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01. 夜な夜なの始まり

「ほへぇ・・・」


初対面なら誰しもが可憐な少女と思ってしまうであろう美しい顔がだらしなく歪んだのも束の間、


「またレベルを上げてしまった・・・」


即座に怜悧さを取り戻した少年の目の前には、昨日変装して購入した「王都の夜の歩き方完全ガイド」という男性向け娯楽雑誌が開いている。

刹那の快楽の後に襲い来るのは、脱力感と寂寥感。と僅かな後悔。


「この雑誌持ってるの誰かにバレたらどうしよう」

「明日のためにもう寝ないとね」

「なんで僕はさっきまで『今日は連続2回挑戦だー』とか思ってたんだろう」

「人生ってなんのためにあるんだろう」

「賢者様はいつもこんな心境であらせられるのかな」

「僕はこれから何をするために・・・」


少年の名前はユリアン。

水色のまっすぐな前髪が睫毛を揺らし、白魚のような指先で下着を直す。

ユリアンはベッドに潜ると、明日の国王陛下への謁見の予定を思い出し、儚げな双眸を閉じるのだった。



クラルヴァイン王国の西部に位置する、マイスナーという小さな街の朝は早い。


「学校行ってきまーす」

「いってらっしゃいユリアン。気をつけるのよー」


見送る母親に手を振り、食べきれなかったパンを咥えながら9歳の少年は駆け出した。


「寝過ごしたぁ。昨日遅くまで起きてたの失敗したなぁ」

学校への道を順調に走りはじめた、と思いきや、体力のないユリアンはすぐに早歩きに変える。

「はぁはぁ・・・やっぱり走るの・・・向いてないよ・・・」

「ふぅ・・・少し遅れても大丈夫だよね・・・たぶん」



「おう!ユリアン!今日はちょっと遅いんじゃねえか?」


会うたびに、頭をわしゃわしゃしたり肩をもみもみしたり背中をバシンっと叩こうとするのは、近所に住む武器屋のコンラートさんだ。

僕はこの人がとても好きで、そしてとても苦手だ。


(今日は肩だ!)


僕はコンラートさんの襲い来る手を読み切り、のけぞり、掻い潜りつつ、


「僕には触らないでくださいって、いつもいってるでしょ!いってきまーす」


コンラートさんはいい人だ。いつも明るく街のみんなに優しい。だから好きだ。お菓子もくれるしね。

でもとても苦手なんだ。そう。僕を触ろうとしてくる手が。

今日の肩もみもみをまとも受けると、僕は変な声をあげながら、恐らくその場に崩れ落ちる。


僕は誰かに身体を触られると、部位にもよるが、脱力したり逆に刺激を受けすぎたりする。あと変な声が出る。


つまり人一倍「敏感」なのだ。



そんな敏感なユリアンは、5日前に新しい世界への扉を開いた。


異変は以前から起こっていた。

学校での昼食後、いつものように教室を掃除をしていたときだった。

「あっ・・・」

偶然机の角が下腹部に当たったとき、ユリアンの全身に稲妻のような衝撃が走った。

「なに・・・これ・・・」

彼はさりげなく周囲を見回し、誰にも気付かれていないことを確認し、胸をなでおろす。


その日の放課後。


「ユリアン!帰ろうぜ!」

いつも明るく元気な幼馴染のカイが声をかけてくる。


「あ、今日はちょっと・・先生に呼ばれてて、はは・・・」

「んー?まあいいや!また明日なー!」


(あぶないあぶない。僕はさっきの不思議な現象を確認しなきゃいけないんだよ)


ユリアンは教室から全員がいなくなったことを確認すると、そっと机の角に自らを押し当てる。


「ひぅぅぅぅ!」


その日の夜。


ユリアン少年は、自宅の風呂場にて、新しく不思議で背徳的な世界を知ることになる。

なんとなく「いけないことかも?」などと思いつつも、夜な夜な行う新しい趣味を見つけたのだった。


「えへへ、今日もちょっとだけ・・・」


両親と兄姉が寝静まったことを確認し、おととい草むらの中で見つけた雑誌を服の中へ隠してトイレへ向かう。

開始から10秒経過後。


「ほへぇ」


『スキル<鑑定Ⅰ>を獲得しました』


「え・・?なんだろう??」



今朝ユリアンが寝過ごした原因は、昨夜覚えたスキル<鑑定Ⅰ>を明け方まで試していたためだ。

学校への道すがら、コンラートさんによる毎朝のランダム攻撃イベントをクリアしつつも、


「鑑定っ!」

『雑草:ぺんぺん草。』


「これも鑑定っ!」

『石畳:石で作られた舗装。』


「やっぱり情報少ないなぁ。スキルレベルがⅠだからかな?」

ユリアンは走りながら、このスキルの有用性に疑問を抱くのであった。



ユリアンが通うのは、国立基礎学校マイスナー分校。

先代の国王の教育施策により、クラルヴァイン王国全土に建てられた6歳から12歳向けの初等教育学校だ。

騎士、技師、商人、冒険者、どの道へ進んでも有用となる基礎学問と基礎体力を子供のうちに養う。

もはやなくてはならない、王国の発展と安定を支える国家の基盤である。


「間に合ったぁ」


ユリアンは4年生の教室へ滑り込むと、自席へ座り息を整える。


「おはよう。残念だけど全然間に合ってないわよ?」


遅刻少年に声をかけてきたのは、幼馴染のリリー。

ピンクの髪を後ろで纏めた美少女は、ユリアンに呆れた目線を向ける。


「まったく。朝の体操もう終わってるのよ?」

「あはは・・。おはようリリー」

「どうせ夜更かしでもしたんじゃないの?」

「え・・・そ、そんなこと、ない、よ?」

「へぇ。ユリアンは昔から嘘をつくのが下手だよね。正直になりなさい!ほらほら!」


リリーはユリアンの脇腹、首の付け根、弱い箇所をわきわき攻める。


「うへあっ!!ちょっ!!やめ!!むり!!それ!!」


傍目からは美少女同士がふざけあっている風にしか見えないが、ユリアン本人は切実だ。

日頃から、不意に首筋に息がかかれば腰が砕け、背中に抜けた髪の毛が入れば悶絶し、敏感エピソードには枚挙にいとまがない。


「へぅっ!!わか!!った!!言う!!言うから!!」


リリーが得意げに手を放すと、ユリアンは恨みがましい目を彼女に向ける。


「もうリリー!それやめてって何度も言ってるでしょ?」

「ふふん。嘘をつくユリアンが悪いのよ?」

「・・・昨日、新しいスキルをね、覚えたみたいで」

「ええっ!本当に??」


ユリアンはリリーに<鑑定Ⅰ>のスキルを説明する。

「うーん。なんか・・・微妙??」

「言わないでよリリー。今ちょっと落ち込んでるんだから」

「ごめんごめん。でもさ、鑑定ってスキルレベル上がれば凄い能力じゃない?」

「スキルレベルって上がるのかなぁ?」


「おっ!ユリアン!リリー!おっはよう!」


元気に教室に飛び込んで来た、笑顔が爽やかな黒髪短髪少年はカイ。

その無駄な元気さは、小さい頃にリリーと3人でよく遊んでたころから全く変わらない。


今日も大遅刻をしていることなど、カイ自身は全く気にしていないし、周りも諦めている。

脳筋一直線で、実技科目は断トツのトップ。他を寄せ付けない抜群の運動神経の持ち主だ。

そして、愛すべきバカだった。


「ねえねえカイ、聞いてよ」

「なんだ?俺より強いヤツでも見つけたのか?」

「ユリアンがスキル覚えたって」

「・・・うえ??マジかよ!?」


「うん、<鑑定Ⅰ>っていうんだけどね・・・」

「んー。微妙じゃね??」

「だよね・・・」


「・・ん?そういえばよ!毎年やるレベル測定ってあるだろ!あれ鑑定士のじいさんが<鑑定>使ってるよな?」

「そうね。たしかあれは<鑑定Ⅱ>ね」

「おお!ユリアン!すげえじゃねえか!あのじいさんと一緒かよ!」

「え・・・それ、褒められてるのかな?」

「あと、僕は<鑑定士>じゃないから、<Ⅱ>覚えるかなぁ?」

「そっか!ユリアン!お前<鍛冶士>だったな!うん、ドンマイ!」


(カイのやつ、僕が一番気にしていることを・・・)

(でも・・・そっか。<鑑定>って自分を鑑定できるのかな?)



ユリアンは家に帰ってから、荷物を下ろすと伸びを1回。

「よし、自分を鑑定してみよう!」

<鑑定Ⅰ>!


名前: ユリアン

種族: 人族

年齢: 9


レベル:8

HP:  52

MP:  21


「あれ??」

「たしか去年のレベル測定のときは、レベル3、HPも30くらいだったような・・・」

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