第9話〜異世界に響け!私の歌声!
アナザーワールドに来てから一週間。
厳しい修行を終え、心身ともに鍛えられたユウキが放つオーラはすでに尋常なものではない。
今なら元の世界ではできなかったこと、YO!tube生配信だってできそうなスペックだ。
水浴びしかしていないが艶やかさを失わない濡れ烏の黒髪。
張りと質感は全米が嫉妬するキメ細やかなもち肌。
衣服だけは元のままのサイズのため、高校のワイシャツのみというアブノーマル加減。
そして修業の成果で完全にコントロールできるようになった、鈴の音を転がしたような澄んだ声。
空は晴天、森の木々は雄々しく、透き通った泉は清涼で。
天辺に昇った太陽をスポットライトに。
観客はただ一人、ガイドフェアリーのシルフィー。
最高のコンディション、天然のステージで。
森はピンと張り詰めたように緊張が支配し、シンと獣も鳥も虫すらも息を潜める。
ユウキは一度伸びをし、スゥと息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
大丈夫、私なら出来る。
そんな心の声が聞こえてきそうだ。
そこら辺で拾ってきた木の枝をマイクに、大きく息を吸い込んだ。
「それでは聴いてください、『異世界転生したら呪われた件』!」
『キャー!ユーキさーん!!』
途端に森に喧騒戻り、まるで前奏のようにうねりを伴う。
ギャラリーの声援が場を盛り上げる。
森の興奮は最高潮に達しようとしていた。
木々のざわめきが、獣たちの唸り声が、鳥たちの囀りが、虫たちの鳴き声が、バックミュージークを生み出す。
今、ユウキは、妖精は、森は、獣は、鳥は、虫は、そこに在る存在の全てが一つとなった。
「………なんだ、これは」
ただ一人、そこを″偶然″通りかかった男を除いて。
「え?」
『え?』
「………。」
それがユウキと魔剣【鬼丸】の使い手、クニツナとの出会いだった。