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第二十九話 VSレッドドラゴンPart2

 巨大な体躯が自分の半分にも満たない家屋に激突する。


 数多の城壁を突破してきた一撃だが、レッドドラゴンに手応えはなかった。


 肩にプニプニした感触が返ってくるだけだ。


(この壁スライムか? ────グゥッ!?)


 疑問に首をかしげる暇もなく側頭部を殴打される。

 家屋の側面に装備された丸太が振り回されたのだ。


(このっ、ヌウウ!)


 家屋には四本の脚が生えており、逆にレッドドラゴンへ《突進》した。

 牛の角のように丸太が鱗へ食い込む。


 爪で引き裂こうとしたが、その場で《跳躍》して回避された。


 挑発するように家屋はその場でピョンピョンとジャンプする。


「グルルゥ……ッ!」

(また奇妙な魔法を。目障りだ!)


 噛み砕こうと大口を開き、牙をギラリと光らせるレッドドラゴン。

 弾力のある石壁に牙をめりこませる。


(なんだこれは。噛みちぎれん)


 ゴムのように石壁が伸び、わずかに入った亀裂も《自動修復》されていく。

 そして、屋根のバリスタが竜の右目に狙いを定めた。


 乾いた音を立てて槍のような矢が放たれる。


 パシュン!


「グオオオオオオオオオッ!! ガアアアアアアアアァーーーーーッ!!」


 レッドドラゴンは眼球を潰され、焼け付くような痛みに苦悶する。

 毒が塗られていたのか傷口から嫌な匂いがした。


(ありえん! ありえんありえん! 人間ごときにこのオレが苦戦するはずがない!)


 怒りのままに至近距離から《紅蓮の息吹》を吐こうとする。

 この距離では自分も炎をくらうが、そんなことはもうどうでもいい。


 確実に敵を殺すことが何よりも優先される。


「ゴォ、オオオオオオオォ……」

(死ね人間!)

「レッドドラゴン、俺たちの勝ちだ」


 家屋の中から声が聞こえてくる。

 だが、レッドドラゴンに言葉の意味を理解する時間はなかった。


 音もなく今立っている地面が《解体》されたのだ。


(な……なにィッ!?)


 体が中に浮き、すぐに落下していく。

 これが常識外れに大きな落とし穴だということに、自分が罠にかかったということに、遅れて気が付いた。


 穴は深く底には石の杭がずらりと並べられている。


(どうやってこんなものを……いや、これはマズい!!)


 ここまでの大仕掛けを用意できる人数がいるようには見えなかったが、レッドドラゴンはその考えを振り払った。


 落下のスピードを乗せて柔らかい腹部に杭を突き立てられれば、さすがに無事では済まない。


 生まれて初めて必死に両翼を羽ばたかせる。


(これで回避を……な、なぁっ!? やめろォ!)


 ドスンと片翼の上に四本脚の家屋が着地する。


 もう片翼には狐娘が高速で爪を走らせ、翼膜をズタボロに切り裂いている。


 一瞬浮き上がった巨体が再び落下を始めた。


「お、オオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 走馬灯。今まで自分が嬲り殺してきた魔物や人間の顔が頭をよぎる

 自分が死に向かっていることを生まれて初めて実感した。


(これが敗北……オレが弱者だと!? 認めん! そんなことは決して認め──)


 ザグンッ!! その音を最後にレッドドラゴンの意識は途切れた。


 石の杭が下アゴから脳天を貫き、彼は絶命した。






 ☆





「勝ったのか……」

「そうです。わたしたちの勝ちですアレン様!」


 ボロボロになった我が家の屋根で俺はつぶやいた。

 隣では土埃まみれのフィーナが涙を浮かべている。


 徹夜で地面を《解体》した意味はあったようだ。

 スキルをほぼすべて付与した我が家もよくがんばってくれた。


 俺たちはレッドドラゴンに、超級魔物に勝った。


 初めて理不尽に打ち勝ったのだ。






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