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07. 主席の少年は目立たないように努力する

入学式を控え、初めて入る1年Aクラスの教室の自席で、ユリアンは机に突っ伏して悩んでいた。


何故僕が・・Aクラスなんだろう??

何故僕が・・主席?なんだろう??


入学試験で非常識な魔法をぶっ放し、現職の騎士を相手に剣技で終始圧倒、筆記試験も上位の成績。

第三者から見れば明らかな、そして他を大きく引き離す主席合格だ。


しかしユリアンから見れば全く認識は異なる。


(使えもしない大魔法を放つも案の定コントロールできず、大災害を引き起こす)

(レベルの差とスキルの差のみに頼った、流儀も型もないまるで芯のない剣技)

(筆記試験の成績はリリーに大きく差をつけられて惨敗)


うん、やっぱりおかしいよ。

よし、せめて主席は辞退しよう。できるのかな?

とりあえず絶対に目立ちたくない。出だしが肝心。安らかな学校生活を送るんだ!



ガラガラ。


「はーい?1年Aクラスのみなさん?集まってるかしら?」


引き戸を開けて入ってきたのは、20台中盤と思われる「妖艶」という言葉がぴったり当てはまる美女。

金髪の長い髪はゆるいカールを含み、胸の襟元を大きく開いてボディラインをそのまま強調する着こなし。


クラスの男はほぼ全員、もちろん僕も含めて、一瞬で見惚れた。


「これだから男ってのは・・・ったく」

目を細めて首を横に振るのはリリー。筆記試験はトップ、魔法実技も高評価だったので当然のAクラスだ。


「んー?みんなが目をつけるほどあいつ強いのか?」

やっぱりカイは強い弱いしか興味がないようだ。

剣技実技は高評価、あの校長も唸るほどの立ち回りだったようで、Aクラス入り。

筆記試験は惨憺たる結果だったのだが・・・剣技の見事さが突き抜けていたため、お目こぼし頂いたようだ。


「はいはーい?静かにしなさーい?みなさーん?」


教壇に立った美女は、美しい声とおっとりした口調で、男だけが騒がしいクラス全体に呼びかける。

見た目の激しさとおっとり口調のギャップが凄いなあ。


「はいはい!先生!彼氏はいるのですか!?」

大きな盾を横に抱える20歳くらいの青年が立ち上がり、大きく明るい声で美女に問いかける。


(いるんだよね、こういう調子いいひと。僕には一生無理だなぁ)

僕が軽蔑と尊敬を半分ずつ混ぜた感想を抱いていると。


「あ”?誰が発言許した?調子コイてんじゃねえぞクソガキ?」

「・・・!!!」


表情と口調が豹変した先生の言葉を受けた盾青年は、コカトリスの石化の呪いでも受けたかのように立ったまま動かなくなった。


「はーい。みなさん?じゃ自己紹介するわね?」


その石化の呪いは、また表情と口調が戻った今の一言で更に強調され、教室全体を確実に侵食してゆく。

キャラの振れ幅が・・・いろいろ大きすぎる・・・。


「リタ=オルロープよ?今日からこの1年Aクラスの担任。みなさんよろしくね?」


発言が許されていない。

だから誰も返事ができない。何も喋れない。

先生、許可をー。と全員が心の中で叫んでいたとき。


「リタ先生、でよろしいのかしら?」


いかにも貴族令嬢、という装いと立ち振る舞い。貴族様は強いなあ。

しかしクラス全員が硬直を始める。マズい。また石化の呪いが来るぞ・・・。


「ええ、それでいいわよ?貴女は?」

「ローゼマリー=ティルピッツと申しますわ。以後お見知りおきを」

「よろしくね?ローゼマリー?」

「ふふっ。貴族同士、やりやすいですわ。仲良く参りましょう」


あれ?石化攻撃が来なかったぞ?

それよりも、あのローゼマリーという美少女?美令嬢?は見たまま貴族だけど、先生も貴族なのかな。

そういえば先生の自己紹介に姓があったね。まあそういうことなんだろうね。


「うーん?これから入学式に向かうんだけど?ユリアンはいるかな?」

「ひゃ、ひゃい!」

コカトリス、じゃなくてリタ先生からの突然のご指名にまたしても噛み倒してしまう僕。


「ユリアンは主席だからね?代表挨拶お願いね?」

「・・・ひょい!?」

更に変な声を出してしまった僕は、猛然と抗議を開始する。


「リ、リタ先生様、ぼ、僕の発言は許可していただけるものだったりするのものでございましょうか?」

どうやら意味は通じたようで、

「ユリアン、みなさんも、先生に無礼な発言じゃなければいつでも大歓迎よ?」


なるほど、さっきの盾青年の質問は無礼だった、ってことだね。

挨拶もなくプライベートを聞いたからかな?

それとも彼氏の話だったからかな・・・深く追求するのはやめたほうがいいよね。


「で、では、僕は主席には相応しくないと思いますので、辞退しますっ」

「はい、却下です」

瞬殺された。


「リタ先生、どうやらこの殿方が主席なのでしょうけれど、平民ですし、なにより品がございませんわ」

「うぐっ・・・」

「代表挨拶は子爵令嬢のわたくしが代わって差し上げてもよろしくてよ?先生」

子爵かぁ・・・凄さがよくわかんないや。

でもこのお嬢様が挨拶を代わってくれたら嬉しいはずなのに、何か悔しいな。まあ否定する言葉も材料もないんだけどね。


「ローゼマリー、聞いてくれる?この騎士学校はね?実力がすべてなのよ?」

「もちろん存じ上げておりますわ。しかし最低限の品位は王国騎士に不可欠でしょう?」

「そのとおりよ?だからこの騎士学校で学ぶのよ?入学時の品位は問題じゃないのよ?」

「ではリタ先生、貴女はそこの水色の平民の挨拶より、わたくしの挨拶が劣るとでもおっしゃいますの?」


あー。なるほど。これが噂に聞く貴族の思考回路なんだね。

優劣と上下関係を最重要視する。大変な方々だよね。ちょっと同情しちゃう。


「ふぁああぁ。どうでもいいだろーんなことはよー」

大きな欠伸と共にカイが痺れを切らした。

「早く外で訓練しようぜ!俺が弱くなっちまうよー」


さすがのカイクオリティ。ブレない。曲がらない。


「・・・うふふふ!きゃははは!」


リタ先生の突然の嬌声に、ローゼマリーも含めてクラス全員ぎくりとなる。


「そうだよなぁ小坊主!てめぇいいこと言うじゃねえかよ」

来た。石化攻撃だ。

「おいお前ら。ここは騎士学校だ。こんなこと言い争ってる時間が勿体無えんだよ」

「お前らはとっとと強くなって魔獣でも魔族でもまとめてぶっ殺してくる使命があんだよ」


「おう!リタ先生!もちろんそのつもりだぜ!」

「よし。代表挨拶はお前だ、小坊主!」

「任せとけ!俺の気持ちぶつけてくんぜ!」


うおらぁぁぁ!と入学式会場の講堂に向けて教室を飛び出していくカイ。

満足そうに微笑むリタ先生と、あっけにとられているローゼマリー。固まっているみんな。未だ立ったまま石化している盾青年。


「さあ?みなさん?そろそろ時間ですよ?講堂に向かいましょうか?」


コカトリスは去った。

3年間、僕はこの学校でやっていけるのかな・・・。



「俺は!騎士になって!強くなって!誰よりも強くなる!そして!世界最強になるんだ!」

「おいユリアン!今はお前のほうが強いけど、負けねえからな!」

「あとここにいるお前ら!先生も!俺より強いやつは勝負するぞ!」

「最初は俺が負けるけどよ!次で絶対に勝つ!最後は俺が最強になる!」

「以上だ!」



「がっはっは!実にいい挨拶だ。そうは思わんか?」

「校長。よろしいのですか?彼は主席ではないのですが」

「よいよい。あれが今年の1年生の総意、ということだ。見てごらん、上級生の顔を」

「殺気立ってますね・・・」

「ユリアンくんといい彼といい、今年は楽しみが多いな、アメリア」

「楽しめる程度で済めばよいのですが」



その頃僕は、カイから急に名指しされてびっくりしてしまい、椅子からずり落ちる際、臀部の中心付近に椅子の角による刺激が発生。

「はふぅっ」

などと言う声が周りに気付かれ。

目立たないという目標は脆くも崩れ去るのであった。

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