時的に好きな方向へと生長させる技である。道の片側から1本のつるが伸びて来て、太さを増しながら道を横断した。つるの先端は、道端の太い木の根元にからみつく。
「GYAUUU!?」
先頭を走ってきたケテルケルベロスがつるに足を引っかけ、派手に転倒した。そのまま勢いが止まらず、崖の下へと転がり落ちていく。後から続くモンスターもつるを避けることができず、次々と転倒しては崖の下に落ちたり、岩にぶつかってそのまま動かなくなったりした。
動いているモンスターがいなくなったところで、俺はつるを元の大きさと位置に戻し、別の魔法を発動させた。
「中級火炎圏!」
俺の手のひらから火炎が放たれ、道の上に残ったモンスターを焼き払う。かわいそうだが、この山にモンスターがいないと信じて登っている人が他にもいるかも知れない。目を覚ましたモンスターに襲われる危険がある以上、止めを刺さずに放っておくわけにはいかなかった。
「とりあえず片付けたけど、暴走モンスターがまた来るかもしれない。今のうちに行こう」
俺が振り返ってうながすと、冒険者達はうなずいた。俺達は足早に山を下りていく。ふもとに近づいたところでパウファが言った。
「ドクス様……わたくし、またドクス様に命を救われました……」
「いや、同じパーティーだから助けて当たり前なんだが。ていうか、何とかしないと俺も危なかったし」
説明しても、パウファは顔を赤らめて俺の方を見たままだった。そして、一緒にいる冒険者達も口をそろえて俺をほめたたえる。
「そうだ! 俺達もあんたのおかげで命拾いした!」
「お前がいなかったら、俺達みんなモンスターの餌食だったぞ!」
「クソ強モンスターの大群をあんなに簡単にあしらうなんて、聞いたことありません!」
「「「わっしょい! わっしょい!」」」
あーあ。こうなりたくないから薬草取りの依頼を受けたんだけどなあ。やれやれ。




