95話
十一階層からは狼系のグレイウルフという魔物が出てくる。基本的には上の階層で出て来るワイルドドッグの上位互換と言ったところだろうか。
流石にワイルドドッグリーダーと比べるとその強さは弱いが、重要なのはその狼系の魔物が複数で襲ってくるというところだ。しかもボス部屋のように広い空間ではなく、狭い通路での戦闘となるので余計に戦いづらくなることもある。
通路も余裕で五体横に並べる広さなので、正面からやって来る魔物を数体ずつに分けて戦うということも出来ない。しかも狼系だからかそれぞれの連携が犬系の魔物よりも上手く連携をするみたいだ。
そのため一見上の階層よりも少しだけ難易度が上がっているように見えて、油断しているとすぐにこっちがやられてしまうということもあるとギルドにあった資料には書いてあった。
まぁ特にこのパーティでは問題視はしていない。一つ気になるとしたらカイをどうするのかというところだろうか。
どうするのかと思っていたが特に変える様子もなく、今まで通りの並びで進むことになった。いいようにカイのサポート役になるのは嫌なんだけどな。とりあえずは様子を見ることにしようか。
そうして十一階層を歩いていると、早速魔物が近くにいることがわかった。数は三体、出て来る魔物はグレイウルフしかいないため、何の魔物かと言うということは気にしなくて大丈夫だ。
「少し進んだ左側に三体」
「わかった。倒すぞ」
俺の報告にスカルノが戦うことを決めて、近づいて行った。そして近くまで行くと、まだ姿は見えていなかったのだが、グレイウルフがこちらに気付くと同時にカイが、
「三体こちらに向かって来ます!」
と言う声を出したのだった。
すぐに姿を現したのは俺の身体の胸当たりの大きさの灰色の狼たちだった。その名通りの色をしていて、動きは速く一般人であれば牙や爪で攻撃されたらひとたまりもないような感じである。
「レヴィは一体! カイは一体足止めしてくれ!」
「はい!」
スカルノの指示を聞いて返事を返すことなく俺は水の弾を生み出して、グレイウルフに撃った。頭を狙って撃ったのだが、それに反応したのか少し避けようとしたが間に合うことなく命中した。一体目のグレイウルフは倒せたのであった。
そして他の二体はと言うと、スカルノとカイがそれぞれ相手をしていた。
カイは倒すというよりも足止めするということをきちんと守っているようで、攻撃を受けないようにしていた。スカルノはと言うとこちらは慣れているかのように、攻撃を避けてから剣を一振りして倒していた。
その後スカルノはカイがどれくらい戦えるのか見てから、
「レヴィ頼む」
と言って来た。スカルノに対して近いんだし、自分で何とかしろよと思ったが、しょうがないのでさっきと同じように水の弾を撃って倒したのだった。
「とりあえず問題ないみたいだな」
魔石を回収しながらそう言って来たスカルノは魔石をメリアナに渡すとすぐにカイのところへと行って、もっとこうした方が良いといってアドバイスをしているようだった。
俺は後でも良いのではと思ったのだけれど、口出しするのは悪いと思ったので黙ってみていることにした。
「ごめんね。普段はこんなに説明しないんだけど、意識すればすぐに直せそうなことで余裕がある時はこんなふうになっちゃうのよ。それにしてもレヴィちゃんはまだ若いのにすごいわね」
「メリアナだってまだ若いじゃないか」
「そう?」
メリアナの正確な年齢はわからないが、見た目では二十歳にいているかどうかというかんじである。それなのにランクがAなのはすごいことだと思う。スカルノでも二十代の真ん中らへんだと思うし。
「すまん、待たせたな」
やっと終わったようで、俺たちは引き続き進んで行くことにした。
それから何度か戦闘があったが、俺とスカルノは同じように倒していき、カイも一回も攻撃を受けることなく戦えていた。そしてしばらく進んでいると、下へと続く階段を見つけることが出来たのであった。
「思っていたよりも時間が掛かってしまったな。もう一階層進んだら今日は終わりにしようか」
ということになった。やっぱり俺が疑問に思うことはどうやって時間を確認しているのかということだった。時計みたいなものも持っていないようだし、体内時計という奴だろうか。
十二階層も少しだけ魔物の強さは上がっているが、ここも問題なく進むことが出来てすぐに階段のところまで辿り着くことが出来たのであった。
「よし、今日のところはここで休むことにして、明日からまた進むということで、飯にしようか」
ダンジョン内で一日過ごす時には寝る場所を考えないといけなく、基本的にはボス部屋の前が一番多く使われる。そして次に多いのは階層間を移動するために使う階段であった。このどちらも魔物が現れることはなく、安心して眠ることが出来るので基本的にはこのどちらかで休むことになるようだ。
もちろんわざと途中で休むことにして、見張りなどを経験するということもしている人もいる。しかしそれが出来るのは上の浅い階層である。下に行くほど魔物の出現頻度も増えるので、まともに休むことなど出来ないのだ。
それといくら魔物が現れないからと言っても見張りをしなくてもいいということにはならない。魔物の心配はないが危ないのは魔物だけではなく、他の人のことも注意しないといけない。
物を取られたり攻撃してきたりと想像できることは多くある。そのため周りを見ておく人は必要なのであった。
「そう言うわけで見張りは俺、メリアナ、サイズ、ハスターナが交代でするってことでいいな」
「待ってください! 俺も出来ますよ!」
「でも今日はもう疲れただろ。明日からは今日よりも大変になるんだ、だからカイはしっかり休んでおいてくれ」
「実力が足りないってことですか」
「まぁそうだな。でも強くなるためダンジョンにこうして潜っているんだ。今は気にしなくてもいいぞ」
「……はい」
カイは今でさえギリギリな感じだし見張りをして休めなかったということは避けたいんだろうな。そう言うことであれば俺も見張りをしても良いはずではあるのだが、スカルノから目で何も言うなという訴えを受けたので、黙っていることにしたのだった。俺は空気は読めるのである。
「そう言えば今回はどのくらいまで進む予定なの?」
この大事なことを俺は聞いていなかったので、改めて聞いてみると、
「言ってなかったか。少なくとも次のボスまでは進む予定だ。その後は状況次第だな、進めるようなら進むし、だめなら戻る」
「そっか」
「食料とかは余分に持って来ているから心配はいらないし、とりあえず進めるところまで進んでみるといった感じだな」
「わかった」
ダンジョンだということもあって簡単なスープを食べて、後は寝るだけとなった。ちなみに作ったのはサイズで、味の方は美味しかった。料理が出来るのはサイズだけで後はメリアナが少しだけ手伝うだけで、他は全く出来ないとのことだった。
まぁこのメンバーなら納得できるような感じだったので、サイズが作ったものが美味しかったことに驚いただけで、後はなるほどと思ってしまったのであった。
「んじゃ、レヴィこっちで寝るぞ」
ハスターナに呼ばれその近くで寝ることになった。同じパーティの中でもきちんとわけているらしく、男と女で少しだが離れて寝るようだ。これは俺がいるからというわけでもなく、普段からこんな感じであるらしい。
見張りはメリアナ、スカルノ、ハスターナ、サイズという順番で行う。サイズが一番後なのは朝食を作るという役目もあってそうなっている。他は適当に決めていた。
寝るのは毛布だけで地面は硬かったが俺には関係ないことなので気にしなかった。でももし普通の身体だったら全身痛くなっていたかもなどと少し考えてしまうのであった。
とりあえず朝になるまで出来ることはないので、大人しく毛布に包まって横になっていることにしたのだった。




