第三十一話 空の旅
《紅蓮の双翼》を羽ばたかせ我が家は空を飛ぶ。
窓の外には青い空と白い雲が広がっていた。
「すごく綺麗です……あ、アレン様鳥がいますよ」
「おー、たくさん飛んでるな。なんか頭がカエルみたいだけど」
出発から一日が経過したが、俺たちはまだパラアキラの森の上空にいた。
下界を見ればあの鬱蒼とした木々が今もある。
馬車よりも速いペースで進んでいるのだが、まだ終わりが見えない。
どんだけ広いんだこの森。
というかあのクソ親父何が何でも俺を殺すつもりだったんだな。
職業が『建築師』じゃなかったら確実に魔物のエサだぞ。
「はぁぁ……何回見ても飽きない景色です。戦った甲斐がありました」
「あの戦いで得た数少ない成果だな。普通に生きてりゃ一生見れなかっただろうし」
窓の外をまた怪鳥が飛んでいく。
ひとしきり景色を堪能すると、フィーナが話しかけてきた。
「森を抜けたらどうしましょう。アレン様は何か考えがありますか?」
そういえば脱出できることが嬉しくてまったくノープランだった。
今更王都にも戻れないしどうするかな。
……いや、あの国はもうどうでもいいが母さんとエメリーは心配だ。
今の俺なら住む家も食料も用意できるし、金貨だって自分で稼ぐことができる。
どうせ公表していない王妃なんて山ほどいるだろうし、なんとか交渉してまた家族で暮らせないだろうか。
「俺はどこかに家を建てて母さんと妹を呼びたい。その……俺の住んでいた国だと肩身が狭いからな」
「じゃあまずはアレン様の国まで行きましょうか。それからお母さまと妹さんを呼びましょう」
「自分のことはいいのか? どのくらい離れているかもわからないんだし。ひょっとしたら何年もかかるかもしれないぞ」
「わたしが怖いのは人口の多い国に長く滞在することだけです。それ以外のことならアレン様に従いますよ」
また何か事情があるようだがお互いの目的が食い違うことはないようだ。
パラアキラの森を抜けたら何回が休憩を挟んで王都に行こう。
そして新しい人生を始めるんだ。
☆
飛行を始めてから八日が過ぎた。
しつこいくらい続いた緑の景色はようやく終わりを告げ、赤茶けた大地が見えてきた。
ここがどこかはわからないが、もう急に魔物が飛び出してくることはないだろう。
「ふー……」
ぶっ通しでスキルを発動しているせいか、疲れが溜まっているみたいだ。
どこかに着陸して休息を──
「ッッッッ!? な、なんだ!?」
「空なのに地震ですか!?」
ガクンッと家が揺れ、椅子が倒れる。
いきなりの衝撃に俺とフィーナは床に手をついた。
魔物の襲撃を考え《嗅覚探知》を発動したが、まったく反応はない。
天候も悪いわけじゃない。
一体何が起こっているんだ!?
「アレン様、高度が下がっています!」
「緊急着陸する! 衝撃に備えろ!」
《紅蓮の双翼》の効果が減衰し、地面に向かって落下していく。
俺は《建築》レベル4で脚を生やし、家全体に《ウォーターボディ》を付与した。
あとは無事を祈るだけだ。
「《ドッペルゲンガー》! わたしの体の中へ!」
「フィーナすまん!」
フィーナの体がスライムに変化する。
俺はプニプニした肉体に包まれた
その直後、下から凄まじい衝撃が突き上げてきた。




