第5話〜よ、ようこそ新しい世界へ!
気がつくとユウキは木々に囲まれた小さな泉のほとりに立ち尽くしていた。
いきなり場所が変わったせいか、立ち眩みのような違和感が身体を走り、ふらふらとよろめく。
まるで体が自分のものでないかのような錯覚を受けたが、すぐに慣れる。
辺りを見渡してみるとここは森の中らしく、妙に大きな木々に囲まれていた。
ユウキはすぐにガイドフェアリーであるシルフィーの存在を思いだし、近くにいないかと声をかけようとしたが、なぜか空気が抜けるような甲高い音しかでなかった。
いきない状況が変わったからといって緊張で喉が渇いているのとは少し違う。
まるで長らく声を出していなかったような、初めて習う外国語を発音しようとしているような、声の出しにくさ。
「あー、あー………ああ?」
軽く声を出してみると不自然なまでに甲高い。
少なくとも声変わりをとっくに終えたはずの高校生ではあり得ない甲高さ。
違和感は声だけではない。
先程は周りの木々が妙に大きく感じられたが、それは彼の目線が低かったからだ。
視界に入った己のもみじのような小さな手のひらを見て確信する。
ユウキはまるで心は大人、体は子供の名探偵のごとく、体が縮んでいた。
『………いてて、転移先の座標が少しずれてたみたいですね。まさか木のうろのなかに出るとは思いませんでした』
あまりな事態に硬直していたユウキの耳に、シルフィーの声が届いた。
「し、しるふぃー!」
拙い発音になったが、なんとか言葉は発せられた。
まるで鈴の音のような清らかな声だった。
「なんか、からだがちぢんでるんだけど、これはどういうこと?」
『え、あれ?私の姿が見えるってことは、もしかしてユウキさんですか!?』
話しかけられたことで怪訝な顔をしたシルフィーだったが、名前を呼ばれたことで目の前の幼児がユウキであると気づいたようだった。
ちなみにガイドフェアリーに限らず、妖精たちは住み処以外では普段姿を見えなくなる魔法を発動している。
妖精は魔法を使うことができ、一般的な冒険者であれば【眩惑】や【魅了】といった魔法であしらうことができるが、稀少性やその可愛らしい見た目から愛玩用に貴族が有能な冒険者に捕獲を依頼することがあるのだ。
直接的な攻撃魔法を扱える妖精は少なく、【眩惑魔法耐性】や【魅了耐性】の装備をした冒険者が相手では素早さで翻弄するか逃げ惑うことしかできない、非力な存在なのである。
「しるふぃー、どうしておれはちぢんでるんだ?」
『ええっと、ちょっと待ってください。今調べてみます』
両者ともに混乱があったが、ファンタジーの住民らしくシルフィーの方が冷静だった。
すぐに彼……彼女?のステータスを【鑑定】することで現状を理解した。
「げんいんは、わかった?しるふぃー!」
『落ち着いてください、ユウキさん。おそらくこれはキャラメイクの途中で強制的に転移されたことが原因ですね』
「どーいうこと?」
『見た方が早いと思うので、【ステータスオープン】と唱えてください』
「えっと、すてーたす、おーぷん!………うわっ!?」
【ステータス】
名前:ユウキ=アベ
性別:♀
種族:人族
状態:幼女化(固定)
職業:
【HP:45】
【MP:30】
【攻撃力:25】
【防御力:20】
【魔法力:15】
【素早さ:35】
【幸運:50】
称号:
特殊スキル:【主人公補正】【幼女化の呪い】
耐性スキル:
通常スキル:【剣術Lv2】【悪運Lv5】【幼女化LvMAX】
目の前に半透明の板のようなものが浮かんだかと思うと、そこにはユウキのステータスが表示されていた。
そしてそこには、
「………え、【幼女化】?」
ゲームのような【MP】【MP】、【攻撃力】などの表記の下の方のスキル欄に、見逃せないものがあった。
「これ、え?………せいべつも♀って………」
『キャラメイクの最後にテスターのみなさんには一つだけ【ギフト】が与えられるのです。強力な武器や防具、魔道具やスキルなど。ユウキさんは強制転移でキャラメイクが途中で終了したので、おそらくランダムに【ギフト】が選択されたのだと………。【ギフト】にはお楽しみ要素に【呪い】などもあったので』
ユウキはシルフィーの説明を聞いていなかった。
ステータスの性別と【幼女化の呪い】の文字を見た瞬間に近くの泉に向かって走り出していたからだ。
そして
澄んで底までも見通せそうなほど清らかな泉の水面には、見知らぬ幼女が映っていた。
ついでにいえば十数年連れ添った相棒は、活躍の機会を得ることなく消失していた。