第十四話 VSワーウルフ
ワーウルフのランクは中級、数は見える範囲で八体か。
群れのリーダーを倒せば撤退すると思うのだが、どいつもこいつも同じ姿で見分けがつかない。
家に戻ればスキルも資材もフルで使えるが、ここではゴブリンと戦ったような仕掛けを用意できない。
今の手持ちだけで勝つしかないな。
まずは杭を《跳躍》で飛ばして──
「いえ、ここはわたしに任せてくださいアレン様」
「無理するな。あの数相手に一人でどうするつもりだ」
「心配無用です。わたしの職業は『魔法戦士』ですから!」
「お、オイ!」
俺が止めるのも聞かずフィーナは飛び出していった。
一番手前にいたワーウルフに襲い掛かる。
ワーウルフは鎌のように両手十本の爪を伸ばし、迎え撃つつもりのようだ。
「ガル、ガアアアアッ!」
「スキル《ドッペルゲンガー》!」
声に合わせてフィーナの両腕がワーウルフと同じ形になる。
なるほど。見た相手の外見をコピーするスキルか!
「くらいなさい! ハアアァアアーッ!」
「ギャウッ! グウウウウウウ……」
フィーナの爪がワーウルフの胴体を切り裂き絶命させた。
さすがは獣人、魔獣相手にもまったく引けを取らない。
武器の性能が同じならスピードの速い方が勝つってことか。
「見てましたかアレン様! このまま残りもやってしまいますね」
「ああ、でも無理はするなよ」
さすがは戦闘職ということなのか、一体また一体とワーウルフを撃破していく。
俺は手を出さすただその様子を眺めていた。
別にビビッたわけじゃない。
ただワーウルフの行動があまりに奇妙だったからだ。
「ギャウウウゥ……」
「これで四体目……です!」
なぜ敵は一体ずつフィーナの相手をして倒されているんだ?
普通は仲間を助けようとするはずなのに、周りで見ているワーウルフは微動だにしない。
まさかこれは……。
「フィーナ下がれ! 罠だ!」
「え? あ、あうううううううぅっ!」
倒したはずのワーウルフが起き上がり、背後からフィーナを襲った。
蹴りが背中を直撃しスラリとした体が転がる。
くそ、やられた。
そういうことか。
「大丈夫か!?」
「はい……でもこれは一体……」
「どこかに人形遣いがいるみたいだな。こいつはただの傀儡だ」
「傀儡ですか?」
「楽に倒せたのはこっちを油断させるためだろう。まんまと釣られたってわけだ」
美味しそうなエサには釣り針があるってことが。
釣りの帰りに俺たちが釣られるとはな。
さて、どうするか。
人形遣いはどこにいる。
「アレン様ワーウルフが!」
「くっ、《建築》!」
こっちが攻めてこないとわかると、一斉にワーウルフが襲い掛かってきた。
よく見ればその目に生気はなく、ガラス玉のようだ。
一瞬で小屋を《建築》して中に立てこもる。
これでしばらく時間が稼げるはずだ。
「あ、ありがとうございます。でも人形だとすると、どうやって操っているんでしょうか」
「そこが謎なんだよな。糸のようなものは見えたか?」
「いえ、なにもなかったと思います」
そうだよな。
そばで見ていた俺にも怪しいものは見えなかった。
糸でないなら幻惑魔法かと思ったが、それだと実体がないことに気づくはずだ。
実体をもつ幻影は『大賢者』でもなければ創りだせないはずだし他の可能性は……。
「アレン様! 壁が壊れそうです!」
くそ、調子に乗りまくってるな。
もう一度建築を……いや待てよ。
この手でいけるかもしれない。
「フィーナ、今から小屋を《解体》する。視界が開けたら急いでその場に伏せてくれ」
「りょ、了解です。でもアレン様はどうされるんですか?」
「俺に考えがある。信じろ」
そう言うとフィーナはコクンと頷いた。
ワーウルフの攻撃でバキバキと壁がはがされていく。
あと少しで突破されるその瞬間、俺は小屋を《解体》した。