第三話 職業『建築師』
王宮は暗いどよめきに満たされた。
困惑と軽蔑の視線が俺に突き刺さる。
生産職の王子が現れるということは下手な魔物よりもおぞましく、汚らわしいことなのだろう。
口を押さえ満面の笑みを作っているのはグランの奴だな。
「出来損ないが。貴様には失望したぞ」
どう神託式を締めようか迷う神官を下げ、ゴルドウィン王が言った。
その目と声はどう見たって息子に向けるものじゃない。
「王として処分を言い渡す。第九王子、アレン・ブラッドフォートから王位継承権を剥奪。『パラアキラの森』に追放する」
「まってください王よ! 兵士でも庭師でも……い、いえ下水処理用の奴隷でもかまいません! どうか俺を王都に置いてください!」
俺は声を上ずらせながら必死に訴えた。
パラアキラの森は人類の支配地域の外で、魔物がウヨウヨいる危険な森だ。
フル装備の騎士団でも生き残れるかわからないのに、そんなところに追放されたら確実に死んでしまう。
そうしたらもう二度と母さんやエメリーに会えない。
「ならぬ。ブラッドフォートの血筋に生産職は必要ない。神官、転移スキルの準備をしろ」
「父上、私からもお願いします。追放するにしても今しばらくの猶予を頂けませんか? 家族と話したいこともあるでしょう」
「ローラン、聖騎士になって自惚れたか? 我の言葉は絶対だ」
ローラン兄様が庇ってくれたが、王は意見を変えるつもりはないらしい。
最悪の事態にガクガクと足が震える。
「転移は今この場で行う。変更はない」
「それではせめて身支度をさせてやってください。このままでは自害することもできません」
「よかろう。その程度は認める。ただし時間は今から十分だ」
「ありがとうございます父上。お前たち水と食料、それから武器だ! すぐに用意しろ!」
テキパキと従者に指示を出し、ローラン兄様は必要なものをあっという間に揃えてくれた。
「本当に感謝いたします。ローラン兄様」
「いや、力が足りなくてすまない。なんとか生き延びてくれ」
俺が話していう間にも転移スキルによって魔法陣が描かれていく。
そして、旅立つ時が来た。
荷物の詰められたリュックサックを背負わされ、俺は魔法陣の中心に立たされた。
神官がスキルの使用を宣言すると、青白い光が周囲を覆っていく。
「さっさと終わらせろ。二度と顔を見せるなよ出来損ない」
「……はい」
その言葉を最後に俺の意識は暗転した。
☆
「んっ……ここがパラアキラの森か」
目が覚めると俺は森の中にいた。
巨大な大木が立ち並び、そこら中に蔦草や雑草が生い茂っている。
遠くで聞こえる唸り声は魔物のものだろうか。
はぁ……今日は人生最悪の日だ。
一日で王子から国外追放者にまで堕ちるとは。
生産職だからってここまでの仕打ちを受けるとは思ってなかったぞ。
俺のせいで母さんやエメリーは、さらにつらい立場に立たされるだろう。
正直言ってもう生きてる意味もないんだが……。
俺はリュックサックからナイフを取り出し、じっと見る。
いや、やめておこう。
そもそもなんで俺が自殺しなきゃならないんだ。
あの王を……クソ親父を見返すまで死んでたまるか。
絶対に生き延びて俺を追放したことを後悔させてやる!
そうと決まれば、まずはスキルの確認だな。
スキルとは職業を授かった人間が持つ技術や魔法、特殊な能力のことだ。
頭の中でそのことを考えると、今使えるスキルが浮かび上がってきた。
アレン・ブラッドフォート
・職業『建築師』
・スキル《建築》レベル1、《解体》レベル1
ん? ちょっと待てよ?
一見もっともらしいスキルに見えるが、俺の知っている建築師のスキルは《高所作業》や《工具の補修》といったものだ。
いきなり何かを建築するなんてありえない。
……試してみるか。
俺は近くにあった大木にスキルを使ってみることにした。
ゴツゴツした幹に手を当てる。
「《建築》!」
俺の宣言に合わせて大木がぐにゃりと形を変える。。
枝や葉が落とされ虫が弾きだされ、綺麗な材木になると、一瞬にして住居が完成した。
俺のイメージした通りのログハウスに。