第二十二話 畑を作ろう
イカ芋が食べられることがわかったので、本格的に栽培することにしよう。
まずは植える場所の確保だな。
家の周りの木を《解体》し、20×25メートルほどの更地にする。
地面に残っている木の根や雑草、石も《解体》し、野菜が育ちやすい環境にする。
《建築》では鍬や鋤を造ることはできなかったので、これは自作した。
やっぱり剣や槍を連想させるものはダメなようだ。
さあ本番はここからだ。
「いきます。《スピードスター》!」
「《建築》レベル2」
フィーナは鍬を持ち、高速で地面を耕していく。
俺は柵を操り牛か馬のように地面を耕していく。
フィーナは元気良く土を掘り起こしていくが、俺はあっという間に汗だくになった。
スキルに頼れば疲れないと思ったが、大間違いだったようだ。
初めはなんともなかったが、十分を過ぎた辺りからどんどん集中力と体力が削られていく。
レベル2の操作はもっと訓練が必要なようだ。
「ふぅっ、できましたね」
「おお……お疲れ様……」
「アレン様もお疲れ様です」
丸一日かけてやっと土を柔らかくできた。
フィーナがいなかったら途中で投げ出すくらいに疲れるなこれ。
続きは明日にして今日はもう休もう。
料理をする気力が残ってないので、イカ芋を塩で食べてその夜はすぐに就寝した。
翌日。
鍬で土を上げて畝の形に成形する。
昨日の反省を活かして《パペーティア》でワーウルフ(死体)を操って手伝わせよう。
「ガウ、ガウガウ」
「ワウ、ワオオン」
無言でも命令は伝わっているはずだが、リアクションを取ってくれた方がわかりやすくていい。
ここでも《スピードスター》が活躍し、瞬く間に長さ25メートル、幅1.3メートルの畝が十五本完成した。
王都近くの村だと牛か鶏の糞を発酵させたものを混ぜていたが、ないので今回は省略。
後は畝に溝を掘って半分にしたイカ芋を一定間隔で置いて、土をかぶせるだけだ。
「おお、やっぱ腰にくるな」
「アレン様がんばりましょう」
時間はかかったが、できた。
椅子に座って二人で完成した畑を眺める。
「ふぃー、やっとできたな。中々いい感じじゃないか」
「アレン様って農業の知識もあるんですね。わたしの知らないことばっかりでびっくりしちゃいました」
「農家のおじさんの受け売りだけどな。色々と省略してるし、ちゃんと生えてくるかわからないぞ」
「でもすっごく頼りになりますよ。自分に自信を持ってください」
俺の手にフィーナの手が添えられる。
黒曜石のように綺麗な瞳と目が合った。
そういえば他人に頼りにされたことなんてほとんどなかったな。
王子の中でも王位継承権に一番遠いどうでもいい存在だったし。
自分でも気づかない内に卑屈になっていたのかもしれない。
「そうだな。フィーナの言う通りだ」
「そうですよ。アレン様すごい人なんですから」
俺たちは手を繋いで家に帰った。
土でドロドロに汚れたし、全身筋肉痛だがいい気分だ。
それからしばらくは水をやったり、雑草を抜いたりしてイカ芋畑の世話に明け暮れた。
埋めた芋はすぐに発芽し、すくすくと順調に育っていく。
肥料もやっていないのに不思議だが、こちらとしては大助かりだ。
「《建築》!」
「《ミラージュスタイル》!」
「ブヒイイイィ……」
生育途中で『アーマードボア』という猪の魔物が芋を狙ってきたので、撃退した。
やはり害獣対策は必要か。
畑を四角に囲むように柵を建て、《パペーティア》でワーウルフ(死体)を警備に置いた。
これで不届きな魔物は激減した。
そして植え付けから一か月後、ついに収穫の時が来た。
「すごい! いっぱいですよアレン様!」
「ああ、やったな」
茎を引き抜くと拳サイズのイカ芋が連なって出てきた。
大豊作だ。
しかし、村で見たジャガイモは三月に植え付けて六月に収穫していたよな。
成長速度が明らかにおかしいんだが、どうなってんだこの芋。
じっとイカ芋を見るとイカに似た目が見つめ返してくる。
……まあ、食べられるから大丈夫ということで。




