第三十三話 第一村人発見
ローテンベルクの前方に、魔物除けの大きな木の壁が見える。
俺の柵とは違って、攻撃的な印象は受けなかった。
さて、村は見つかったがどうしようか。
このまま進んで行ったら魔物の襲撃だと勘違いされそうだ。
「うーん、ローテンベルクを隠す場所が欲しいな」
「アレン様、あそこに停めていきませんか?」
フィーナが村から離れた場所にある林を指を差した。
なるほど、ひとまずあそこに隠しておこう。
木々の間にローテンベルクを入れ、《建築》レベル4を解除する。
念のため見つかりにくいように木を《建築》して周りを囲っておこう。
「準備はできたか?」
「はい。バッチリです」
俺とフィーナは毛皮の服を着て、冒険者らしい格好になった。
この服装ならクエストの途中で村に寄ったと思われるに違いない。
完璧な作戦だ。
ちなみにフィーナは《ドッペルゲンガー》で耳と尻尾を隠している。
俺としては複雑な気分だが、彼女は初めて行く場所ではいつもそうしているらしい。
それだけ獣人への差別は根強いのだろう。
ともかく俺たちは村へ向かって歩いていく。
門にたどり着くと、いかつい門番が出迎えてくれた。
「だれだお前たちは」
「俺はアレン、こっちの女性はフィーナ。二人で冒険者をやっている。クエスト帰りでもうヘトヘトなんだ、この村で休ませてくれないか?」
「冒険者だと言うならギルドカードを見せろ。話はそれからだ」
あ、ギルドカードのことをすっかり忘れていた。
すべての冒険者はどこかのギルドに登録し、身分を証明するカードを持たないといけないのである。
……俺の馬鹿野郎。
「えーっと……ギルドカードは家に置いてきたんだ。別に今日一日くらいいいだろ?」
「長居はしませんからお願いします!」
「ダメだ。得体の知れない奴を村に入れるわけにはいかん。さっさと立ち去れ」
取り付く島もなく俺たちは追い出された。
くそっ、もっと冒険者の生活について勉強しておくべきだったか。
「すまんフィーナ。俺はダメダメのダメ男だ……」
「元気だしてくださいアレン様! あ、ほらっ、あそに人がいますよ。村に入る方法がないか聞いてみましょう!」
村の近くを流れる川、そのすぐそばにある水車小屋に人影が見えた。
気を取り直してそちらに行ってみよう。
「すみませーん。ちょっといいですか?」
「は? あんたたちだれ?」
赤髪でセミロングの少女がバケツを持って、こちらを振り返った。
年齢は俺と同じくらいだろうか。
その視線は警戒心たっぷりだ。
名前を名乗り、俺たちが冒険者だがギルドカードを忘れてしまったこと、怪しいものではないことを伝える。
「そりゃご愁傷様だね。残念だけどあきらめたら」
「そこをなんとか! 君から上手く言ってくれないか!?」
「なんであたしがそんなことをしなきゃいけないわけ? なんのメリットもないじゃん」
ぐうの音も出ない正論だ。
だがここで引くわけにはいかない。
「わたしたちがあなたのお手伝いをするというのはどうですか?」
「それだ。俺たち建物や家具を直すのが得意なんだ。壊れたバケツの補修とかできるぞ」
「冒険者なのに生産系スキルが得意なわけ?」
「ま、まあな!」
「ふーん……別にいいけどね。じゃあ、もしあたしの望む物を直せたら村にいれてあげるよ」
ようやく事態が進展したようだ。
しかし嘘を吐くのって難しいな。
魔物と違って人間の相手は別の意味で大変だ。
「はいこれ。直せる?」
「望んだ物って水車かよ。しかもデカいし」
「そうだよ。この間の嵐で壊れて困ってるんだよね。うちの村に『建築師』はいないし、隣村のやつは自分の村にかかりっきりだから。で、どう? できる?」
困ると思っているのか、少女はニヤニヤしている。
正直言って俺としては助かった。
実物が目の前にあればより正確に《建築》できるからな。
「わかった、やろう。ただ俺のスキルはちょっと特殊なんだ。目をつぶってくれないか?」
「いいよ。できるならね」
少女が目を閉じると俺は水車に触れた。
水受けが破損しているようなので一度《解体》、破損部分を補修するように《建築》する。
水車はあっという間に元の姿を取り戻した。
「目を開けてくれ。できたぞ」
「ちょっとやめてよね。あたしつまんない冗談は……え、ウソ」
少女はポカンと口を開けて動くようになった水車を見ていた。
その隣でフィーナが「わかるよ」という感じで、肩をポンポンと叩いていた。




