第13話〜モスとスラ
「不思議なものだ。単体のスライムや幼体のスモールボアなど無害と言ってもいいくらい危険度の低いモンスターだが、それでも本来ならば人に懐くことなどありえん。【魅了】の加護を持った人間に何人か心当たりがあるが、それは同種族、特に異性に効果はあっても異種族、ましてやモンスターに効果を及ぼすなど聞いたことがない」
クニツナの呟きはユウキに聞かせるためというよりは、自分の考えをそのまま言葉にしたという印象を受けた。
実際今の台詞は返答を期待したものではなかったのだろう、視線はユウキではなく、そばにいるスライムたちに向いている。
ちなみにアナザーワールドの住民にとってスキルやステータスといった恩恵は身近なものであるが、特殊なスキルや魔道具を用いなければ視ることはできない。
その為、個人に宿った特殊なスキルのことは【加護】と表現されることが多いらしい。
モンスターが使ってくる【チャーム】など、ユウキの【魅了】とほぼ同じ効果を持つこのスキルなどは【異能】と呼ばれる。
【剣術】などの武器等を用いたスキルは【武技】、戦いとは関係のないスキルは【技能】、魔法などはそのまま【魔法】と分類されるのが正確な所だ。
一般人では一生涯で最大でLv5まであるうちのLv3までスキルを高められれば相当な腕前である。
しかし腕前や技術をスキルLvに表した所で、同じ【剣術Lv3】でも若者と年寄とではそこら辺の区別が面倒であるし、全てを同じ秤にかけることはできないため、一緒くたに【スキル】と呼ばれることの方が多いらしい。
そういったアナザーワールドでは常識であることを、ユウキはクニツナから聞いていった。
幸いなことに、見た目とスキルのおかげか一般人であれば当然のごとく知っていて当たり前のことを質問しても、クニツナは子供でも分かりやすいようにと噛み砕いて説明してくれた。
ユウキが最初に彼について抱いたイメージは抜き身の刀だった。
それは彼が携えた得物が日本刀だから、ではない。
無造作に括られた銀髪に、使い込まれた藍色の着流し。
眼光は鋭く、まるで野生の狼に睨まれているような迫力がある。
まるでユウキの好きだった『るろうに剣四郎』に出てくる剣客のようだ。
しかし無愛想ながらにユウキの質問攻めに付き合ってくれている辺りが、面倒見のいい兄貴分のような雰囲気を感じた。
もっとも、今のユウキの外見が物心ついたかどうかの幼女であることも関係あるのだろうが。
焚き火を前に、ユウキはスモールボアのモス(鳴き声が『モスゥ!』なので)に寄りかかるように座っている。
『スモール』ボアとは言っても全長は一メートル近くあり、小さいながらも2本の鋭い角が生えている。
【スモールボア】としてはこれで小柄なものらしく、成体になれば最大で全長三メートル、【進化】して【ビックボア】になれば全長六メートルにはなる。
イメージとしてはもののふ姫で有名な猪よりもさらに大きくなるとのこと。
そしてスライムのスラ(かなり安直なネーミングとしか言いようがない)はちょこんとユウキの頭に帽子のように乗っかって時折プルンッと震えている。
大きさはソフトボールほどで、重さはほとんど感じられないほど軽い。
抱き締めてみると心なしかひんやりとしているようにも、ほんのりと人肌ほどの温かさがあるようにも感じられる、液体状の不定形物でありながら大きく形の崩れることのない不思議な生物である。
アナザーワールドのスライムも元の世界と同じく最弱な部類らしいが、一定以上特定の物質を取り込んだスライムは様々な種類に【変化】するらしく、中にはメタルなスライムのように稀少であったり特異な個体が生まれることもあるとか。
そして妙になついている、ユウキの周りを付かず離れず漂う色とりどりな微精霊たち。
これは意識はあるが自我の芽生える前の【現象】に近い存在とのこと。
普通は人間に視ることはできず、妖精やドライアドといった存在にしか視認することができないのだとか。
なので存在は知られていても実際に見たことのある人間は少なく、また、邪気に敏感であるため姿を表してくれる微精霊もほとんどいない。
なのでこれだけの微精霊になつかれているユウキは相当に異常な存在だと、オブラートに包まれながらも断言された。




