第十七話 これからの話
フィーナがここに来てから七日が経過した。
一人で暮らしていた時に比べるとかなり生活が充実してきたが、気になることもある。
彼女はずっとここにいていいのだろうか。
あそこで倒れていたこともそうだが、何か事情があるとしか思えない。
きっと俺のようにろくでもない事情が。
「アレン様どうかなされました?」
「いや、なんでもない。洗濯用の水を持ってきたぞ」
「今日は晴れて良かったです。一緒にお洗濯しませんか?」
「よし、やるか」
《解体》した水を洗濯桶に注ぐ。
俺もフィーナも三日分ほどの着替えしか持っていなかったので、洗濯は頻繁にしている。
葉っぱに《建築》と《スパイダーネット》を使うことで服らしくものを造ることはできるが、本物の着心地にはほど遠かった。
魔物の毛皮でもあまり差がなかったので、こればかりはもっと素材が必要なのかもしれないな。
「綺麗な空……これなら早く乾きそうですね」
「なあフィーナ訊いてもいいか?」
「はい? なんでしょうか?」
物干し竿に服をかけているフィーナがキョトンとした顔で返事をする。
この顔を曇らせるのは気が引けるが言うしかない。
これ以上先延ばしにしてもいいことはないだろう。
俺は思い切って彼女の事情に首を突っ込むことにした。
「詮索しないって決めたのに悪いんだが、ずっとここにいてもいいのか? もし行くところがあるなら力を貸すぞ」
「それは……」
フィーナの顔が天気と真逆の表情になった。
ぎゅっと胸を押さえてつらそうだ。
「わたしは居候させてもらっている身です。お邪魔でしたらすぐに出て行きます……」
「そういうことを言ってるんじゃない。俺のことが理由でフィーナの目的を邪魔をしたくないだけだ」
「…………」
沈黙。
うう、空気が重苦しい。
逆に俺の方が泣そうになった時、フィーナが口を開いた。
「もう気づいていると思いますが、わたしはある人に追われて転移魔法でこの森に来ました。だからここから出ていく方法を知りません」
やっぱりそうか。
まあ旅人が道に迷って辿り着ける場所じゃないよな。
「そうか。まあ俺も似たようなもんだ」
「目的はあります。でもそれは外の世界に出たとしても解決できません。むしろここの方がまだ……」
よくわからないが深い事情があるみたいだな。
しかし、こんな魔物だらけの森がいいって、まさかフィーナは罪人なのだろうか。
「アレン様、もし良ければわたしをここに置いてくれませんか? どんなことだってします! きっとあなたの役に立ってみせますから!」
買い手のいない奴隷が主人を求めるようなセリフだ。
そんなことを言わなくてもこっちとしては余裕でオッケーなのだが。
俺がかっこいい返答を考えていると、フィーナはナイフを取り出した。
え、なんで?
「やっぱりダメですよね。わたしみたいな怪しい女嫌ですよね……。こうなったらもう命を絶つしか……」
「ストップ! ストップ! いいぞ! ここに住んでいいって!」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ……本当だ。だからそのナイフを置いてくれ」
パアッと笑顔を咲かせるフィーナ。
なんか乗せられた気がするがまあいいか。
罪人だろうがなんだろうが会話ができるなら魔物より百倍マシだ。
「ありがとうございますアレン様! フィーナ命を懸けてお仕えしますね!」
「いや、そこまではいいからな」
こうして俺の家に同居人が来たのだった。