第三十話 新天地へ
「うわぁ……」
「これはひどいな」
レッドドラゴンには勝利したが、家の周りは一面焼け野原になった。
柵だけではなくトイレもお風呂も倉庫も崩壊し、丹精こめて育てたイカ芋や他の野菜も全部黒焦げだ。
これを全部片づけると思うと気が滅入る。
「……フィーナ、引っ越してもいいか?」
「いいと思います。別に片付けが面倒なわけではないですけど」
同意も得られたし荷物をまとめて住みやすい場所を探そう。
俺も残念だがこれ以上ここに住むのは難しそうだ。
心の中のアルバムに、ここで過ごした日々を刻んでおく。
…………。
刻み終わった。
次は引っ越しの準備か。
……そういえばまだレッドドラゴンのスキルを確認していなかった。
図体がデカいせいか《解体》したはいいものの、スキルを取得するのに時間がかかってしまった。
鱗や肉や骨、臓器は使えそうなものを家に収納している。
可能性がないとはいえ商会に卸せば一財産になる物を、捨てる気にはなれないしな。
さて、超級の実力はどんなものか。
解体『炎の咢、レッドドラゴン』
・スキル《紅蓮の息吹》レベル8、《紅蓮の鱗、耐熱・耐衝撃》レベル7、《紅蓮の双翼》レベル7、《超竜の鉄牙》レベル6、《超竜の鉄爪》レベル6を取得。
おお、さすがに高スペックだな。
もっとも戦闘においてということで、日々の暮らしには役に立たなそうだが。
「アレン様どうでしたか?」
「おう、今回のスキルはな……」
フィーナにスキルの内容を説明する。
俺だけだと使い道が偏りそうだし。
「なるほど戦闘系スキルが中心ですね。あれ? でもこれって……」
「どうした?」
「あの《紅蓮の双翼》って何ができるんですか?」
「そりゃもちろん飛行だろうな。レッドドラゴンも飛んでたし」
んんん?
飛行ってことを空を飛べるってことだよな?
つまり──
「ここから出られる!」
「あ、アレン様? どうされました?」
「ナイスだフィーナ! 本格的に引っ越しするぞ!」
この森から脱出できることを告げる。
薄っすらと気づいていたフィーナも推測が確信に変わると、顔をほころばせた。
もうこんな魔物だらけの森に住まなくていいと思うと、俺もスキップしそうだ。
スローライフっぽい生活は好きだが、やはり死と隣合わせなの暮らしはストレスが溜まる。
「でも本当に良かったのか? フィーナはある男に追われているんだろ? ここから出たら危険が増える気がするんだが」
「そうです。でもアレン様がいるなら大丈夫ですよね?」
「もちろんだ。俺に任せてくれ」
そんなことを言われたらうなずくしかないだろう。
まあ超級竜種のスキルをゲットしたんだ。
そこいらの悪党には負けない自信はある。
「フィーナ、荷物をまとめてくれ。パラアキラの森を脱出するぞ!」
「はい!」
食料や水、その他資材をありったけ家に収納する。
マンドレイクやイカ芋も積めるだけ積んでいこう。
俺もフィーナもあまり金がないかので、いざという時の収入源は必要だ。
ワーウルフ(死体)が全滅したので《パペーティア》は使えないが、二人でも驚くほど早く作業は進んだ。
「出発だな。いくぞ」
「いきましょう!」
家の中に入って《紅蓮の両翼》を付与する。
壁にレッドドラゴンの翼が生えて羽ばたき始めた。
土台が地面から離れ少しずつ空に上がっていく。
元の姿と一ミリも共通点はないが、ちゃんと飛ぶのはスキルが《飛行系》ということだろう。
飛行系スキルは対象を物理法則とは関係なく飛ばす。
魔法使いが鳥のスキルを箒に付与して飛んでいる理屈だ。
「色んなことがありましたね」
「ああ、本当に色々あったな」
家を建て、食材を集め、魔物と戦い、そしてフィーナと出会った。
楽なことばかりではなかったが、毎日充実していたな。
新しい場所でもがんばっていこう。
パラアキラの森で生き抜いたんだ。
きっとなんとかなる。
こうして新しい居場所を求め、俺たちの旅が始まった。




