第二十三話 マンドレイク
解体『アーマードボア』
・スキル《突進》レベル3、《嗅覚探知》レベル2を取得。
中級魔物だがけっこう便利なスキルを取得できた。
特に《嗅覚探知》は使い道が多そうだな。
「アレン様、ノコギリ草が取れましたよ!」
「お、やったな。今日の晩飯にしよう」
ノコギリ草というのはホウレン草に似た植物だ。
葉がやたらとトゲトゲしているが、火を通すと柔らかくなって美味い。
日持ちしないのが難点だが、これも一月程度で収穫できるので畑の隅で栽培している。
ちなみに同じものばかり食べるのも飽きるので、収穫したイカ芋の大半は乾かした後に木箱に詰めて、倉庫に保存している。
これからは育てられる野菜を増やしていきたい。
「フィーナ、ちょっと新しい野菜を探しに行ってくる」
「わかりました。畑のお世話をしながら待ってますね」
「何かあったらすぐ家に戻るんだぞ。あそこが一番安全だからな」
「はい。いってらっしゃいませ」
手を振るフィーナに見送られながら森の中を進む。
この辺りの魔物はあらかた倒してしまったので、襲い掛かってくる敵はいない。
怪鳥のさえずりを聞きながら、道を遮る木々を《解体》していく。
そうだ。
ここで《嗅覚探知》のスキルを試してみよう。
「《建築》《嗅覚探知》」
《建築》した木箱にスキルを付与する。
これで探したい匂いを命令すれば、その方向に木箱が反応するはずだ。
今回は明確な目標がないので、俺の嗅いだことのない匂いにしておこう。
こんな大雑把な命令でも反応するのだろうか?
カタン、コンコン。
地面に置いた木箱が北の方角に反応している。
《建築》レベル2動かして犬の散歩をするように後を着いていく。
木箱は小さく造っておいたので、畑の時のように疲れることはない。
「ん? これは……」
道の真ん中に赤い鱗が落ちていた。
俺の頭くらい大きくて初めて見るタイプの鱗だ。
近くに上級魔物がいるのかもしれないな。
遭遇するかはわからないが、一応警戒しておこう。
そうしてしばらく歩くと開けた場所に出た。
なぜかここの場所にだけ木が生えていない。
「これは……」
オレンジ色の花をつけた植物が点々と咲いている。
ぐねぐねと捻じれた葉っぱに茎、この植物は図鑑で一番見たことのある奴だ。
あらゆる呪いを解く霊草、『治癒術師』や『薬師』が求めてやまない『マンドレイク』だ。
「本当にあったのか……」
あまりに希少すぎて売買している店は公にされていない。
購入するのもほとんどが王族か貴族で、貨幣に換算すれば一本で白金貨30枚に相当する。
白金貨30枚といえば俺の家族が一年は食べていける金額だ。
「やった! 俺大金持ちじゃん! 大金持ち……大金持ち……」
ガッツポーズを決めてスキップしようとしたところで我に返った。
この森じゃ換金しようがないし、買う物もない。
というか金に意味がない。
……まあいいか。
レアな植物を見つけたわけだし、フィーナに自慢しよう。
ただ、マンドレイクをそのまま引き抜くと、聞いた者が発狂するほどの悲鳴を上げるらしい。
マンドレイクと犬を紐で結んで引っ張ってもらうのが図鑑に書かれていた方法だが、これだと犬が死んでしまう。
そもそもここに犬がいないわけだが、こんな時こそスキルの出番だ。
「《パペーティア》」
《建築》で出したロープをワーウルフ(死体)に持たせ、マンドレイクに結んで引っ張ってもらう。
すでに死んだ魔物なら悲鳴も問題ないだろう。
「よし、後は任せたぞ」
「ガウウ」
俺は耳に葉っぱを詰め、少し遠く離れた場所で成り行きを見守る。
「キャア、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
マンドレイクは引き抜かれると凄まじい悲鳴を上げた。
おお……この距離でもちょっと頭がクラクラするな。
近くにいた野鼠に似た魔物が泡を吹いて倒れる。
すべてのマンドレイクが引き終わると、俺の周囲に生き物は一匹もいなくなっていた。
よし、持って帰るか。
家に着いてフィーナに見せると、俺と同じリアクションをしてその後がっかりした。




