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怪しい者ではごじゃーせん

 ハチ、キン、ギンの三人が悲鳴のもとへ到着すると、そこでは結月という少女が部屋の入り口に背を向けお祓い棒でタマをポカポカ叩いていた。

 対するタマは丸くなって割とガチトーンで「痛い!痛い!」と叫んでいる。

 傍から見ると大して痛くなさそうな絵面ではあるが、お祓い棒の不思議パワーが働いているのだろうか。

 そんな光景を三人とも呆然として見ていると、タマが三人に気づいた。


「にゃーー!!お前ら見てないでたすけろにゃ!」


 タマの必死な救援要請にハッと我を取り戻し、結月を宥めにかかる三人。


「お、お嬢さん?ちょっとその猫を殴るの止めてくれませんかね?」

「あ、あのー、落ち着いて?ね?」

「暴力良くない」


「ーーえ?」


 と、そこで初めてタマ以外のケモ耳たちを認識した結月。

 数秒固まった後、脳の処理が追いつかなかったのか気を失いパターン!と倒れた。タマの上へと。


「グェッ」

「大丈夫か?」

「全然大丈夫じゃにゃい」


 キンとギンが結月を布団の上へ寝かせて、ハチがタマの手を引いて助け起こす。

 叩かれていた部分をさするタマを見て、そんなに痛かったのか?と疑問に思うもまずは脱出だと頭を切り替える。

 丁寧にも掛け布団を結月にかけていたキンとギンに、急いでここから出た方がいいと言おうとした時にはもう時すでに遅し。


「私の娘に何をした?」


 背後、部屋の入り口から聞こえてきた地獄の底から響いたような声が四人に突き刺さる。

 恐る恐る顔を向けるとそこには、般若もかくやという表情の男性が何枚ものお札を構えて立っていた。


「「「「ヒェッ!」」」」


 あまりの鬼気迫る男性の様相に完全に怯えてガクブルで抱き合うキンとギン。

 先のお祓い棒アタックがトラウマになっていたのか、お札を見て尻尾の毛と髪をブワッと逆立てて警戒しているタマ。

 なんかもうどうしたらいいのかわからず、ワタワタするハチ。


 そんなひどい様子を「答える気は無い」ということだと判断した男性が、いつでもお札攻撃(?)をできるよう構えつつ一歩近づいた。

 するとあまりの危機に一周回って冷静になったのか、ハチが男性に大して説得を試みた。


「ア、アタシたちは怪しい者ではごじゃーせん!!」


 冷静には慣れていなかったらしい。

 噛み噛みになっているし、先の男性の質問の答えにもなっていない。

 何よりも、ケモ耳と尻尾が生えているし不法侵入ーーしかも結月の部屋で当人は気を失っているーーまでしている時点で怪しくないというのは無理がすぎる。


「怪しくないだと?…ではなぜ結月が倒れている?」

「ひぃっ…!」


 やはりというか結局信じてもらえず、火に油を注ぐ結果となってしまった。

 お札を放つ三秒前といった気迫で迫られて、情けない悲鳴をあげて震えるケモ耳。


「娘さんは気絶しているだけなんです信じてくださいというか目の前で倒れられてアタシもびっくりしてよくわかんないんですー!」

「…ふむ」


 男性が結月の方へ視線を向けると、布団が微かに上下していて呼吸をしているのがわかった。

 それで少しは信じてもらえたようでお札を引っ込めてくれた。

 といっても袖の下に隠しただけなので、またすぐに取り出せるようにはしているらしい。


「ほっ…」

「ギン、大丈夫だった?」

「うん。お姉ちゃんは?」

「大丈夫…じゃないかもー。足に力が入らないよ」


 危機は去ったとばかりにペタンと座り込むキンとギン。

 自然と強張っていたらしく、気が抜けたと同時に力も抜けたようだ。


「ふしゃーーー」


 タマはまだ尻尾をピーンと立てて警戒している。

 流石は猫である。


「……!」


 ハチは達成感やら先程までの恐怖やらで頭がまとまらず、何故か泣きそうになっていた。

 よく頑張ったので泣いていいと思う。


 ケモ耳たちがそれぞれの反応をするなか、男性は娘の容態を見るべく布団の横に座り、顔色を確認したり額に手をのせていた。

 直接危害を加えたわけではないが、気絶した時にその場にいたため、悪いことをしたような気分になりソワソワとし始めるケモ耳たち。

 信号渡る時にパトカーが目の前にいると何もしていないのにやたらドキドキするようなあれである。


「気を失っているだけだな」

「そうなんだよ!アタシたちは何もしてないんだって!」

「…お前たちはなぜここにいる?何が目的だ?」


 結月が無事であることを確認した男性が立ち上がり、四人のケモ耳を訝しげに見る。

 その視線にたじろぎつつもキンとギンが説明する。


「私たち一週間程前にここの神社の境内で遊んでいたらいつの間にか気を失ってしまって…目が覚めたらこんな耳が生えてたんですけど、人間なんですよ」

「一週間この家にお世話になりました」


 ざっくりと質問に答えるキンと一週間この家に不法侵入していたことをオブラートに包んで話すギン。


「嘘をついても無駄だぞ。それだけ妖気を纏っておいて人間だと?いや、答える気がないのか」


 スッと袖口からお札を取り出す男性。

 ヒェッと怯えるケモ耳たち。

 もはや出来の悪いコントである。


 しかし、先ほどまでとは異なり意を決したような顔をしたハチが一歩前に出た。

 何をする気だと皆んなが注目する中、彼女は日本に古来より伝わる謝罪や請願の意を表す最大級の礼をした。人はそれを土下座という。


「不法侵入してすいませんでした。でも神社は割とボロボロだしこの家もずっと留守だったから空き家なのかと思ってたんです。わざとじゃないんです。許してください。あ、あとアタシたちをここに住まわせてくださいお願いします」


 皆んなが「…え?」となる中、彼女は怯んだ様子もなく、いっそ清々しい程に謝罪と要求を口にした。

 だがその口調には抑揚がなく、ブツブツと呟く姿は不気味であり、どうやらかつてない状況に頭がおかしくなってしまったようだ。

 普段の彼女であったならばこの状況でこのようなことは決して言わないだろう。


「お姉ちゃん、ハチが壊れた」

「どうしよう…これ怒られちゃうかな?」

「……ぷっ、くくっ…ふっ」

「タマ、笑っちゃハチが可哀想だよ」


 ハチを心配しているのかバカにしているのかよくわからないことを言うケモ耳たち。

 これは畜生の諸行である。総督閣下のように叫んでもいい場面だ。


 一方土下座をされた側の男性だが、この中で一番困惑しているのは彼だった。

 娘と神職としてのお仕事で一週間の出張が終わり帰宅してみたら、部屋へ向かった娘の悲鳴が聞こえて向かってみればケモ耳を生やした四人の少女が居たのだから。

 しかも一週間ずっとこの家で暮らしていたというのだから驚きも驚きだ。

 彼は仕事で妖怪を退治することがあるのだが、目の前のケモ耳たちからも妖気という妖怪がもつ力を感じる。

 だが、彼女らからは邪気というものが全く感じられないのだ。

 そもそもこの家には邪気を持つ者を拒む結界が張られており、その結界も問題なく働いていることは確認済みである。

 まだ完全に信用することはできないが、話しだけでも聞いてみてもいいんじゃないかと思い始めた。


「そうだな…こちらの条件を飲めばここに住ませてやろう。ついでに不法侵入や結月についてのことも許してやらんこともない」

「本当ッスカ!?」

「あ、ハチおかえり〜」

「条件?」

「やめて!ウチに乱暴する気でしょ!エ○同人みたいに!エ○同人みたいに!」

「おい猫娘。結月の前でそういうこと言うんじゃねえぞ?」

「ごめんなさい。お約束かと思ったんです」


 寝ているとはいえ結月の前でそう言うことを言ってほしくないという父親心全開の睨みを効かせる男性。

 復活したハチ含め全員から「何してんだこいつ」的な視線がタマに集まる。恥ずかしいやつである。


「それで、その条件っていうのはどんなのなんだ?」

「それはだな…」


「ごくり」

「それ口で言っちゃうんだ」

「アホっぽい」


 ふざけているようでこういう事態が初めてのケモ耳たちの内心は緊張や不安でいっぱいだった。

 そして、ついに男性の口から条件がつげられる。


「神社の仕事や雑用を手伝ってもらうことだ」




「「「「な、なんだってー!」」」」

ハチ「タマってなんでそんなニャーニャー言ってんの?」

タマ「わざとじゃないし!勝手にそうなるんだし!」

ハチ「そうにゃのか」

タマ「バカにしてる?…あ、でも煽る時はわざとだよ。当たり前だよね」

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