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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

蔵品大樹のショートショートもあるオムニバス

人消し屋

作者: 蔵品大樹

奇妙な世界へ………………

 僕は結城譲二。家族からは敬遠され、同級生にはいじめられている、恐らく世界一不幸な学生である。

 先程も言った通り、同級生からいじめられている。そのいじめのリーダーは酒井伸哉。酒井は、小学校からの仲だ(とはいえ、良いって訳ではないが)。

 酒井は小さな頃から、小学校、中学校、高校と、何が原因なのか、いじめてくる。勿論、教師に言おうとした時もある。しかし、酒井は学級委員で、教師に、信用があり、『わかった』と、言いつつ、注意もせず、逆にいじめは高まった。クラスメートが注意する事もあったが、そのクラスメートも酒井達のいじめを受け、今では不登校だ。なので、クラスメートは一人も助けてくれない。

 家族の方は、先程も言った通りに敬遠されている。どうやら、『会社を継がせられるような器』では無いらしく、村八分ならぬ、家族八分を受けている。いじめの事も聞いてくれず、食事はまともにすらとらせてくれやしない。更に、父は大手総合商社の『結城社』の会長で、警察に事情を話しても、まともに取り合ってくれない。

 このように、僕は最悪の人生を送っている。

 ある日、僕は帰路についていた。学校では、靴の中に画鋲を入れられ、階段から突き落とされそうになり、別れ際に耳元で『二度と学校に来るな』と言われた。正直言って、僕はもう限界であった。

 僕の家は結構大きい方だ。正に、3人家族が悠々と過ごせるような家だが、僕が入れることを許されている部屋は、自室とトイレ、風呂場、洗面所、リビングだけだ。

 「ただいま…」

 リビングに入ると、両親は居なく、代わりに置き手紙が1枚あった。

 『譲二、今日は結婚記念日だから母さんと飯行ってくる』

 僕はその紙をくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に捨てた。

 「くそっ!なんだってんだよ!」

 僕は思わず叫んでしまった。いつもなら落ち着くだろうが、いじめの事もあるのか、何かムシャクシャしていた。

 僕はそのまま自室に入り、ベットに乗り、スマホの電源を入れた。すると、メールが一件来ていた。

 「何だこれ?」

 疑問を抱えながらも、そのメールを開く。そこには怪しげなURLが貼られていた。そして、そのURLを僕は興味本位で押してしまった。

 すると、スマホがブラックアウトし、徐々に文字が出てきた。

 『人消し屋 無料であなたの周りの人を消せます 電話番号は…』

 僕は『人消し屋』という単語に驚いた。しかし、これが今の僕に案外必要なのかもしれない。

 僕はそのサイトに載っていた電話番号を掛けた。すると、朗らかな男の声が流れてきた。

 「どうも、人消し屋です。あなたの消したい人はなんですか?」

 「おおぉ…」

 本当だ。本当に人消し屋だ。

 「あのぉ…消したい人は…」

 「あっはい!」

 僕は誰を消すか迷う。そして、ある一人の男にたどり着いた。

 「あの…酒井伸哉という男を消して欲しいんですが…」

 「はい。わかりました」

 すると、電話が切れた。

 (本当に、人を消してくれるんのだろうか…?)

 そう疑問を思いつつも、そのまま寝た。

 次の日、僕は自分が貯めていた菓子パンを朝食として1個食べ、学校に向かった。

 教室につくと、何か、違和感を覚えた。誰か一人足りないような、まさに、パズルのピースが1つだけない。そんな感じだった。

 試しに、友達の緒方に酒井のことを聞いた。

 「おい、緒方」

 「ん、あぁ、どうしたよ結城?」

 「酒井って、今日、休みか?」

 「えっ…酒井?誰だよそいつ、そんな奴クラスに居たか?」

 「えっ?2の1にいただろ」

 「何いってんだお前」

 何故だ?何故、緒方は酒井を知らないのだろうか?

 時間になり、このクラスの教師の布施敦弘先生が来た。

 「みんな、おはよう」

 「おはようございます」

 「声が小さい!もっと出さねぇか!コノヤロー!」

 「おはようございます!」

 「よし!今日も一日がんばっていこう!」

 このように布施先生は昔気質のような男で、皆はうんざりしていた。無論、自分も例外ではない。

 「ん、今日はみんな来てるな」

 (えっ?)

 僕は布施先生の言葉に驚いた。

 「(いや、そんなまさか…)先生、酒井くんが来てませんが?」

 「はぁ?誰だよ酒井って?おい、結城、テメェ、放課後10キロ走れ!」

 「す、すいません」

 僕はこの時点で察した。

 (まさか…酒井の事を自分以外、皆が忘れている?)

 お昼休み、僕は家から持ってきた菓子パンを静かに食べていた。それをすべて食べ終え、袋を捨てようとしたその時、その袋の上に五百円を置かれた。驚いて顔をあげると、そこには酒井の腰巾着であった、島根充がいた。

 「おい、結城、この金でパン買ってこいよ」

 「えっ…(この世界でもコイツはいじめっ子か…)」

 「はぁ?殴られてぇのか?」

 「わっ、わかったよ」

 僕は島根の気迫に押され、仕方なくパンを買った。

 「ど、どうぞ…」

 「おう、ありがとな、これは…感謝のパンチだ!おらよっ!」

 すると、島根は僕の腹にパンチをした。

 「うげっ!」

 「へへっ、雑魚を殴るのは気持ちいなぁ…」

 島根はそこから去った。そして、残ったのは、見て見ぬ振りをするクラスメートと恨みを持つ僕だけだった。

 放課後、部活動の為に、僕は体育館に向かっていた。すると、肩を触られ、後ろを振り向く。そこには、布施先生がいた。

 「よう、結城」

 「せ、先生…どうしました?」

 「お前、約束、忘れてないよなぁ?」

 「えっ、今から僕、部活なんですが…」

 「あぁ、それならお前の部活の顧問の日村先生にちゃんと言ってあるからな。安心しろよ」

 こうして、僕は仕方なく、布施先生の言われた通りに校庭のトラックを10キロ走る事になった。

 数分後。

 「ハァ…ハァ…ハァ…」

 「よし!結城、よく頑張ったな。でも、これで足りると思うなよ。明日も、走るんだぞ。10キロ」

 そう言うと、布施先生は校庭を去った。

 「ハァ…もう…帰ろう…」

 教室に向かい、そこに入ると、何故か島根とその仲間であろう二人の男が、島根は彫刻刀、あとの二人は鉄パイプと金バットを持って僕の机の所に待ち構えていた。

 「な、なんだよ…」

 「おぉ〜来たかぁ、ユーちゃん」

 僕は何かを察し、机の所に向かう。すると、そこには、『シネ!』『ナクナレ』『おバカなユーちゃん(笑)』等と書かれていた。

 「な、なんてことを…」

 「へっ、お前の顔を見ると、正直言って、ムカムカしたんだよ!だから、その腹いせに…だ」

 「あ、あぁ…」

 僕は声も出せずに膝からくずれ落ちた。ゆっくりと顔を上げると、島根の仲間の一人が、鉄パイプを振り上げていた。

 「オラッ!」

 僕は咄嗟に手で顔を守り、鉄パイプは左腕に当たった。

 「うわっ!」

 僕は腕が痛く悶てしまう。

 「お前ら、殺れ」

 すると、二人は鉄パイプと金バットを振り上げた。




 数分後、僕はボコボコになっていた。意識はまだあるものの、痛みはまだ残っている。歯も抜かれ、痣も何個かできた。体に鞭打って立ち上がると、机の端っこには、『島根充 福島大河 千葉雅』と彫られていた。

 頭の中には指を指し僕を笑う例の3人。そして、奥からは幽霊のように自分の周りを動き、煽る布施先生がいた。

 そして、ポケットからスマホを出し、あの番号に電話を掛けた。

 「はい。人消し屋です!」

 相手は変わらず朗らかな声の男だ。

 「あなたの消したい人は誰でしょうか!」

 「あの、複数人は出来ますか…?」

 「はい!」

 「では、布施敦弘、島根充、福島大河、千葉雅を消してくれ」

 「はい。わかりました!」

 電話は切れ、僕は家に帰ることにした。

 家に帰り、リビングに入る。そこには置き手紙があった。

 『譲二、今日から一人で暮らせ。電話は掛けるな』

 今、体の中の何かが切れた。僕は震える手でまたあの電話番号に電話を掛けた。

 「はい、人消し屋で…」

 「結城明、結城花…そして…結城譲二を消してください」

 「はい。わかりました」

 すると、電話は切れ、僕は頭のネジが外れたのか、笑い始めた。

 「フッ、フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、ハッハッハハッハッハハッハッハハッハッハハッハッハハッハッハハッハッハ」

 家には笑い声が響き、急に静まったかと思うと、急に倒れ、意識を無くした。






 「きて…きて、起きて!譲二!」

 「起きろ!譲二!」

 俺は病院のベッドで目を覚ました。そこには、両親と医師、看護師の姿があった。どうやら、僕はいじめに耐えられずに、学校から飛び降りたらしい。

 「よかった…よかった…」

 「あぁ…よかった…」

 「いえ、この子はあなた様の息子。当然死なせる訳にはいけません」

 そう言うと、医師と看護師は病室から出て行った。

 「まったく!何をしてくれるんだ!このバカ息子!」

 「そうよ!あなたが死んだら、私達が虐待をしている事がバレちゃうじゃないの!」

 「うん…ごめん…」

 「次、こんな事なんかしたら、事故死に見せかけて、毒殺してやる!」

 そして、二人は出て行った。

 「そうか、全ては夢か…」

 僕はそうポツリと呟いた。

 数週間後、退院し、学校に行くと、そこには僕の姿を見て笑う、酒井と島根がいた。

 「なんだよ〜!生きてたのかよ〜!」

 「へっ!死ねばよかったのに!」

 「お前ら、席に座れ!」

 すると、布施先生の叫び声が聞こえ、僕達は席に座った。

 「おい、結城、事故欠で休んでだからといって、甘えんじゃねえぞ!」

 「はい…」

 布施先生の叫びに僕はそう答えるしかなかった。

 家に帰り、扉を開ける。勿論、両親はいない。

 自室に入り、スマホの電源を入れた。すると、メールが一件来ていた。メールを開き、そこに載っていたURLを押した。そして、そこに載っていた電話番号に電話を掛けた。

 相手は朗らかな声の男だ。

 「どうも、人消し屋です!あなたの消したい人はいますか?」

 「はい…酒井伸哉と…」







 この日も、人が消えていく。

 まるで、蚊取り線香の煙のように。

 まるで、熱せられた氷のように。

 まるで、すぐに飲み干された飲み物みたいに。

読んでいただきありがとう御座いました…

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