8話
俺たちは街の中を四人で歩き、冒険者ギルドへと向かっていた。
空はすでに暗くなっていたが、まだ寝る時間には早いのだろう。お店なども開いていて、中では楽しそうにしている声や人をよく見かけることが出来た。
俺たちが捕まっていた奴隷商は、冒険者ギルドとは少し離れているらしく、途中飲み物をアルターナに買ってもらったり、座って休憩をしたりして、ゆっくりと向かっていた。
アルターナやリカルドは隣の子を気にしてだろう、ちょくちょく後ろを振り返っては大丈夫かどうか確認してくる。答えを返しているのは毎回俺なのだが。
いざとなれば俺が子ども一人くらい背負っていけると思うし、子どもの方も眠そうだが頑張っているので、もう少しは大丈夫だろう。
ずっと俺の手を離さずにいる、この子どもはまだ上手く話すことが出来ないようだったが、飲み物は普通に飲んでいたため、ショックによって声が出ないのだと思っている。
痛いとかそういうのもないみたいだし、一先ず安心だ。
これも時間が経てば治るとは思うのだが、名前など色々と話をして聞くことが出来ないでの少し残念だ。
身体も馬車で運ばれてから一回だけ水を浴びただけなので、まだ汚いままであり早く何とかしてやりたいと思うのだが、それも冒険者ギルドに行くまでの辛抱だろう。
その水浴びも上から水を落としただけだしな。牢屋の中で俺も綺麗にしてやりたかったけど、それで違和感などを感じて面倒になっても嫌だったので出来なかったのだ。
その中でも髪の毛は特にひどく、長いわけではないようだがボサボサでひどく絡まっているようだった。
足も裸足なので何とかしてやりたいのだが、今は一刻も早く冒険者ギルドに着くのが先なのだろう。靴を買うことは俺には出来ないし、頑張ってもらうしかないな。
道が綺麗で平らなのが救いだな。これで小石とかが転がっていたら痛かっただろうし。
俺の能力も自分以外の服や靴を作ることは出来ないからな。
そうこうして、やっとの思いで冒険者ギルドに着いた。
「さ、着いたわよ。ここが冒険者ギルドよ」
アルターナが得意げに言ったその建物は、周りの建物と比べても大きく、そして迫力のある建物だった。
三階建てになっているようだったがその一階の高さが二階分の高さなので、建物全体では四階建てくらいの大きさになっていると思う。
そのままアルターナを先頭に冒険者ギルドへと入っていった。
置いて行かれないように前の二人に付いて行くのと、隣の子どもの様子を見ていることもあり、あまりしっかりと建物内の様子は確認することはできなかったが、どうやら冒険者ギルドの一階部分は飲食店も兼ねているようであった。
奥のカウンターへと行きやすく通れるようにはなっているが、それを挟むように多くのテーブルと椅子が置いてあった。
今はあまり人がいないので静かではあったけど。
真っすぐカウンターまで行き、受付に一言言うと、アルターナは俺たちを連れてすぐに奥に入って行く。俺たちはその様子を見て黙って付いて行くしかなかった。
「悪いけど、リカルドはこのままギルマスに話をしに行ってもらうからよろしくね」
「わかった。それじゃあ、嬢ちゃんたちは先に休んでてくれ」
カウンターの奥に入ってすぐに、リカルドたちは話をしなくてはならないと言って、ギルドの職員たちに俺たちを引き渡した。
そこからは流れるようにギルドの職員たちに動かされた。
始めに流石に汚かったのであろう、シャワーを使える部屋まで行き、すぐに子どもの服を脱がせて、丸洗いした。
俺は汚いと感じなかったのかシャワーを浴びるかどうか聞かれたので、それを断り近くで見ていることにした。
職員たちは慣れた手つきで、子どもを動かして洗っている。
そしてわかったことだが、この子は女の子だということだった。いや、さっきまではそれすらもわからないような見た目だったのだから、しょうがないと思うんだけども。
声も聞くことが出来ないし、まだ子どもだからというのもあるが汚れていて、分かりづらかったし、とまぁ色々と理由があったのだ。
誰に言い訳をしているのかわからなかったが、そうこうしている間に洗うのは終わったらしく。
洗ったことで綺麗になり、タオルで拭かれた後、新しいTシャツを着せられ、やっと解放されると、俺に抱き着いてきた。
大人しくしていないといけないことはわかっていたようで、ギルドの職員たちに洗われている間はすごく大人しかった。汚かったことも一つの理由かもしれないが。
抱き着いてきたので頭を撫でてやると、これまた新発見があった。
それは頭に動物の耳があったのだ。どうやらこの子はケモ耳少女だったらしい。まさに衝撃的な事実を知ってしまった。
身体を洗っているときにわかるだろうと思うが、女の子ということが最初にわかったので、そこからは見ないようにしていたのだ。
見ていても見た目的には問題ないことはわかっているのだが、見てはいけないと思ってしまったのだ。
頭の耳はぴょこぴょこと動いている様子はとても可愛らしく、思わず触りたい欲が出てきたがそこを我慢して、今は頭を撫でることだけにしておく。
いずれはその耳をぜひとも触らしていただきたい。
その少女は髪の毛と頭の耳は真っ黒で、瞳は琥珀色というのだろうか、綺麗な瞳を持っていた。
それを見て、猫という単語が浮かんできたが動物の耳は詳しく知らないので、後で何の耳なのか、ぜひ聞いてみたいところではあるな。
「この部屋を自由に使ってください」
そのままギルドの二階へと行きギルド職員に一つの部屋に案内された。その部屋には二つほど二段ベッドあり、今日はここで休んでいていいそうだ。
その職員に聞いてみたところ、先に馬車で来た女性たちも、別の部屋ですでに休んでいるようだった。
一緒に歩いてきた女の子も流石に疲れていて、限界みたいだったので、俺は女の子をベッドに寝かせた。
しかしいくら眠そうにしていても、俺のことを離すことはないようで手を強く握られたままであった、それを見て俺は手を離すことを諦めて一緒のベッドに寝ることにした。
実際に俺が寝るかは別ではあるが。
女の子の方は俺が隣で横になっていることを確認すると、すぐに規則正しい寝息が聞こえてきた。
その横顔を見ると、とても可愛らしく、この子のことを守ってあげたいとそんなふうに思えた。
成り行きで助けた感じだが、きちんと考えないといけないな。そのためにも俺はこの後どう行動するかというのは大切になっていくことだろう。
この街の様子も少しだがここまで来るときに見ることが出来たし、冒険者ギルドというものがあるということも分かった。
まだこの世界のことは全然わかっていないが、冒険者ギルドということは依頼などを受けることも出来るようになると思うし、その他も計算ができるだけでも、もしかしたらそこら辺のお店で雇ってもらえるかもしれない。
とにかく今は出来そうなことを考えて、より良い方へと行けるように心の準備をしておくというのがいいのだろうな。
結局のところ思い付きや、その場の勢いで子どもたちを助けることになったがやって良かったと思えた。
そう思えるのも気持ち良さそうに隣で寝ているこの少女のおかげであろうな。
ふと、冷静になると思い出すことがあった。そう言えば、なんで俺はこの世界の人と普通に会話することが出来ているのだろうか、と。
当たり前に会話をしていたが、思えば不思議なことだ。この世界の言葉を初めて聞いた時からちゃんと言っていることを理解していたし、話すことも出来ていた。
もしかしたら、たまたま同じ言葉を使っているからなのかとも思ったが、それは文字を見てみないことにはわからないと思う。
転生するときにあの男性が特別にこの世界の言葉を理解できるように何か細工したのかもしれないし、俺のレヴィアタンという能力によって自然と理解できるようになっているのかもわからない。
まぁ特に困ることもなく、便利なので良いのだが、それなら文字の方も分かるようにしてもらいたいと思う。
そのことは実際に見ないとわからないが、まだこの世界の文字を見る機会がなかったので、明日当たり出来るのであれば確認したいところである。
早ければ早い方がいいと思うし。
それからああでもない、こうでもないと、今後のことを考え、もとい妄想しながら寝っ転がっていると、静かに誰かがこの部屋に入ってくるのがわかった。
入って来た人の方を見ると、リカルドの姿があった。
「悪い、起こしちまったか?」
そして俺と目が合ったからか、そんなことを言ってきた。
「いや、寝てなかったから大丈夫だよ」
「そうか、一緒に寝ているんだな」
「まぁね、離してくれなかったからね」
「随分と懐かれたもんだな。ま、話は明日にでもするとして、今は嬢ちゃんも寝な。どうせ明日から忙しくなるんだからな」
「ありがとね。おやすみ」
そう言うと、リカルドは反対側の下の方のベッドへと入って行った。
それからは誰も話すことなく静かに夜が過ぎていった。