第十話 新たな出会い
ゴブリンたちとの戦いから二日が過ぎた。
また襲撃があるんじゃないかという不安で、今もぐっすり眠れていない。
しかし、これは当り前のことだろう。
魔物だらけの森にたった一人で住んでいるんだからな。
低級ばかり相手にしていて、のんきに寝ていた数日がおかしかった。
これからはいつ何時でも戦えるように気を張っていないとな。
今はゴブリンの死体を《解体》しながら家の周りを掃除しているところだ。
それにしてもこのゴブリンども全然スキルを持っていないな。
まったく、ただ働きもいいところだ。
「うわー、ぐちゃぐちゃだな。こんなんでも《解体》できるのか?」
もう原形を留めていない隊長ゴブリンをもっと細かくして体に収納する。
こいつくらいはスキルを持っていてほしいんだが……。
解体『ゴブリン・リーダー』
・スキル《指揮》レベル3、《対毒》レベル1を取得。
《対毒》は字の通りとして《指揮》はパーティーの攻撃力や防御力を上げるバフのスキルだ。
騎士団長なんかがよく使うスキルだが、ゴブリンからゲットできるとは思わなかったな。
試しに使ってみるか。
「《指揮》!」
家の中に入ってスキルを付与してみる。
俺の体が赤く光って力が湧いてきた。
「おおっ、これはいいな」
体が軽くなって天井近くまでジャンプできるようになった。
テーブルだって片手でひょいっと持ち上げられる。
たしかに強力なスキルだが……。
「やっぱり外だとダメかー」
家の外に出ると途端に効果が切れてしまった。
剣や槍に付与できればいいんだが、俺が使うとなると杭くらいか。
試しに大木を倒して持ち上げてみようとしたが、重すぎて十秒しか持ち上げられなかった。
やっぱり戦いには不向きだな。
というか俺が強くなってもあまり意味がない気がする。
後方から援護するならともかく、前衛でバチバチ戦える職業でもないわけだし。
本当なら仲間が欲しいところなんだが……。
「いるわけないよな……」
あのまま第九王子として王都にいれば、家来なんて選び放題。
家事だってメイドにやってもらえたわけだがそれも夢幻に消えた。
あ、ヤバい。
急激ににさみしくなってきた。
何日も独り言ばかり言っているとストレスも溜まる。
母さんやエメリーが恋しい。
俺を庇ってくれたローラン兄様とだってもう話せないし……いや、ネガティブになるな!
こういう時は気分転換だ。
食料を調達するついでにいつもと違う道を通ってみよう。
川のある西とも岩場のある東でもない南に進む。
藪が多くて歩きにくいがたまにはこういうのも……ん? なんだあれは。
「おい! 大丈夫か!」
木々の間に女性が倒れているのが見えて、俺は急いで駆け寄る。
ここに人間は来れないはずのだが、動きやすそうな服装から推測すると道に迷った旅人だろうか。
「うぅ……」
よかった、まだ息はある。
女性を背負うと俺は走ってきた道を引き返した。
「これで良くなるといいんだが」
熱があるようなので、女性をベットに寝かせて煎じた解熱の薬草を飲ませる。
『治癒術師』や『薬師』でもないのでちゃんと効いているかわからないが、これで治ると信じたい。
……それにしても綺麗な女性だな。
腰まで伸びる艶やかなブラウンの髪、プロポーションは王都一番の踊り子のようだ。
それと頭からピョコンと伸びた狐耳、もふもふと柔らかそうな尻尾がとても可愛い。
狐耳と尻尾……?
狐耳と尻尾……!?
この人、獣人なのか!?
。