第11話〜出会い
湖のほとりは静寂が支配していた。
まさに弾ける寸前だった空気は白けたものへと代わり、まるで夢から覚めたように、この場にいる者たちは顔を見合わせる。
空気を破壊した侵入者、腰に日本刀を携えた壮年の男は鋭い目付きでそこにいる者たちを見渡した。
「妙な気配を感じると思えば、スライム、スモールボア、微精霊。………さらにはモンスターに囲まれてるってのに平然としてる小娘。どういう状況だ?」
まるで触れた瞬間、抵抗なく切り裂かれてしまいそうなほどに鋭い気配をその男からは感じられた。
ユウキは男の出現と同時に″なぜかクリアになった思考″で状況を整理しようとする。
なぜ今、自分はこの男から剣呑な気配を向けられているのか?
というかなぜ自分はここ数日の間、呑気に歌い狂っていたのか?
てか周りにいるこの小型のモンスターたちはなに?
ユウキは久々に思考を開始したように鈍い頭を使って、この状況を把握する。
なぜ今、自分はこの男から剣呑な気配を向けられているのか→客観的に見てモンスターに囲まれながらライブを開いている少女(断じて幼女とは言わせない)など普通はいない。
というか、なぜ自分はここ数日の間呑気に歌い狂っていたのか→そういえば発生練習をしていたら新しいスキルを得たとかシルフィーが言っていた。もしかしたらこれのせい?
てか周りにいるこの小型のモンスターたちはなに?
スライム→熱唱していたら気が付くと仲間になりたそうにこちらを見ていた(青く透き通った不定形生物。もちろん目などないが、なぜかその時は心が通じ合っていた)。
スモールボア→シルフィーが精霊魔法で作った罠にかかっていた元食料(あまりにつぶらな瞳に、食欲より同情がわいた)。
微精霊→どうやら歌が好きらしく、またシルフィーの存在もあってかなつかれた(見た目は淡い光だが、感情の波のようなものが伝わってくる)。
(どうしてこうなった………)
ユウキはあまりな状況に心の中で頭を抱えた。
客観的に言って、この世界の住民に限らず不審者扱いされても仕方がない。
異世界人との初遭遇がまさかの状況になってしまったが、これはどう切り抜けるべきだろうか。
男は無造作なようで無駄のない足運びで近づいてきたが、ユウキとの距離が狭まるにつれて表情を険しくした。
「………無駄だ。俺に洗脳系統のスキルは効かない。【魔眼】じゃなさそうだが、そいつは俺の相棒が無効化する」
この男は何を言っているのだろうか。
唐突に意味のわからないことを言われて眉を潜めるユウキ。
するとシルフィーの声が耳元ではなく頭の中で響いた。
これはテスターとガイドフェアリーの間でだけ繋がるパスを使った念話である。
『鑑定してみたところ、あの刀が有害なスキルを全て無効化しているようです。それでユウキさんの【魅了】のスキルが掻き消されました』
『え、【魅了】のスキルって?』
『ユウキさんが新しく取得したスキルです。スキルはレベルや熟練度、持っているスキルによって新たに取得することができますが、ユウキさんの【主人公補正】と【幼女化】はレベル、熟練度、ステータスなどに大幅な補正と枷がかかる特殊なスキルですから』
どうやらユウキは、呪われたスキルたちのせいで幼女化や不運の縛りを受ける代わりに補正がかかっているらしい。
『スキル【魅了】は見た目や声、その他の要因で相手を魅了、つまりは虜にする洗脳系統のスキルです。【幼女化】には強力な【魅了】の呪いも含まれていたみたいで、私もあの刀がスキルを無効化するまで魅了されていたみたいです』
『けど【魅了】なんて使った覚えはないぞ?【魔眼】ってのも覚えがないし』
『【スキル】は技能や能力によって同じスキルでも内容が変わるんです。同じ【剣術】のスキルでも流派や得物が変われば技や動きも変わります。同じく【魅了】も魔眼によるものや歌声、匂いやフェロモンによって魅了するものもあります』
納得できなくもない理屈だが、彼自身は【魅了】のスキルなど一切自覚していなかった。
しかし言われてみれば先程までのユウキは、まるで熱に浮かされたように頭の中が情熱に支配されていた。
あれが【魅了】によるものだとしたら、最中はまったく違和感を感じていなかった。
『ユウキさんは容姿、歌声、フェロモンの三種類の【魅了】が重複しています。おそらくスキルを自覚しないまま【魅了】が重複して発動したため、ユウキさん自身も自己催眠状態に陥ってしまったものと思われます』
『まじか………』
おそらく気を付けていれば問題ないと思うが、気づかぬうちにとんでもないスキルが身に付いていたものだ。
「人間で合ってるな?こんな森の奥で、小物を集めて何をしていた」
男は得物である刀の柄にこそ手はかけていないが、おそらくユウキが変な動きを見せれば、その瞬間取り押さえられるだろう。
ここがモンスターなどのいる異世界であることを思えば、一刀のもとに両断されてもおかしくはない。
ユウキはとりあえず、無抵抗を表すためにゆっくりと両手をあげた。




