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第二十六話 幸せな時間

 雪も解けたのでイカ芋の畑を再開することにした。


 保存した分は冬の間にほとんど使ってしまったからな。

 前と同じように畝を立てて半分に切ったイカ芋を植えていく。


 気温はまだ少し低いが、一月半もすれば収穫できるようになるだろう。


 あと、家に籠っている間にスキルのレベルが上がった。

 やることがなくてひたすら家具を《建築》しては《解体》した甲斐があったようだ。


 《建築》レベル4 建物を自走させる。

 《解体》レベル4 建物に《解体》スキルを付与する。


 《解体》レベル4のおかげで余った資材を収納しておけるようになった。

 入る量は自分の体とは違い馬車六台分程度だがかなり便利だ。


 なんでも自分の体に収納しておくと入れた資材を忘れてしまうことがある。

 倉庫に収納しておけばリストも作っておきやすい。


 そしてもう一つの《建築》レベル4だがこれは……。


「……アレン様には申し訳ないですが、わたしこのスキル苦手です」

「そう言うなよ。よく見たらけっこう可愛くないか?」

「ないです」


 ですよねー。

 我が家に生えた四本の脚、ブリキ人形のような脚部をフィーナはジト目で見る。


 個人的にはカッコイイと思うのだが、オシャレ好きな彼女にはまったくハマらないようだ。


 あとは俺が命令すれば、レベル2とは比べものにならないくらい軽やかに走るのだろうが、庭が滅茶苦茶になるので試してみる勇気はない。


 というかこのスキルの使いどころがよくわからないのだが……まあいいか。

 《建築》レベル4を解除する。


 天気がいいので庭でフィーナとお茶を飲もう。。


 テーブルセットを一瞬で出せるのが建築師のいいところだ。


「紅茶の葉、最後になっちゃいましたね」

「これだけ植物があるなら代わりになる葉っぱだってあるさ。絶対見つけてみせる」

「ふふ、その時はわたしもご一緒しますね。そうだ。お弁当も作っていきましょう」

「いいなそれ。明日にでも行こうか」


 俺がそう言うとフィーナは「はい」と、うなずいてくれた。

 生活に余裕ができて毎日働く必要もなくなった。


 好きな時に仕事をして好きな時に遊ぶ。

 少し退屈だがこんなスローライフで一生を終えるのも良さそうだ。


 日々の小さな幸せと大切な人がいればそれだけで生きていける。

 なんか爺さんみたいな考え方だが、青い空を見ていると追放された恨みなんてどこかに消えてしまった。


「平和だな」

「平和ですね」


 目の前を蝶々が飛んでいる。

 俺が幸せを噛み締めていると、地面が大きく揺れた。


 ゴ、ゴゴゴゴゴ。ゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオッ!


「じ、地震ですか!?」

「伏せろフィーナ!」


 大急ぎでテーブルの下に隠れる。

 紅茶の入ったカップが地面に落ちて割れた。


 ようやく揺れが治まると、俺たちは恐る恐るテーブルの下から這い出た。


「はぁぁ……びっくりしました。地震なんて子供の頃以来です」

「本当に地震だといいんだけどな」

「違うんですか?」

「何か嫌な予感がする」


 怪鳥が一斉に南の方向に飛んでいくのが見えた。

 空気の匂いが変わり、小型の魔物が大慌てで逃げていく。


 そして、空に向かってゴオオォッと、巨大な火柱が立ち上がるのが見えた。

 オレンジ色の炎が俺たちを照らす。


「なっ、なんですか今の!?」

「ヤバいことが起こったことだけはたしかだな。見てくる」


 《建築》で大木を束ね川を探した時のように天辺から森を見る。


 火柱の発生地点には悪夢としか思えない存在がいた。


「マジかよ……」


【超級】魔物『炎の咢、レッドドラゴン』が。




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