第17話〜捕獲!
「………………。」
「………………?」
近くから聞こえてくる話し声でマリアーナは目を覚ました。
(あれ、わたし………)
意識がはっきりとしない。
直前にあった恐怖が思い出すことを無意識下で拒絶しているのか、単純に逃げ回った疲労で頭まで麻痺しているのか。
しかしその状態も長くは続かない。
段々と意識は明確になっていき、そして同時に気絶する直前の出来事も思い出した。
「………っ!!」
全身で跳ねるようにして飛び起きる。
どれだけ意識を失っていたかは分からないが、どうやら体力は回復していたようで体が軽い。
しかし精神には余裕がなかった。
今にもあの真っ黒い猪に襲われるのではないか、鋭い牙に串刺しにされてしまうのではないか。
マリアーナの心臓は覚醒直後でありながら破裂しそうなほど鼓動を刻んでいる。
しかしマリアーナが見た先にあったのは意外な光景だった。
まず彼女が気絶する直前まで追いかけ回してきていたブラックボア、の死体(頭がなくなっている)。
そしてそれを解体しているとおぼしき壮年の男。
さらにその傍らで、飛び起きたマリアーナに驚いた表情を浮かべた、まるで天使のように可憐な、彼女よりも幾分か年下の少女。
その少女を見た瞬間、マリアーナの意識は再び暗転した。
「………危ないところを助けてくれて、ありがとうございました」
マリアーナは鋭い目付きをした大人の男性、クニツナに深々と頭を下げた。
恐怖で逃げ回っていた時の記憶は曖昧だが、意識を失う直前に彼に助けを求めた時のことは覚えていた。
若干その強面な顔と雰囲気に内心でびくつきながら、それでも感謝は忘れない。
「気にするな」
クニツナの反応は素っ気ないものの、冷たいという訳ではない。
ただ不器用な人なのだな、とマリアーナは思った。
「あの~………」
不意にマリアーナのすぐそばで、というか腕の中から戸惑うような声が聞こえた。
「なんでおれ………わたし、抱き締められてるの?」
まるで人形のようにマリアーナにがっしりと抱き締められているのは、小柄なマリアーナよりさらに一回り小さな天使、ではなくユウキ。
気絶から覚めたマリアーナは心配そうに覗きこむユウキを瞬時に捕獲し、それからは片時も離れず彼をホールドしていた。
ちなみにマリアーナがクニツナに頭を下げた際に軽く潰され、ユウキは子供に抱かれた人形の気持ちを強制的に知らされたが、当のマリアーナは気付いていない。
そしてユウキの呟きは流された。
その後のやり取りでマリアーナがツキワの街に住んでいて、〈止まり木停〉という宿屋で働いていることを知る。
「ジェーンさんに怒られちゃう………」
太陽の位置は真上を少し、いやかなりずれた場所にある。
アナザーワールドの1日は地球とほぼ同じ24時間。
1年は365日。
12の月で分かれている。
これはこの惑星を創造した管理者が地球を参考にしたためである。
もっとも大陸の大きさや海が占める割合、気候や生態系などは大きく異なるのだが。
閑話休題。
目覚めて無事を知ったマリアーナは素直に喜びと感謝を表した。
しかし太陽の位置とクニツナの話からすでに午後だと知ると、仕事を何も言わずにサボってしまったと目に見えて落ち込んでしまった。
ブラックボアに襲われたのは不運だったが、森の奥に入り込んだことや、そもそもの危機管理が出来ていなかった時点で言い訳などできない。
ちなみにジェーンとはマリアーナの働いている宿屋を経営している夫婦の妻の方であり、怒るとかなり怖い。
「ここからツキワの街までは距離的には遠くないが、小型のモンスターに遭遇する可能性は低くないな」
クニツナの一言でマリアーナをツキワの街まで送る流れとなった。
ユウキの今後の方針はツキワの街に着いてから改めて話し合うこととなった。




