第14話〜旅立ち前夜
日が暮れてから数時間。
怒濤の質問攻めも落ち着き、辺りは焚き火のはぜる音と虫の音が満ちていた。
「そろそろ寝ろ。子供があまり夜遅くまで起きているんじゃない」
体感的に夜の9時頃だろうか。
元の世界ではまだまだ夜はこれから、という時間帯だが外灯も大きな街にしかないアナザーワールドの、それも森の奥では十分遅い時間だ。
「夜になればモンスターや野生の動物が活性化する。見張りはしてるから安心して寝ろ。………まぁお前なら襲われることはないかもしれないがな」
木の幹を背にして座りながら目を閉じるクニツナ。
一見すると居眠りしているようだが、剣道有段者のユウキには隙のなさが分かった。
焚き火は野生の動物はともかくモンスター相手だと逆に呼び寄せてしまうこともあるので火種だけ残して消してしまう。
「はい、おやすみなさい」
拓けた場所だからか、月明かりだけで十分に明るい。
しかし木々の生い茂っている先は人工の光に囲まれて育ったユウキには信じられないほどに、暗い。
【魅了】の効果があった時は半ば興奮状態にいたため、恐怖や不安などは感じなかったが、まるで墨汁で満たされたような本物の″暗闇″というものは本能的な恐怖をユウキに抱かせた。
しかしだからと言って本物の幼女のごとく、クニツナに怖いから隣に行っていいか、などとは言えない。
見た目はともかく中身は高校男子である。
するとユウキの感情の揺らぎを感じたのかシルフィーと、そして淡く光る微精霊たちが寄り添うようにしてきた。
シルフィーは定位置となった左肩の上に、そして【魅了】の加護が無効となってもユウキのそばを離れようとしない三体の微精霊たちは胸元や膝の上に。
「………ありがとう、シルフィー。それとみんなも」
『気にしないで下さい、ユウキさん。それじゃあお休みなさい』
『『『…………、……………。』』』
シルフィーはここ数日でユウキのことを見た目相応に扱うようになってしまったため、まるで姉が幼い妹にするように優しく頬を撫でて、そしてそのまま目を閉じてしまった。
そして赤、青、緑色をした微精霊たちは言葉を発することはないが、直接頭に語りかけるように感情を向けてくる。
あくまで感情なので何を伝えたいかが正確には分からないが、それでもこちらを気遣うものであるのは分かった。
シルフィー曰く、この三体は大量に集まってきていた微精霊たちの中でも特に力のある(といってもまさに″微″々たるものだが)個体らしく、自我が芽生えてもおかしくないそうだ。
名前はまだ決めていない。
いつまでもこの森にいるわけにはいかないし、微精霊は自然の多い清らかな空間でしか生きられない。
ユウキはクニツナとの会話のなかで旅に同行させてもらう運びとなった。
おそらく生きていけないこともないだろうが、一生森の奥で生活したいと思うほど愛着もない。
早ければ明日にでもこの微精霊たちとはお別れとなるだろう。
スライムのスラや、スモールボアのモスなどは会話こそできないが付いていきたいという意思表示を見せている。
モンスターテイマーや【テイム】のスキル、【調教】の加護を持つものも少なからずいるそうなので、どこかの街で【従魔】として登録すれば一緒に旅をしていても問題はないそうだ。
もちろんスラやモスが問題を起こせば、主人であるユウキの責任となるわけだが。
ほんの1週間にも満たない付き合いだったが、この微精霊たちにも愛着が沸いている。
しかし精霊の類いが人の街にまでついてくることはほとんどない。
おそらくこの三体も街まではついてこないだろう。
少しだけ寂しく感じたが、今はこの小さな温もりだけで十分だった。
ユウキは気付くと安らかな寝息をたてていた。




