第6話〜東洋の天使爆誕
「なんてことだ………」
ユウキの絶望にまみれた嗚咽が泉のほとりに響き渡る。
といっても声はまるで天使のように透き通り、心地よい音色となって空気を震わせるので、振り撒かれるのは絶望でなく希望の調だったのだが。
『えっと、元気出してください!ユウキちゃ………ユウキさん!とっても可愛いですよ!』
そしてシルフィーの一言が何気に彼の心を削り取っていった。
シルフィーの言葉は慰めでもお世辞でもない。
実際泉に映った彼?の顔はパッと見でもとても整っていて愛らしいものだった。
改めて泉に顔を映すユウキ。
そこに映るのは4、5才ほどの目鼻立ちの整った愛くるしい少女(ユウキは幼女とは認めたくなかった)。
丸びを帯びた柔らかな輪郭、眉にかかる程度の前髪に肩の辺りまで伸びた艶やかな黒髪。
涙で潤んだ大きな瞳は庇護欲を誘い、左目にある泣きぼくろが将来性に期待させる、東洋の天使がそこにいた。
彼は至ってノーマルだが、そちらの趣味の大人には全財産を放り出してでも手に入れたい、またはかしずきたい!と思わせるものが少女にあった。
というかユウキ本人だった。
「うぅ………しるふぃー、これ、どうにかならない?」
拙い発声器官のせいで区切らなければうまく発音できないため、より幼女らしくなってしまっていた。
『なにぶん【ギフト】は強力ですから………。もしかしたら性転換薬や見た目を変える装備でも変えられるかどうかも………』
深い絶望の渦がユウキを呑み込もうとする。
恨みがましくステータスを睨む(実際には上目遣いに潤んだ瞳を向けているように見える)ユウキだったが、ふとある項目で目線が止まった。
「しるふぃー、この【しゅじんこうほせい】ってなに?ぎふとはひとつしかもらえないんだよね?」
『ああ、それですか?それはユウキさんがもともと持っていたものですね。現段階でのステータスは生前のユウキさんの能力を引き継いでるので』
【ステータス】
名前:ユウキ=アベ
性別:♀
種族:人族
状態:幼女化(固定)
職業:
【HP:45】
【MP:30】
【攻撃力:25】
【防御力:20】
【魔法力:15】
【素早さ:35】
【幸運:50】
称号:
特殊スキル:【主人公補正】【幼女化の呪い】
耐性スキル:
通常スキル:【剣術Lv2】【悪運Lv5】【幼女化LvMAX】
つまりはこの【主人公補正】や【剣術Lv2】や【悪運Lv5】は元々ユウキに備わっていたものだということだ。
通常スキル【剣術】に関しては心当たりがあった。
彼は高校一年生の時には剣道部に所属しており、それよりも前から剣道は続けていた。
【悪運】に関しても心当たりがないでもない。
雪の日に横転した女性を助ければ一年後の同じ日に再会する、街角で毎回女性とぶつかりかける、身の回りに変人や超人が集まる、なぜか問題ごとに絡まれやすい、等々。
そんな日常を送るユウキに対して、身の回りの友人たちはよく「この主人公体質め」と笑いながら称したものだった。
「ところで、このLvって、いくつまであるの?」
『Lvは最大で5までです。Lv1で一般的な実力、Lv2で有段者レベル、Lv3でその道の指導者レベル、Lv4でその道の達人、Lv5は【剣術】で言えば【剣神】と称されるレベルですね。そしてそれすらも越えてしまうとレベル完ストと呼ばれるLvMAXになります』
「のろいが、かんすとしてるのか………」
神様扱いの更に上を行く呪いに、ユウキの心は嫌な音をたてて軋んでいくようだった。
『ガイドフェアリーである私たちは特別権限をいただいているので、詳細だけなら視ることはできます。ですが、さすがに世界の【法則】に干渉することは【禁則事項】です』
「ちなみに、この【ようじょかののろい】は、どんなこうかがあるの?」
『ちょっと待ってくださいね。………【幼女化の呪い:状態を幼女で固定する。スキル【幼女化】は全MPを消費することで特定の相手を【幼女化】することができる。ただし状態は幼女(仮)。【幼女化の呪い】の所有者は仮初めの不老不死を得る。経験値取得、レベルアップ時に補正が入る】』
【幼女化の呪い】は特定の状態(幼女)に固定される代わりに通常よりも能力値や成長に大幅な補正のある【特殊スキル】であるらしい。
『【主人公補正:通常では起こり得ないほどの微小な可能性を引き寄せる。【幸運】に大幅な補正が入る。スキル【悪運】は最悪の可能性を回避することができる。ただし使用頻度に応じて因果律の揺り戻しに巻き込まれやすくなる】』
そしてユウキが生来持ち合わせていた【特殊スキル】の【主人公補正】は、そのまま物語の主人公のごとく、といったスキルだった。
ステータス表記は見やすく簡略化されたものなので通常のスキルと一緒に明記されているが、スキルには【パッシブスキル】と【アクティブスキル】があり、【呪い】と同様に【主人公補正】や【悪運】は常に発動している。
そして熟練度にもよるが、MPやモノによってはHP、その他を消費して発動するスキルも存在する。
『あくまでステータスは対象を数値化したものでしかないので、HPが減らなくても痛みは感じます。それと、ステータスに表記されていなくても【持久力】や【耐久力】といったものも成長に応じて上がるので、【ステータス】で毎回確認するまでもなく自身のことは把握できるはずです』
これがただのゲームであれば、殴られようが、斬られようが、燃やされようが、HPが0にならなければ問題なく動き回ることができる。
しかし現実的に操作するのは仮想アバターではなく肉体であるため、同じ攻撃力でも受けるダメージは変動する。
言ってしまえばどんなにレベルや能力値を上げようが、首が無くなったり心臓を包丁で一突きされれば死んでしまうのである。
それはアナザーワールドがいかにゲームを模倣してつくられようが、変わらない現実である。
ユウキは試しに落ちていた木の枝を振ってみるが、別段装備しなくても技や型は使うことができる。
スキルにはないが、そこらに落ちている石を投げるなり叩きつけるなりして戦っても敵は倒せるだろう。
この世界はゲームの要素はあるが、限りなく現実だった。
ただモンスターを倒すだけで経験値が貯まりレベルアップする単純なゲームではない。
やろうと思えばフラグもストーリー展開もアイテム回収もしないでも宝箱は壊して中身は取り出せるのだ。
努力しだいで【スキル】にはない能力を身に付けることもできる。
そこでユウキの目標は決まった。
「はっせいれんしゅうで、ふつうにはなせるように、おれは、なる!」