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第十三話 釣りと釣られ

 うーん、どうやって説明しようか。

 というか他人から見ても今の現象はおかしかったんだな。


『建築師』のスキルだと言っても信じられないだろうし……。


「い、今のはだな……」

「今のはなんですか!」


 フィーナがキラキラした瞳でこっちを見てくる。


 なにか嘘を吐くのも気が引けるな。

 お互いのことを詮索しないのはいいが、スキルのことまで隠すこともないだろう。


 これが王都なら面倒なことに巻き込まれかねないが、こんな森じゃ俺を利用したって銅貨一枚にもならないしな。


「俺の職業は建築師だ。今のは《解体》のスキルでバラした資材を体の中から出して、《建築》のスキルで釣り竿とバケツにしたんだよ」

「建築師にそんなスキルはないと思うのですけど……冗談ではないのですね?」

「信じられないのはよくわかる。俺だってなぜこんなことができるのかわからないからな。でもこれが現実だ」


 そう言って二人分の椅子を《建築》してみせた。


 フィーナは信じられないという様子で俺と椅子を交互に見ている。


 むう、正直に話したのは失敗だったか?

 こういう特異なスキルを持っていると引かれてしまうかもしれない。


「すごい! すごい! すごいですアレン様! わたし感激しました!」

「そ、そうか……?」

「はい! だってこのスキルなら好きな物が造れるじゃないですか。可愛い家具だって食器だってなんでも思いのままですよ!」


 たしかにその通りなんだがこんなに褒められるとくすぐったいな。


 というか母さんとエメリー以外に褒められたのは久しぶりだ。


「どうやって一人でこの森に暮らしていたのか不思議だったのですが、このスキルの力だったのですね。もしかしてアレン様は伝説の勇者の血族なのでは?」

「ないない。俺は親は平凡な人間だよ。だいたい勇者の血を引いているなら戦闘職になってるって」


 平民出身で王宮の侍女から王妃になった母さんはともかく、あのクソ親父が特別な血統の可能性はある。

 だがそれなら尚更俺だけが生産職の説明がつかない。


 他の八人の王子は全員戦闘職だしな。


「それより今は釣りを楽しまないか。ほら、もう一匹釣れたぞ」

「アレン様早い! わ、わたしも負けませんから!」


 俺から釣り竿を受け取るとフィーナも竿を振る。

 ぽちゃんと針が落ちるとすぐに魚が集まってきた。


 人間がまったくいない森なので釣られることに対する警戒心がないようだ。

 小魚ばかりだが二時間で二人、五十六匹は釣れた。


「三つ目イワシですか。海だけじゃなくて川にも住んでいるんですね」


 以前チラッと見た時も思ったが、やはりこの森に普通の生き物は住んでいないようだ。

 そこの岩にくっついている巻貝も剥がしてみたら歯がびっしり生えていたからな。


 ちなみにこういう低級にも満たない魔物からはスキルを取得できなかった。

 《解体》して資材にはできるが、食べ物を《建築》すると身が崩れてしまうのでしたくない。


「魔物だから塩水とか淡水とか関係ないんだろうな。今夜はコイツで飯にしよう」

「じゃあ素揚げにしてみますね。まだ油も残っていると思いますし」

「それは楽しみだな」


 俺とフィーナは顔を見合わせて笑った。

 やっぱり話し相手がいるのはいいな。


 楽しいことを分かち合える。


「そろそろ帰るか。この森はすぐに暗くなる」

「はい。行きましょう」


 釣果を持って家までの道を戻る。

 その途中で不穏な痕跡を発見した。


「あれ? この道にこんな足跡ありましたか?」

「これはまさか……!」


 明らかに俺たち以外の足跡が残っている。

 よく見れば不自然に木の枝が折れたり幹に傷がついていた。


 ……めんどうなことになったな。


 木々の間から俺たちを包囲するように、複数の魔物が現れる。


「ガルルル」

「グルルルゥッ!」

「アレン様……あれって」

「俺の後ろに隠れていろフィーナ」


 尖った牙に鋭い爪、集団で狩りをするがゴブリンとは比べものにならない戦闘力を持つ魔物、『ワーウルフ』がこちらを睨んでいた。





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