表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/17

02. 謎のレベルアップ

ユリアンたちが通っている基礎学校では、勉強科目のほかに、体力づくりや剣技などを学ぶ実技科目も存在する。

<レベルアップ>や<スキル獲得>とは別に、無理なく全員の基礎の底上げをする教育だ。

魔物を倒して経験値を稼ぐなど、レベルアップを目的とした教育は、騎士学校など基礎学校卒業後の上位の学校で行う。


故に、基礎学校在学中はレベルがほぼ上がらない。卒業生の平均レベルは5~6程度だ。

ちなみに、王国騎士団員はレベル20を超え、騎士団長クラスになるとレベル30を超える猛者もいるとか。

これらは未だユリアンが知る情報ではないのだが。



「僕、今レベル8なんだ・・・なんで去年からレベルが5も増えてるんだろう?」

「あれ?鑑定結果に職業とスキルが表示されてないよ。やっぱり<鑑定Ⅰ>だからかな?」



去年のレベル測定で、ユリアンは鑑定士に言われたのだ。


「レベルは3、HPは31、MPは8、職業は鍛冶士じゃな」

「え・・か、鍛冶士?なのでしゅか?」

「うむ。スキルに<鍛冶Ⅰ>を覚えておる。使ってみるとよい」


思いもよらぬ結果に、ユリアンは噛みながら放心した。


この世界では、レベル3で天から与えられ、一生変わることのないその人の特徴を<職業>と呼んでいる。

<鍛冶士>は鍛冶に向いた<スキル>を獲得できる。

武器や防具の作成や修理に向いているはずだ。

もちろん実際は別の仕事に就いてもよい。

仕事の選択は自由だが、ある程度の人は与えられた<職業>に沿った生き方を決める。

仕事に有用なスキルを所持しているほうが何かと有利だからだ。


「僕が<鍛冶士>って・・・」


ユリアンの実家はマイスナーの街中で細々と営む日用品店だ。

父親の職業は<商人>、兄のラルフも<商人>。


「<商人>ではなかったのはしょうがない。でも、腕も細くて非力な僕が・・・」


そう、ユリアンは見た目どおり、とても非力な少女、ではなく少年だった。

勉強科目はそれなりに優秀だったが、実技科目の成績はクラス内で下から数えても片手の指で足りる。

力は弱く、走るのも遅い。スタミナはほぼゼロといっても過言ではない。

苦手な持久走では、運動がやや苦手なリリーにすら周回遅れをとる始末だ。


「そんな僕が鍛冶士・・・。熱い鉄をハンマーでずっととんてんかん・・・絶対無理だよ」


そんなことがあった去年のレベル測定後は、ユリアンはしばらく絶望に打ちひしがれた。

「たぶん別の仕事を目指すから、今となってはどうでもいいけどね」などと開き直るまでにはかなり時間がかかったのだ。



そしてもう一つ、去年の鑑定結果で言われたことがあった。


「ほほう!ちょい待ちなされ!ユリアンちゃんじゃったかな」

「お、男ですよっ」

放心しながらも聞き捨てならないセリフを吐いた鑑定士に、ユリアンは向き直る。


「おっとすまんの。ユリアンくん」

「とても珍しいと思うのじゃが、君には<クピドの加護>がついておる!」

「加護・・・ですか?クピド?」

「うむ。知っておろう?12の神のひとり。愛の神クピド様じゃ。加護など初めて見たわい」

「そ、それは・・・ど、どうなのでしょうか?」


「ええとな・・・<詳細>と。ああ、うむ。君は・・・敏感かね?」

「・・・はいぃ??」

「どうやら、敏感になるようじゃ」

「な、何がですか?」

「うーんとな。正確には、<感度が上昇する>、と書いてある」

「あはは・・・ごめんなさいノーコメントで・・・」


少年に思い当たる節はあり過ぎた。

(リリーに毎日くすぐられるのも)

(毎朝の武器屋のコンラートさんもわざとっぽいし)

(今日は廊下で先生に肩を叩かれたときに膝が崩れそうになったし)

(そして机の角とか・・・)


物心ついてからずっと悩んできた。やっとその原因がわかったのだ。


「クピド様・・・貴方のせいなのですか?・・・なぜ僕なのですか・・・」

「そしてその才能?を生かす仕事を考えると・・・男娼・・・とか?なの?」


「あ、そういえば、最近夜な夜なしている秘密の趣味、気持ちいいのにいつも10秒で終わっちゃうのも、そのせいなのかな?」

「たぶんだけど、10秒はダメな気がするんだけど・・・」



「よし、今日は20秒我慢する!いやいや慢心は敵だ。まずは15秒からにしよう!」


そして開始からやっぱり10秒後、いつもの恍惚と倦怠感が襲ってくる。


「ほへぇ」

「僕はなんで時間を延ばそうとかしてるんだっけ」

「クピド様がお決めになったんだから従えばいいんだよね」

「はぁ。明日の予定ってなんだっけ。寝なきゃね」


お手本のような賢者の時を過ごし、ベッドに潜り込もうとしたとき。


『スキル<剛力Ⅰ>を獲得しました』


「ん?」


そしてその5日後、寝る直前。趣味。「ほへぇ」。


『スキル<持久力Ⅰ>を獲得しました』


「んん?」



「よし!では懸垂はじめ!」

体育実技の先生が厳しい顔で命令する。


今日の実技科目は懸垂と持久走。

「僕が一番苦手な科目のダブルヘッダーだよ・・・剣を受け流すのは結構得意なんだけどな」


「ユリアンー無茶しないようにねー」

「僕だってぶらさがるくらいはできるんだからね!」


リリーの煽りにむっとしながら答えて、ちょっとだけ手が届かない低い鉄棒に向けてジャンプする。


(鉄棒を両手で掴んで・・・あれ?辛くない?)

(あれ?なんか身体を持ち上げられる気がするよ?)


少年は成し遂げた。生まれて初めて懸垂をした。だが・・・

「はぅ。はぅ」

明らかに変な声と共に、顔を歪ませながら続ける。まもなく連続30回を超える。


「ユリアン!なんでできるんだ!それはユリアンじゃない!誰だお前!偽物か!」

(カイ、わけがわからないよ)


「ユリアンー辛いなら無理しちゃダメよー」

(違うんだ。リリー)

(苦しいから声が出てるんじゃないんだ)

(擦れるんだ。どこかは言えないけど、懸垂するたびに擦れちゃうんだ・・・)




「休憩終わり!次は持久走だ。お前ら並べ!よーいドン!」

体育実技の先生は、ずっと変わらない厳しい顔で次の命令を下す。


「おらおらおらおらぁ!!」

いつも通りトップを独走するカイ。

2周目にして早くもユリアンを半周遅れに置き去る。


「今日もぶっちぎりだぜ!」

カイがそろそろ残り1周に達しようとするころ、よく見知った姿が彼の前を走っていた。

「リリー!お先っ!」

「はぁ。今日も周回遅れにされたかぁ。ほんとアンタ体力だけは尊敬するわ」


しかしカイは異変に気付く。

「あれ?まだユリアン抜いてねぇぞ?どこだ?」


不審に思う彼が後ろを振り返ると、半周遅れたところに、同じスピードで必死に走るユリアンの姿があった。


「ユリアン!だから誰だお前!顔がユリアンで足が違うのか!顔を奪ったのか!」


カイの理解不能な叫びを前方に聞きながら、目を真ん丸に見開いたリリーを周回遅れに抜きながら、


「あふっ。よくわかんないけどっ、レベルアップと<持久力Ⅰ>のおかげかなぁ」

「持久走も、擦れなければもっと早く走れそうなんだ、、、けど、、あっ」


と聞こえない声で呟きながら、


「懸垂も持久走もできるようになったけど、やっぱり苦手だ・・・」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ