第三十七話 仕事を終えて
「お疲れさん。昼ご飯持ってきたよ」
「おー、ありがとう」
「ありがとうございますカレンさん」
とっくに朝市は終わって昼食の時間、人通りもまばらなっていた。
俺たちは行商人のおっちゃんの軒先を借りて、サンドイッチを食べる。
中の具はレタスにタマネギ、サラミだった。
シンプルだがシャキシャキとした歯ごたえと、肉の塩味が美味い。
「アレン様見てください。袋がお金でいっぱいですよ」
「うおっ、すごいな。どれくらいあるんだ?
「あたしが数えた時は180枚だったよ」
「ひゃく……っ!」
一日中農家の手伝いをして得られる金が銀貨5枚だ。
俺もうこのスキルで一生食っていく。
「さっきの活躍みてたぜ。いいスキルもってんな」
「そりゃどうも。そういえばおっちゃん、プログレス王国について何か噂を聞かなかったか? そろそろ戦争を仕掛けくるとかさ」
「プログレス王国? いや特に聞かねえな。大体ここから相当離れた国だろ? 昔はいろいろあったらしいが、今また喧嘩しようとは思わんだろ」
行商人のおっちゃんは記憶をたぐりながら髭を撫でた。
あちこちに移動する職業でも知らないとなると、帝国の統治は盤石なのだろう。
俺としては余計な争いがないほうが山脈を越えやすくて助かる。
「ああ、そういえば最近第七王子が来たって話を聞いたな。なんか交易について話したいとか」
「え、バルドのやつが?」
「そうそう、そんな名前だ。ていうか知ってんのかよ」
「いや、ちょっと聞いたことがあるだけだ」
あの特技が犬と子供をイジメることのバルドが交易?
アイツにそんな仕事を任せるくらいなら、猿をお出しした方がまだ失礼がない。
いよいよクソ親父も頭がボケてきたようだな。
「他には何か……」
途中まで言言いかけたところで、けたたましく鐘が打ち鳴らされた。
カーン! カンカンカンカンッ!
「魔物だー! 魔物が来たぞー! 戦闘職は全員門の前に集まれー!」
「やっば。あたし行かなきゃ」
「カレンも戦闘職なのか」
「まあね。危ないからあんたたちはそこにいな」
そう言ってカレンは走り去っていった。
魔物か……この地域にはどんな奴がいるんだろうか。
「わたしたちも手伝った方がいいでしょうか?」
「今は様子見だな。ピンチになりそうなら助けよう」
これ以上スキルを見せびらかしたくはないが、いざという時はやるしかないな。
俺とフィーナが門に着くと、すでに大量の野次馬が押し寄せていた。
危険だとわかっていても、ビッグイベントを見逃すつもりはないようだ。
門の外にはカレンと皮の鎧を着た村の男たちがいた。
「来たぞ!」
「……けっこうデカいな」
「俺は援護に回る。お前ら突っ込め」
「オレの背中に隠れるんじゃねえ! お前こそ突撃しろよ!」
どうも男たちは戦いに慣れていないようだ。
全員腰が引けている。
「情けないこと言う奴は囮にするからね。いくよ!」
先頭でカレンが凛々しく剣を構える。
視線の先にはとぐろを巻き、無秩序に牙を生やした『大食いワーム』がいた。




