第三十九話 クエストへ行こう
今クエストに誘われなかったか?
「なにポカンとしてんのよ。冒険者なんだからクエストくらい何度も行ってるでしょ?」
そういえばそんな設定だった。
でも俺は冒険者じゃないしクエストに行った経験なんてない。
ただ魔物と戦うのに慣れているだけだ。
「んー、どうだろ。考えとくよ」
「そうやってはぐらかさないでよね。今すっごくいいクエストがあるんだって! 絶対に協力してもらうわよ」
何かカレンのテンションがおかしいが、俺のスキルを受け入れてくれてよかった。
そういえば村の人たちはどうなのだろう。
……思いっきり見られてしまったが。
「すげえな兄ちゃん! 戦闘もいけんのかよ!」
「便利なスキル持ってんなー。やっぱ錬金術師なんじゃねえのか」
「カレンを守れる奴なんて初めて見たぜ」
「みなさん、アレン様のスキルは大事な仕事道具なので! 気にしないでもらえると助かります!」
悪いように受け取られているわけじゃなさそうだな。
しかし生産職が戦っても変わった奴がいるくらいで済むのか。
王国だったら確実に刑罰の対象だぞ。
あの国じゃ自分の職業以外の仕事は許されていないからな。
「なっ、いいだろ! 頼むよ!」
「わかったわかった。でも一回だけだからな」
「やった! あとで撤回とかなしだからな」
カレンがニカッと笑って手を差し出した。
俺も手を出して握手する。
まあ自分の設定を考えたら断るのも変だしな。
ちょっとくらい寄り道しても問題ないだろ。
「じゃあ詳しいことは明日な。明日はあたしも仕事休みだし」
「俺の予定は気にしないのな」
「どーせ暇してんだろ? 装備整えて待っててくれよな」
どんどん話が進んでいく。
言いたいことだけ言ってカレンは去っていった。
今から大食いワームの肉を切り分けて、売り物にするそうだ。
「ってことみたいだ。悪いけどフィーナも付き合ってくれないか?」
「ごめんなさいアレン様。明日は梟の止まり木亭の店主さんにお手伝いを頼まれているんです」
「え、そうなのか?」
「一緒に朝食を作ったらわたしの料理を気にいってもらえたみたいで……数日中に帝都騎士団の方が視察に来るのでおもてなしのレシピをお願いされているんです」
そういうことなら仕方ないな。
「わかった。今回は俺とカレンで行ってくるよ。留守番頼むな」
「はい、任せてください。あ、でも……」
「どうした?」
「いえ、なんでもありません。クエストの成功を祈っています」
少し心配したような表情で言われた。
もしかしてカレンと何かあると思われているのだろうか。
いやー、ないだろ。
女の子と出会うたびに惚れられてたら、今頃ハーレムができてるぜ。
そもそも第九王子という肩書があっても彼女がいなかったのに。
……なんか思い出したら悲しくなってきた。
大食いワームの解体をして、明日の準備をしよう。
☆
「さあ出発するぞ!」
「朝からテンション高いな」
梟の止まり木亭の前でカレンが元気に声を出す。
俺もそうだが装備を整えた冒険者らしい格好だ。
「クエストはあたしのギルドカードで受けといた。今日は頼りにしてるからな」
「こっちは全然事情をしらないんだが。どんなクエストなんだよ?」
「今回のは『カルネ遺跡の調査』だな。遺跡の中から魔物が湧いてくるから、その原因を突き止めてほしいんだってよ」
「じゃあ原因さえわかれば戦う必要はないのか」
「そういうこと。ちなみに報酬は白金貨六枚だ。あたしとアレン様で半分ずつな」
その報酬はたしかに美味しいな。
金には困っていないがこういう冒険も面白そうだ。
「怪我に気を付けていけよ」
「おう! お土産期待しとけよなデッケン!」
「それじゃ行ってくる。
門番のおじさんに見送られ、俺たちは遺跡に向かって出発した。




