第三十六話 直し屋アレン
梟の止まり木亭での一夜が明け、俺とフィーナは情報収集がてら散歩をしていた。
プログレス王国を追放されてからすでに半年以上が経過している。
俺の知っている情報はもうカビが生えている。
帝国騎士団の動向や、プログレス王国との現在の関係など、聞きたいことはいくらでもあるのだ。
「にぎわってますね、アレン様」
「みんな朝から元気だな。行商人も来てるし」
そんなに大きな村ではないが、朝市が開かれ村の人々が集まっていた。
特に人気なのは帝都から運ばれてくる香辛料のようだ。
王都でもオールスパイスやナツメグは人気だったな。
「なあお兄さん、ちょっといいかい?」
「ん? なんだよおじさん」
「この壺が割れちまったんだけどさ、直してくれねえかな?」
いきなり見知らぬおじさんに声をかけられた。
手に持った木箱の中にはバラバラになった陶器が入っている。
《建築》を使えば直せると思うが、なぜ俺のスキルを知っているんだ?
「ごめんアレン! もー、あたしが先に説明するって言っただろ!」
「カレン、どういうことなんだ?」
「昨日水車を直してもらったことイーライに言っちゃったんだよ。そしたらお気に入りの壺を直してもらうってきかなくて」
なるほど、そういうことか。
超レアスキル『鑑定』の持ち主かと思ってビビったぞ。
「直すのはいいがただってわけにはいかないな」
「この壺は大切なものなんだ。金なら出すぞ」
「どのくらい?」
「んー、銀貨五枚……いや七枚なら!」
どんなものでも一瞬で直せることを思えば、金貨二枚はもらっても問題ないだろう。
だが、この村の人たちが裕福なようには見えなかった。
「アレン様、ちょっと安くしてあげてください。おじさんすごく困ってます」
「俺のパートナーから進言があった。よし、銀貨三枚でいいぞ」
「ホントか! ありがとな兄ちゃん!」
「その代わり俺の質問にはなんでも答えてくれよ」
この村に滞在するつもりだしサービスしておこう。
割れた壺に触れると《建築》スキルを発動する。
すぐに壺は元の姿を取り戻した。
「すげえ! カレンの言った通り一瞬だ! 一体なんの職業なんだよ!?」
「えーと、それはだな……」
「細かい詮索はナシナシ。商売道具は秘密でしょ」
建築師だと言えない俺にカレンが助け舟を出してくれた。
口調は荒いがめっちゃいい子だな。
ともかく依頼は達成した。
後は情報を──
「おい、今の見たか!?」
「ああ、魔法みたいに壺が直ったぞ」
「なあ、カミさんのブローチを壊しちまったんだよ。直してくれねえかな?」
気づけば俺の周りに人だかりができていた。
おーっと、これはめんどうな展開になってきたぞ。
「いや俺は今から話をだな……」
「頼むよ兄ちゃん! うちで飼ってる鶏もつけるからさ!」
「抜け駆けすんなよテメェ! おれなら猪肉の燻製もやるぜ!」
「私ならもっといい服を持ってきてあげるよ。だから頼まれてくれないかい?」
人に囲まれて動けない。
フィーナに助けを求めると「あきらめてください」という顔をしていた。
「あーもうわかったよ! 全員面倒見てやるから直すもん持ってこい!」
ワッと歓声が上がり壊れた道具に家具、装飾品が持ち込まれる。
直すのは一瞬できるが、元の形を完全に再現するのは骨が折れるな。
「お代はわたしが預かりますね」
「はいはい、押さないでね。ちゃんと順番守って」
いつの間にかフィーナとカレンが店員のようになっていた。
細かいことは二人に任せて俺はどんどん《建築》していく。
「はー、やっと終わった」
すべての依頼を終えた時には、もうお昼になっていた。
情報収集とはなんだったのか。




