03. レベルアップの考察と答え
「ユリアン、今日は夜独りでお留守番だけど大丈夫?」
朝食中、4歳年上の姉のレーアが心配そうな表情でユリアンに問いかける。
今日は家の日用品店で取り扱う商材について、街一番のモルトケ商会と商談がある。
「母さんとラルフ兄さん、レーア姉さんもお付きでパーティに出席でしょ?」
「そうよ。やっぱり私は残ったほうがいいかしら・・・」
「だ、大丈夫だよ!もう4年生だし、ご飯も母さんが作っておいてくれるし!お風呂も入れるし!」
今日の夜が来ることをユリアンは密かに楽しみにしていた。
せっかくの独りの時間がなくなるのは困るのだ。
(今日はこそこそしないで、こそこそできる!)
その日の夜、街の明かりもほとんど消えつつある頃、しっかり寝る準備を終えたユリアンはついに居間で夜な夜なを決行することにした。
「まだ父さんたちは帰ってこないはず!」
「よし!ついに!大胆に!豪華に!よし!」
謎のテンションの高さを保ちつつ、宝物である薄汚れた雑誌を床に広げる。
慎重にページを吟味して、「今日はこれだ!」
10秒後。「ほへぇ」
「僕はなんでこんなことしてるんだろぅ・・・。」
「あ!今みんなが突然帰ってきたらマズい!早く片付けなきゃ!」
いそいそと片付けをしていると。
『スキル<鑑定Ⅱ>を獲得しました』
え?本当に??
若干の気怠さ足元のふらつきを感じながら、早速。
自分に向かって<鑑定Ⅱ>!
名前: ユリアン
種族: 人族
年齢: 9
レベル:28
HP: 242
MP: 67
職業: 鍛冶士
スキル:鍛冶Ⅱ
鑑定Ⅱ
剛力Ⅰ
持久力Ⅰ
加護: クピドの加護
うわ!表示が増えた!
やっぱり鍛冶士なんだ・・・クピドの加護って本当なんだ。
じゃなくて!レベル!が!28!
つい20日ほど前と比べて、20もレベルアップしているのだ。
最近は苦手な懸垂や持久走、短距離走やボール投げ、剣技や格闘技もみんなについていけるようになっていた。
ついていけるどころか、生まれつきの圧倒的運動神経を誇るカイを徐々に上回るようになってきたのだ。
そういうことだったのか・・・
僕が急に眠れる才能に目覚めたわけではなかったんだね。そりゃそうだけど。
でもこれはおかしい・・・なんでレベルアップしてるんだろう?
そしてスキルが増えるタイミング、いつも寝る前なんだよね。
スキルが増えるってことは、たぶんその時にレベルが上がっているんだよ。
しかも最近は1日1回レベルアップくらいのペースだよね。
もしかして・・・枕?ベッド?に魔力がこもっているとか・・・。
いや違う、今日はまだ横になっていない。
この寝間着っていう可能性も・・・。
いや夕食?スプーンか?まさかお風呂なのか!
あ。夜な夜なしている趣味のせいかな・・・。
いや、そんなことはないよね。なんか悪いことをしている気はするんだけど。
あの趣味のせいだったら、きっと効率がいいレベルアップ方法として有名な話になるもんね。
みんなも夜な夜なしているのかわからないけれど・・・。僕だけ・・とかないよね?
加護: クピドの加護 <詳細>
あ、<詳細>ってのが見えるっぽいね。
加護: クピドの加護
効果:感度が上昇する
うん、知ってた。
クピド様、僕何か悪いことしましたでしょうか・・・。
◆
スキル<鍛冶Ⅲ>などというユリアン自身の将来設計上では無用なスキルを獲得しつつも、
見た目は可憐な少女、中身はマセガキなユリアンは今日も今日とて夜な夜な。
「少し減らそうとは思うんだけど」
「夜になっちゃうとね。どうにもね」
アルコール中毒のおっさんのような独り言を続けざまに吐きながら、
(今日は妄想だ!)
などとお風呂で始めるユリアン。
しかし10秒後。
「ほへぇ」
あわててお湯で流し、そういえば匂いは大丈夫かな?などと今更心配になっていると、
『スキル<鑑定Ⅲ>を獲得しました』
うわ!まさか!覚えるの??
早速、と思ったけど、お風呂の温度と湯気、水分不足と夜な夜なの火照りで失神寸前なユリアンは、急いでお風呂を出る。
自分の部屋に戻り、後ろめたさから兄や姉の気配を確認しながら、
<鑑定Ⅲ>!
名前: ユリアン
種族: 人族
年齢: 9
レベル:48
HP: 576
MP: 122
職業: 鍛冶士
スキル:鍛冶Ⅲ
鑑定Ⅲ
剛力Ⅱ
持久力Ⅰ
耐熱Ⅰ
加護: クピドの加護 <詳細>new!
うわ。レベル48だって。
この前こっそり見た父さんがレベル22。母さんはレベル16。ラルフ兄さんは11。レーア姉さんは7。
なにかちょっとマズいかな?大丈夫だよね?
<詳細>new!?ってなんだろう??
加護: クピドの加護
効果1:感度が上昇する
効果2:愛の行為のたびレベルが上昇する
あ・・・
見つけた・・・
これだ・・・
もしかして夜な夜なの趣味は、愛の行為、だったのか・・・な?
クピド様、あれで本当に大丈夫なんでしょうか。
少し寂しい気がするのは気のせいだと思う。
でもとってもスッキリした。
去年リリーにくすぐり対決で勝った時以来の爽快な気分だ。
今は全然勝てない・・・というか僕から触っちゃいけなくない?ズルいよね。
そっかーレベル上がっちゃうんだーそっかー。
しかも、もしかしたら邪悪で禁忌な行為、とか思ってたら<愛の行為>だったとは!
よしよし、僕は間違ってなかった。
今日は記念にもう一回!
次の日。朝の体操後に校長先生から、
「はい皆さん、明日は年に一度のレベル測定の日です」
マズい。本格的にマズいぞ。