第三十四話 カレン・ライネス
「いやいやいや、おかしでしょ。なんでもう直ってんのよ!?」
「ふふん、俺のスキルは優秀なのさ」
「スキルってあんた錬金術師? 戦闘でも生産でも上級職じゃないとできないわよこんなの」
「……まあそんなとこだな」
さすがに建築師とは言えないので言葉を濁す。
しかしこの反応久しぶりだな。
「うわ、ちゃんと動いてる。どうなってんのよこれ……」
「そっちの望みは叶えたぞ。俺たちが村に入れるように取り計らってくれ」
「わかった。あたしがなんとかする。約束は守るよ」
ようやく第一関門突破だな。
またこのスキルに助けられた。
「人は見かけによらないってことかな。冒険者ごっこをしているお坊ちゃんかと思ってたよ」
「あれ、喧嘩売られてる?」
「褒めてるんだよ。やるねあんた」
少女がウインクする。
なんだかんだ言っても人の役に立つことは気分がいいな。
「ふーん、アレン様ってそうなんですね。へー」
なぜかフィーナがジト目でこっちを睨んでくる。
いや、まだ何もしてないって!
「そういえば自己紹介がまだだったね。あたしはカレン・ライネス。カレンって呼んで」
「改めてアレン・タイラーだ。よろしく」
「フィーナです。よろしくお願いしますねカレンさん」
カレンが門番と話してくれるというので、後をついていく。
「どうしたカレン。ん、そいつらは……」
「デッケン、この人たちを入れてあげて。水車を直してくれたんだ」
「なに水車を? 本当か?」
事情を説明されると門番の眉間から皺が消えた。
「さっきはすまなかったな。そういうことなら特別に許可を出そう。さあ、通ってくれ」
「サンキューおじさん」
「私はお兄さんだ」
門をくぐって村の中に入る。
馬車の通る大通りを中心に、商店や宿屋、小さいが武器屋もあった。
あとは木造の民家が建ち並んでいるようだ。
「ようこそ、ナブの村へ。大したものはないけどゆっくりしていって。まずは宿屋から紹介しようか?」
「その前にカレン、一つ質問させてくれ」
「なに?」
「プログレス王国って国を知らないか?」
プログレス王国は大陸でも屈指の大国だ。
もし知らないのなら相当遠くに転移させられたことになる。
「ああ、アイジエン山脈の向こうにそんな国があるらしいね。行ったことはないけど」
「じゃあこの地域を支配しているのは──」
「ドラクセス帝国だよ」
ヤバい。プログレス王国の敵対国だ。
もし俺が出身者だとわかったら殺されかねないな。
「どうしたの怖い顔して。ああ、でもこの村は帝都から離れてるから大丈夫だよ。税さえ収めていれば皇帝陛下の怒りを買うこともないし」
「いやー、安心したよ。帝国の憲兵団は怖いってきいてたからさ。もし出会ったら不審者として投獄されてたかも」
「だからギルドカードは大切なんだよ。でもそんなことも知らないなんて、あんたよっぽど遠くから来たんだね」
「俺もフィーナも山奥の村の出身なんだ。地図にも乗ってないようなところだから世間に疎くてさ」
「カレンさん、いろいろ教えてくれてありがとうございます」
状況は大体わかったが簡単に王都へは戻れないようだ。
あの謎の墜落原因を突き止めないと飛行スキルも使えない。
うーん、前途多難だな。




