96話
ダンジョン二日目、朝を迎えて、本当に朝かわからないけど、俺たちは引き続きダンジョンを進んでいた。
昨日までは十二階層まで攻略できていたので、次の階層の十三階層から始まることとなった。そして同じように俺、スカルノ、カイの三人だけで基本的には戦闘を行っていた。一回だけ後ろからもグレイウルフが来たので、その時はハスターナとメリアナが倒していた。
二人だけであったが何も心配する暇もなく倒すことが出来ていた。俺とスカルノだけでも倒せると思うので、特に驚くことではない。
どこまでカイが使えるのかということは気になるところだが、これに関しては進んで行って確かめるほかないと思う。その時が来たら俺がフォローすることになりそうなので面倒だが、死んでしまうということは流石に嫌なので助けはするがその後から攻略がどうなるかが心配である。
まぁ今考えてもしょうがないか。帰ることになったとしてももう一度潜ればいいだけの話だし。でもランクAの四人と潜るのは楽だと思うし、実際今も楽なので少し残念ではあるけどね。
そうして進んで行き、一度の休憩の後十六階層に居た時に懸念していた問題が発生してしまったのであった。
「っ!」
一体のグレイウルフと戦っているカイが爪での攻撃を上手く受け止め切れずに態勢が崩れてしまった。
スカルノは二体のグレイウルフを相手していてすぐに助けに入ることは出来ないし、気を緩めていたメリアナとハスターナもそれは同じことだろう。つまりこのままでは攻撃を受けてしまい、無事では済まないだろう。
もちろん俺がいなかった場合の話ではあるけど。
カイに攻撃をしようとしているグレイウルフのちょうど下の地面から、氷の柱を生み出し弾き飛ばすように突き出した。攻撃しようしていたグレイウルフは避けることも防ぐことも出来ずにお腹に氷の柱が当たり、後ろに飛ばされたのであった。
攻撃されると思っていたカイはその場で固まってしまい、ただ目の前にある氷の塊を呆然と見ているだけだった。その間にスカルノも残りのグレイウルフを倒し、俺も飛ばしたグレイウルフに止めを刺すために水の弾を撃ったのだった。
無事に全て倒すことは出来たが、ここでカイが足止めをすることさえ出来なくなってしまった。本人は悔しそうにしているがこの階層はまだしも、次の階層からは無理であろう。進むごとに魔物が強くなっていくダンジョンではギリギリ倒せる階層が引き返すタイミングとなっている。
そこで無理をしても次の階層で死んでしまうだけなのだから。
「俺は……」
「カイはこの階層まで戦闘に加えることにする。しっかりやれよ」
「……わかりました」
とても悔しそうにしているが、スカルノに言われたことに反論はないようで大人しく頷くのであった。
「レヴィ、次からの戦闘は一体多く任せてもいいか?」
「あーうん。いいよ」
「それじゃ、頼むわ」
んーそれにしても今更だが、なんで俺と一緒にダンジョンに潜ることにしたんだろうか。実力があったことはわかっていたなんて言っていたけど、それが本当であればカイの実力と合っていないことはわかっていたはずだ。
そうすれば実力の違いを見て、こうして悔しがることがわかっていたと思うのだが、逆にそれが狙いだったとか? あり得る話だが想像にしか過ぎないので何とも言えない、けどスカルノたちがカイのことを思っているのは事実だと思うので、おそらくはそういうことなのであろう。
実害が出ないのであれば別に構わないけれど、攻略が遅れることになるので何かしらの対価を求めたいところだが、これは後でにしておこうか。今言うのは流石に空気が読めていない行動になると思うから。
そして今いる十六階層ではカイの動きは悪くなることはなく、スカルノがフォローすることによって怪我もなく進むことが出来ていた。
俺の倒す魔物の数が増えたが、カイをフォローするよりは楽なので文句なく倒すことに専念していたのだった。何度か戦闘をして進んでいると、下への階段を見つけることが出来たのであった。
「一度休憩にしようか」
「そうね。この後の並びも変えないといけないことだし」
とのことで階段で休憩することとなった。
「それでどうするの?」
「そうだな。俺とレヴィはこのままでいいだろう。いや、やっぱりやめてハスターナを前にするか」
「ん? 結局どうするの?」
「よし、決めた。前はハスターナとレヴィ、その後ろにカイ、メリアナとサイズ、最後に俺という並びで行こうか。これで行けるところまで行ってしまおう」
「わかった」
「カイも魔物の位置がわかるんだから休んでいる暇なんてないからな」
「はい」
話している最中ずっと俯いていたカイだったが、少しだけではあるが元気が戻ったみたいであった。
「それにいつも言っているとは思うが、他の人の動きを見ることは大切だからな。良いところをどんどん盗んで行けよ」
確かに見て学ぶことも大事なことだな。まぁ俺のことは参考になるかはわからないけど、頑張ってくれ。そんな気持ちが入っていないエールを密かにカイに向かって送るのであった。
それから短い休憩を終えて攻略を開始するのであった。
「んじゃあ、基本的には私が一体多く倒すことにする。ま、後はその場その場で適当にやればなんとかなるだろ」
「適当ねー」
「後ろから見ていたがそれが出来るようだったしな」
「わかったよ」
ハスターナの武器は大剣で重そうだがそれを軽々と持ち上げて振り回していた。獣族の熊人ということで、その力は強いということもあって出来ていることなのだろう。その分巻き込まれたら大変なことになるが、気を付けていれば大丈夫だ。
それに基本的には後ろから攻撃をするので巻き込まれることはない。このダンジョンは通路も広いため余裕で大剣を振り回すことも出来る、そのためいつも通りの攻撃が出来るということだった。
そのいつも通りがわからなかったけれど、強いことはわかるので最初の方は後ろからどんな様子なのか見させてもらうことにする。
少し歩くとグレイウルフが四体襲ってきた。俺が伝え、カイがさらに詳しく伝える。その頃にはすでに目視できる位置まで迫っていたのであった。
とりあえず俺はまず一体を水の弾を撃ち仕留めた。しかし怯むことなく近づいて来たところをハスターナが持っている大剣で二体のグレイウルフを薙いだ。その二体のグレイウルフは綺麗に身体を二つにわけ、魔石を残して消えていったのであった。
すごいと思ったが、もう一体いるので見ているだけではなく俺も行動に移した。今までカイもいたことからずっと遠距離での攻撃をしていた。しかし今はいないので気にすることなく近づいて行ける。
残ったグレイウルフ近づいて行き、それと同時に右手に剣を出した。そしてそのまま一気に距離を詰めると、横に一閃し切り払った。すれ違いながらもグレイウルフはその身体を消して魔石だけが地面へと転がったのであった。
「ふー」
俺は息を吐きながらも転がった魔石を回収していると、
「レヴィも中々やるな。近接も出来ると言っていたけど、ここまでとは思っていなかった」
「ハスターナもすごかったよ。まさか二体同時に切るとは思わなかったよ」
「あれくらいどうってこともないさ」
その後も同じように倒したり、また別の形で戦ってみたりとハスターナと二人で楽しみながら進んで行ったのであった。俺の方が前に出てみたり横に並んで一緒に戦ったり、まだ上手くいかないことの方が多いがそれでも少しずつ動きが合っていき、階層を進むごとに強くなっていくにも関わらず、倒すまでの早さは速くなっていったのであった。
そうしてあっという間に進んで行き、ボスがいる二十階層に到達したのであった。




