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Fight.2 雰囲気作りには、まだまだ。

「むむ…難しいもんだな」

 俺は雑貨屋の片隅で、到底自分には似合いそうにも無い、ファンシーとも言える小物と向かいながら、息の苦しさを感じていた。

 どうも、無意識に唸ってもいるようだ。

「どうかなさいましたか?」

 と、女性の店員が俺に向かって心配そうな顔で声をかけてきたりするし。

「ていうか…」

 周りを見渡してみる。学校の教室のようなスペースの中にぎっしりと詰められた棚、客のほとんどは女性だ。男性もいるにはいるが、それも女性同伴といった感じなのだろう。2人で指を指しながらあれこれと話している。

 …男1人でここに突入するのは、やっぱり無理があったか。

 そう意識し出したとき、額に脂のような汗が浮いてくるのを感じる。

 すごくここから逃げ出したいと思う。

「でも、せっかくホワイトデーのお返しを選びにここまで入ったんだからな…」

 小学生からの付き合いになるあの口うるさい女に…一応、お返しくらいやらないと何言われるかわかったもんじゃない。

 今日はホワイトデー当日。今年は土曜日なので、休みである当日にここで何か適当なものを見繕って、そのまま持っていって渡してしまうという流れだ。

 しかし、何を選んでいいものやらさっぱりわからない。誰かに聞くわけにもいかないし、どうしたものか。アドバイスをくれる人でもいればいいんだが。

「あれ、こんなところで何してるの?」

 まさかそう思ったタイミングでお返しをする相手が現れるとは思いもしなかったが。

「お、おう…見てのとおりだ」

 場所が場所だけに恥ずかしいのと、当人が来たことへの驚きも当然あって、かなり上ずった声で答えてしまう。

「何が見てのとおりなのかわからないんだけど…というか目が泳いでる」

 この女も、さすがに俺の様子がおかしいことには気付いたらしい。

 しかし、この女へのホワイトデーのお返しをするなど今の時点で言うのはためらわれる。結局渡すことには変わりないのだが、気恥ずかしさがある。何より、過度に期待されてハードルが上がるのは避けたい。

「俺だってこういうのを見てもいいだろ?」

「全然思わないよ…」

 さすが付き合いが長いだけあって、俺の趣味など十分に理解されている。というか、なんで俺はこんなことを口走ってしまったのか。

 大抵この女と話をする時は俺が強引に自分のペースに持っていくのだが、どうもこのままだとそうもいかないようだ。

 今のところは、話を変えるくらいしかできそうになかった。

「そっちこそ、何をしに来たんだ」

「わたし?わたしこそ、見てのとおりでしょ」

 まあ、聞くまでもない質問だったな。だいたい、そういうことじゃなければ俺が苦労してまでこの場所にいるわけがない。

「あ、そうだ。どうせだから一緒に選んでよ」

 俺の都合なんてまるで何も気にしないかのように。

 というか、俺はここに何をしに来たんだっけ?それさえも見失ってしまうような。

「わかったよ、仕方ないな」

 結局、付き合ってしまっていた。

 

「ところで、なんであんなところにいたの?結局聞けなかったよ」

「あ、そうだよ…お前のせいで忘れてたじゃないか。ホワイトデーだから何かやろうとしてたっつーのに」

「え、そうなの?じゃあ自分で買う必要なかったのに…ざんねん」

「その分のお金なら払ってやるぞ、気に入ったんならそれに越したことはないからな」

「それはそれっ!ちゃんと別に用意してよね」

「なんてワガママだ…」

「それに…ちゃんと今、もらってるし」

「え、俺何もしてないぞ?」

「隣にいてくれるだけで十分だって言ってるの」

「なんだそれ、わからん…」

 

 彼女が頬を膨らませる。女の扱いは、本当に難しい。

 

 ホワイトデーの雰囲気作りには、まだまだ。

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