第一話 九番目の王子
「おはようございます。お兄様」
鈴の音のように澄んだ声が聞こえる。
目を開けると金色の髪をショートヘアに揃えた少女がいた。
妹のエメリーだ。
「いつまでも寝ていてはダメですよ。王子としての自覚をもって頂かないと」
「お前だって王女だろエメリー」
俺の名前はアレン・ブラッドフォート。プログレス王国の第九王子だ。
王子というと贅沢三昧できらびやかな生活を送っていると思われがちだが、俺の生活は王都の一般市民とまったく変わらない。
住んでいる家も服も食事もいたって普通、いやむしろ貧乏よりかもしれないな。
「ふぁぁ……ねむ。式は午後からなんだし、もう少し寝ててもいいだろ」
「いけません! そう言ってお兄様はいつも遅刻するんですから。前だって一緒にお祭りに行くっていったのに遅れて……」
「わかったわかった起きるって」
口喧嘩では妹にかなわない。
むくりとベッドから体を起こす。
「もうしっかりしてください。今日はお父様に会うのでしょう」
「お父様……ね」
父親のゴルドウィン・ブラッドフォートは七人の王妃を持ち、俺の母さんはその七番目にあたる。
数字が一に近いほど強い権力を持ち、序列の低い王妃は城に住むことも許されない。俺も父親の顔なんてパレードくらいでしか見たことがない。
ちなみにエメリーは第十一王女で王女の中では一番下にあたる。
「そんなことを言ってはダメですよ。緊張するのはわかりますけど」
「おい、あんまりくっつくなって」
エメリーが後ろからぎゅっと抱き着いてくる。
その手はかすかに震えていた。
「お前の方が緊張しているじゃないか。大丈夫だ。なんとかなるって」
「だってもし神託でよくない職業が出たら……しょ、処刑なんてことになったらどうしましょう!」
「王は厳しい方だって聞いてるけど、まさか自分の子供を殺したりしないだろ。結果が悪かったら兵士として働かせてもらえばいいさ」
神託というのは今日の午後、王城で行われる『神託式』のことだ。
この世界で十六を過ぎた子供は神官から職業の神託を受ける。
職業が戦闘職の『戦士』なら兵士や冒険者になる道を選べ、逆に生産職の『羊飼い』なら一生羊の世話で終える可能性が高い。
エメリーが心配しているのは、王が生産職を冷遇していることだろう。
王子たる者強くあるべし、後継者は上級戦闘職の『聖騎士』や『大賢者』のようなものしか認めないらしい。
それでも『戦士』や『魔法使い』ならまだ今後の成長性に期待して、王城に置いてもらえるかもしれない。
悲惨なのは『羊飼い』『占い師』ましてや『建築師』なんかになったら最悪だ。
昔大臣が職業を偽り、建築師と発覚した時はその場で切り捨てたそうだからな。
まあ王子九人の中で一番下の俺とはいえ、殺されることはないと思うが……。
「お兄様、もう帰ってこないなんてことありませんよね……?」
「心配するなよ。俺は必ず帰ってくる。約束する」
俺はエメリーの手を握って安心させてやった。
「二人ともなにしてるの。もうご飯よー!」
「よし、じゃあ準備するか。まずは朝飯だな」
「はい!」
母さんに呼ばれ俺たちはテーブルに向かう。
パンといつもより少し具の多いスープを飲んで、それから身支度をした。
しばらくすると迎えの馬車が来た。
もうすぐ神託式が始まるのだ。
「いってくる母さん、エメリー」
「いってらっしゃいアレン。あなたならきっと聖騎士になれるわ」
「お兄様に神様のご加護がありますように」
上級戦闘職の託宣を受ければ王城に住むことができる。
母さんやエメリーに王族らしい生活をさせてやれる。
そんな俺を乗せ馬車は出発した。