第十五話 生産職の戦闘
フィーナが伏せたのを確認すると、俺はバラバラなった木材を杭に《建築》四方八方に伸ばした。
「グウウウウウッ!」
「ガゥッ! ガアアアアアアアアッ!」
「キャウンッ! クウウウンッ!」
わざとらしい悲鳴を上げながら胴体に杭をめりこませるワーウルフ。
俺はその中の一体に近づくと《解体》した。
肉や骨がバラバラになって俺の体に収納されていく。
生きているものは《解体》できないので、やはりこいつらは人形だ。
そして、ワーウルフの肉体の中で唯一収納できずに、弾かれるものがあった。
木を《解体》する時と同じように。
「ギイイッ!」
「ビンゴ! お前が正体か!」
俺の前に転がり出たのは一匹のムカデだ。
こいつは図鑑で見たことがある。
『パペーティアセンチピード』獲物の耳から侵入し、脳を食いつくして体を乗っ取る邪悪な魔物。
そして、そうやって侵入するのは子供で、全体の動きを指示する母親がいるはずだ。
「出てこい! そうしないとお前の子供が死ぬぞ!」
俺は子供ムカデを踏み潰しながら大きな声で叫ぶ。
こうされては黙っていられないはずだ。
「ギル、ギルギルギル……キシャアアアアアアアアアアアッ!」
「これが人形遣いの正体……あ、アレン様すぐに逃げないと!」
木々を踏みつぶし母親が現れる。
上級魔物『パペーティアセンチピード・マザー』宿屋程度ならぐるぐる巻きにできる巨体を前に、フィーナが青ざめながら叫ぶ。
王都なら騎士団が百人がかりで戦う相手だが、俺には関係ない。
あのゴブリン戦で戦い方は理解できた。
「心配するな。すぐに終わらせる」
「無理ですそんなの! 戦闘職のわたしでも絶対に勝てませんよ!?」
「生産職だって守られてばかりじゃないんだぜ。《建築》!」
周りの木々を連続で触り一つの形にまとめる。
大木のように長く太い巨大な剣に。
「シャアア……キイイイイイイイイイイイイイイイッ!」
「ぐ、ぐおおおおおおおおおおおおおおぉ!」
マザーは怒りに任せてこっちに突っ込んでくる。
その巨体で轢き潰すつもりなのだろう。
俺はレベル2のスキルで巨大剣を持ち上げる。
この重量だと長くは無理だがそれでかまわない。
「大樹の重剣!」
マザーの来る方向に巨大剣を振りぬく、というか重さに任せて倒す。
「ギッ!? ギガァアアアアアアアアアアッ! ギ……ギギ……」
「はぁはぁ……狙う獲物を間違えたな」
巨大剣の下敷きになり、パペーティアセンチピード・マザーは息絶えた。
この重さだと刃がなくても問題ないな。
「キィッ!」
「キキィ……」
母親が倒されたことで子供たちはワーウルフの体を捨てて逃げ出した。
これでもう俺たちを襲おうとは思わないだろう。
「す、す、す、す……」
「す? どうしたフィーナ」
「すごすぎます! アラン様はやっぱり勇者様ですよ!」
「だから生産職は勇者になれないって」
「関係ありません! わたしが決めました!」
「お、おい」
興奮したフィーナが抱き着いてくる。
う……胸の柔らかい感触がヤバいな。
「また助けられてしまいましたね。ようやく恩返しが出来ると思ったのですが」
「気にするな。その内返してくれればいい」
「そうですね。……考えてみます」
フィーナは顔を朱色に染めながら言う。
何を考えているんだろう。
「とにかくコイツをバラして帰るぞ。それでご飯にしよう」
「はい! とびきり美味しい魚料理を作りますね!」
耳をピョコピョコ、鼻をフンフン鳴らすフィーナをなだめながら、俺はマザーの《解体》に向かった。