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第二十七話 理不尽

 燃えるように赤い鱗、全長二十メートルはありそうな巨体、見るものに畏怖と絶望を与えながら、レッドドラゴンは前進を続ける。


 目についた魔物はすべて等しくエサになった。


 剣のように長い牙を突き立てられているのは、前に戦ったこともあるアーマードボアだ。

 丸々と太った体がパンのように飲み込まれていく。


 大きな翼もあるが飛ぶつもりはないようだ。

 腹を満たしたくてたまらないのか、首を忙しく動かし獲物を探している。


「アレン様どうでしたか?」

「大変なことになった。レッドドラゴンだ」

「超級竜種のレッドドラゴンですか!? おとぎ話に出てくる魔物ですよね!? ……あの、もしかして冗談とか……」

「残念ながら現実だ。しかもこのままのルートだと確実にこっちに来る」

「そんな……」


 以前見た赤い鱗はアイツのものだったのか。


 あんな化け物が通れば草の一本も残らないだろう。

 家も畑もお終いだ。


「でもどうして急に動きだしたんでしょうか?」

「冬眠から覚めて空腹なんだと思う。周りの魔物を喰いまくってたからな」


 つまり腹が膨れるまで進撃は止まらないだろう。

 この辺り一帯が荒野になるかもしれない。


「まあここにいたら確実にエサだと思われるだろうな」

「い、今すぐ逃げましょう。だって超級ですよ!? 聖騎士や大賢者いるパーティーでもないと絶対に勝てっこありません!」


 フィーナの言うことはもっともだ。

 いくら建築師のスキルが強力でも、勝てるかどうかわからない。


 でも俺は真逆の選択肢を選んだ。


「どうしたんですかアレン様。まさか戦うなんて言わないですよね……?」

「フィーナ、俺だって今すぐ逃げ出したくてたまらない。。でもアイツから逃げたらこの先もずっと怯えて暮らすことになるかもしれない。だから俺は戦いたい。勝ちたいんだ」


 フィーナの目を真っすぐに見つめて言う。

 もう二度と理不尽に屈したくはなかった。


 この森に追放された時のように。


「できればフィーナにも一緒に戦ってほしい。強制はしないけど」

「ふぅ……仕方ありませんね。いいですよ。あなたに助けられた命です。死ぬ時も一緒ですよ」

「ありがとう……っ!」


 ぎゅっとフィーナを抱きしめる。

 彼女のやさしさに甘えるんだ、どんな手を使ってでも勝ってみせる。


 ドラゴンを倒すのは本物の王子様じゃなくたっていいはずだ。


「アイツは近い内にやってくる。戦闘準備だ」

「はい!」


 俺は周りの大木を片っ端から《解体》して巨大な柵を設置する。

 ハードルのように五十メートルおきに四つの柵を置いた。


 これが防衛ラインだ。


 次に蔦と木材で投石機を造り、柵の後ろに並べていく。

 砲弾は地面から掘り起こした石を一つに《建築》して作った岩だ。


 採石場から切り出したものほど頑丈ではないが、ないよりマシだろう。

 すべての岩に《毒の胞子》《麻痺の胞子》《眠りの胞子》を付与しておいた。



「《パペーティア》何か問題が起きたらすぐに伝えろ」

「ガルル」

「ガウウウウ」


 二体のワーウルフ(死体)を偵察に出す。


 今の俺が操れるのは後六体、こいつらには投石機とフィーナのサポートを任せよう。


 次は俺たちの家だ。


 外壁には《ウォーターボディ》と《自動修復》スライムから取得した分をぜんぶ使う。


 《建築》レベル4で自走できるようにして、側面にはランスのように尖らせた丸太をくっつけた。


 屋根の上にはバリスタを置く。

 この位置なら家の中から《建築》レベル2操作できる。


「本当にやるんですか?」

「任せてくれ。絶対に間に合わせてみせる。


 俺は《解体》のスキルを全開し、切り札の作成の取り掛かった。


 そして、十二時間後。

 レッドドラゴンが一番手前の柵、第一防衛ラインの前に現れた。


「アレン様、来ます!」

「いくぞフィーナ」

「ガルルルウウ!」


 俺とフィーナ、八体のワーウルフ(死体)は、第四防衛ラインで投石機の前に立った。


 やれることはやった。

 後は俺たちの力が超級に通じるか試すだけだ。


 戦闘が始まる。





小説家になろうで投稿を始めてから、初めて1000ブックマークを越えました。

これも読者の皆様のおかげです。本当に感謝いたします。


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