85話
大いに盛り上がった翌日、屋敷の中でのんびりと何もせずに過ごしていた。
これは他のリカルドたち冒険者組も同じで全員がどこにも出かけることなく、屋敷の中でくつろいでいた。昨日トロールガーディアンと戦ったせいでみんなは疲れ果て、今日は休みと決まったのであった。
俺は疲れていないのでどこかに行こうかと思ったのだが、全員が休む日だからどこにも行くなと言われてしまい、行けなくなってしまったのだ。
ユアやマリーなどの女性陣はいつも通り家事をしたりして、忙しそうにしていた。それを見ているだけなので申し訳なく思ってしまう。だからと言って手伝うと言っても断られるので、結局のところ何も出来ずに終わるのである。
男たちの方は仲良く話をしているようだし、それに混ざろうかと思ったのだが大人たちの話だからレヴィはだめだと言われ、追い出されてしまった。そのため暇過ぎてぼーっと座っているしかないのであった。
なんというか仲間外れにされている感じがして、少し悲しいがしょうがないことなのであろう。みんな優しいことはわかっているのできちんと理由があってのものだと思うし、俺のことも考えてくれていると思うので、文句を言うことは出来ない。それでも仲間に入れて欲しいと思ってしまうのは止めることは出来ないが。
ただただ外を眺めながらぼーっとしているがこんなことをするのはこの世界に来て初めてのことかもしれない。なんだかんだ忙しかったし、夜も基本的には何かの練習などをしていたので、こうして何もせずにいるのは本当に久しぶりである。
今まで色んなことがあった。海を彷徨ったり、森を彷徨ったり、奴隷商に捕まりみんなで脱出したり、ゴブリンの大群が押し寄せて来て、その後はずっとダンジョンに通ってばかりだった。
そうして今俺は冒険者ランクがCとなって、一人の冒険者として認められるようにまでなっている。未だに全員がそうであるとは思えないが、ギルドマスターには頼ってもらえたのでそれは良いと思う。
前の世界では絶対に体験できなかったであろう出来事を色々と体験している。それも全部が良い結果で終わって、とても楽しく過ごせている。それがどれだけ幸せなことなのか一応はわかっているつもりだけど、人間良くなるとさらにさらにと思ってもっと良い方へと目指してしまう生き物だと思っている。
実際俺もそうだ。今よりももっといろんな経験をして、強くなりたいと思っている。しかしそれは出来ない。この街で過ごしていく以上今よりも力は必要なさそうだし、このままでも充分通用すると思う。昨日のトロールガーディアンでもそれがわかった。
リカルドでも苦戦する魔物を簡単に倒すことが出来てしまったのだ。実力だけで言えば冒険者ランクAの人と同じということになる。それだけの実力を持っていればこの街で困ることはないと思う。
まぁランクAは強い人ばかりだと思うので、他の街でも同じような感じになると思うがそれでもこの街にいるよりかは大変になると思う。この街には強い人もたくさんいるのでその人たちが協力すれば大抵のことは解決出来ると思うしね。
でもそれは関係のない話だ。このクランを離れるわけにはいかないので俺はずっとここにいるつもりだし、安定した暮らしが出来るのだ、文句の付けようがない。
ああ、こうしてぼーっとしていると意味のない考えまでしてしまうからあまり良くない。この世界ではやることは決まっているので、前の世界のようにどうしようか、何しようかなどと考えることもない。これが成長したということなのだろう。
そうしてのんびりと過ごしているといつの間にかお昼になっていた。クランのみんなで一緒にお昼ご飯を食べたのはいつのことだろうか。なんだか懐かしく思えてくる。
昼ご飯を食べ終わった後、リカルドが話があると言ってきた。これにはユアと一緒には来ないで、一人で来て欲しいと言われた。もともとユアはまだ手伝いが残っているので来ることはないが、そこまでしてする話とは一体何だろうか。真剣な様子だったので真面目な話だとは思うけれど。
その後は二階へと上がってリカルドの部屋で話をすることとなった。主に仕事部屋として使っているところだな。
本来であれば男と二人きりの部屋というのは気にすることがあるのだと思うが、リカルドだし今更だからな、お互い気にすることはないな。
俺の対面にリカルドが座って話し始めたのであった。
「俺らで話し合ったのだが、決めるのはレヴィだからな。きちんと最後まで聞いて決めて欲しい」
何やら真面目な感じで話が始まったが、一体なんだろうか。まぁ一応最後まで聞いて見るけどさ。
「うん。わかったよ」
俺の返事を聞いて、頷くと話し始めた。
「レヴィはダンジョンを一緒に攻略している時から強いやつだと思っていた。そしてダンジョンを完全攻略した時もやっぱりレヴィならやってしまうかともさえ思った。そしてゆっくりと色んなことを教えていって、もっと成長してから外の世界を見せていこうと思っていたんだ」
「うん」
「もう少し成長して、色んなことにも対処出来るようになってからでもこの街を出るのは遅くはないと思っていたんだよ。まだ若いし時間もたくさんある。だが昨日のトロールガーディアンを倒した時のことを見て、その考えも変わった」
そんなことを考えていたのか。
「レヴィ、お前は今すぐにでもこの街を出てもっと広い世界へと行くべきだと思っている。そのためであれば出来ることは何でも協力するつもりだ。そのことを午前中話し合って、みんなも同じ意見だった」
「そうだったんだ」
「どうだ? この街にずっといないでもっと広い外の世界に行ってみないか? レヴィならもっと強くなれると思うし、色んなものを見てたくさんのことを知れると思うぞ」
「そう言われても……クランのこともあるし」
「野良の住処は確かにみんなを助けるつもりで作ったし、それでレヴィの助けになるのであればいいと思って作ったんだ。だからレヴィの妨げになるようにことにはしないし、それに俺たちがいるから大丈夫だ。何も心配することはない」
「でもそれは無責任じゃ……」
「初めにクランを作る時も伝えたが別にレヴィがそこまで気にする必要はないんだ。勝手に俺たちがレヴィの役に立ちたいと思って作ったものだ。だから責任を感じることもない。だから気にせずに行っていいんだぞ」
そうは言ってくれるがやっぱりクランを作ると決めた以上はきちんと責任を持たなければならないと思う。みんながちゃんと暮らしていけるようになっているのであればいいのだろうが、まだ女性も働くことは出来ていないし子どもたちも何も決まっていない。
確かに俺に何が出来るんだと言われれば、特にないということになってしまうのかもしれないが、それでも残って見守ることであれば出来る。そのくらいはしなくちゃいけないと思う。
「それに、レヴィのも行きたいんじゃないか? 最近はずっとギルドで色んなものを調べていたんだろ。この周辺のことだけじゃなくて他の場所のことなんかも調べていたからトロールガーディアンのことも何も聞かずに対処して見せた。だからそう思ったんだが、違ったか?」
「それは……」
「ま、とは言ったものの急いで決める必要はないさ。ゆっくり考えてから決めてくれ。無理強いするつもりもないからな。でも俺の意見としては行った方が良いと思っている。一回真剣に考えてくれな。よし! 話はお終いだ」
そう言ってリカルドは立ち上がり部屋から出て行ってしまった。
確かに女性たちも彼女たちだけで買い物に行くことが出来たし、子どもたちも勉強しているようで最近は何をしたいという言葉も聞こえるようになったそうだ。ユアもずっと俺にべったりというわけでなく、俺から離れて手伝いをするようになった。全体的に前よりもはるかに良くなっているとは思うが、でもそれでも……。
俺はどうしたらいいのだろうか。そんな考えがずっと頭にこびりついて考えていたが、結局答えは出ず、少しの間そのまま座って考えていたのであった。お風呂だと言いに来たユアの姿を見るまで、その場で動くことなく考え続けていたのだった。




