第二話 神託式
「お待ちしておりましたアレン王子。ではこちらへどうぞ」
馬車は王城に到着し、俺は執事の案内で城の中を進んでいた。
大理石の柱が左右にならぶ広い廊下を通りると、神託式の行われる王宮が見えてくる。
「……すごいな」
王宮の中は人で溢れかえっていた。
護衛の兵士に大臣、序列の高い王妃が呼んだ従者がそこかしらにいる。
王座にはゴルドウィン王がこしかけ、そばにいる神官と話している。
相変わらず馬鹿みたいに大きな王冠を被り、カールした髭を弄んでいた。
神託ではずれ職業を引いた時のために複数の王妃を抱え、王子や王女を増やしているらしいが、母さんに会いにも来ない男のことは好きになれないな。
「なにお父様のことをジロジロ見てんだよ。相変わらず気持ちワリぃ奴だな」
「バルド兄様……」
背中を小突いてきたのは第七王子のバルド・ブラッドフォート。
赤毛で鋭く尖った髪、まるでチンピラみたいな嫌な奴だ。
生まれはこっち方が一月ほど早いのだが、王妃の序列が上のため、俺は他の王子を全員様づけで呼んでいる。
そんな理由でもなければ絶対こんな態度取るものか。
「うわっ、その兄様って呼び方鳥肌が立つぜ。まあ呼び捨てにしたら殺すけどな」
「……兄様は今日の式に自信があるのですか?」
「あ゛? 当たり前だろ。オレなら聖騎士、無理でも戦士として上級戦闘職に成りあがってやるよ」
経験値を積めば職業のレベルが上がって転職もできるようになるが、この自信はどこからくるのか。
こういう奴こそ建築師になって親方に絞られればいいのに。
「まあせいぜい生産職を引かないように祈っておくんだな。あんなもんクソ才能のない庶民どもがやることだからよ。お前が生産職になったら笑ってやるぜ」
「そこまでにしておけ。口が悪いぞバルド」
「ろ、ローラン兄様! すみません」
横から現れてたしなめたのは、第一王子のローラン・ブラッドフォート兄様だ。
九人の王子の頂点に立つ存在、さすがのバルドも尊大な態度は取れないようだな。
短く整えられた金髪と甘いマスクで王都中の女性に大人気と聞いている。
うーん、たしかにハンサムだ。
「も、もうすぐ式が始まりますね。それじゃ俺はここで失礼します」
気まずくなったのかバルドがその場を去る。
フンッ、いい気味だ。
「まったく王子の数が増えると困った奴もでてくるな。気にするなよアレン」
「兄様、ありがとうございます」
「ここだけの話だが私はお前に一番期待している。他の王子にありがちな驕りがないからな。一緒にこの王国を良くしていこう」
「こ、光栄です!」
そう言ってローラン兄様は俺の頭をポンポンと撫でた。
なるほどこれは女性にモテるわけだ。
「それではこれより神託式を始めます。王子たちは前へ」
大臣に呼ばれ俺と八人の王子が神官の前に集まった。
あれほど騒がしかった王宮がシンと静まり返る。
いよいよ本番だ。緊張するな。
「第一王子、ローラン・ブラッドフォート前へ」
ローラン兄様が神官の前に進みでる。
神官が《神託》のスキルを発動すると、ローラン兄様の体が山吹色に光った。
山吹色は戦闘職の証だ。これが緑色だと生産職ということになる。
「神託を告げる! 職業は『聖騎士』!」
「おおおおおおおおぉっ! さすがはローラン様」
「素晴らしい。これからのプログレス王国を背負っていくのはやはりこの方ですな」
周りから歓声が上がる。
スタートから聖騎士なんてさすがだ。
「第二王子、ギルバート・ブラッドフォート前へ!」
ギルバート兄様の職業は『大賢者』だった。神経質だが頭のいい兄様らしい職業だ。
その後も『魔獣使い』『武道家』など職業が決まっていく。
ちなみにムカつくバルドは『戦士』だった。
残念。
そして、ついに俺の番が回ってきた。
「第九王子、アレン・ブラッドフォート前へ!」
心臓をバクバクさせながら結果を待つ。
《神託》のスキルを受けると他の王子と同じように俺の体が山吹色に光り──、いや、待った。淡い緑色に光ってる!?
もしかしてこれって……。
顔を引きつらせる俺をギョロリと睨みつけながら神官が言った。
「神託を告げる! 職業は『建築師』!」
……終わった。