70話
ダンジョンの攻略した階層を更新した次の日、クラン野良の住処では大人たちによって話し合いが行われようとしていた。
今日までに冒険者活動によって生活が安定してきたこと、俺のランクが上がったこと、他にも色んな理由があるが、それぞれが次へのステップに進んで行かないといけないということはみんな一致していた。
女性や子どもたちもずっとこのままというわけにはいかないし、俺もこれから冒険者活動をしていく上で考えていることもある。
そんなことなど昨日軽く話し合ってから、夜布団の中で色々と考えていた。自分のことはもちろんのこと、俺には前の世界の知識が多くはないが持っているのでそのことからも役に立つと考えたのだ。
色々考えていたら朝になってしまっていて、結局考えはまとまらなかったがいくつか案は浮かんだので良さそうだったら出していくことにする。
「それじゃあ、これから野良の住処による今後についての話し合いをすることにする」
そんなリカルドの声で始まった話し合い、メンバーは大人全員と俺、ユアである。他の子どもたちは子どもたちだけで遊んでいる。すでに朝ご飯も食べ終わり、今日は掃除などを休みにして話し合うことにした。
こういった話し合いは初めてということもあるし、全員の意見を聞かないといけないという判断から集まってもらったそうだ。主にリカルドの考えなのだが、特に他の人も文句はないようで集まってくれた。
「これからは一歩ずつ少しでも前に進んで行かないといけないと思っている。そのためにも子どもたちをどうするのか、俺たち冒険者もこのままやっていくのでいいのかということなどを話したいと思う」
「ではまず、女性たちの中でこうしたいというのが出たのでそれについて話すということでもいいですか?」
そう言ったのはマリーだった。真剣な表情をしていて、周りを見ると他の女性たちも同じような表情を浮かべていた。
「わかった。頼む」
「ありがとうございます。では、私たちは最近では男性方の協力もあって、外で買い物が出来るようになりました。そして同時にこのままずっと甘えたままではいけないとも思ったのです。そのことから私たちはそれぞれ得意なことがあり、それを利用してお金を稼ぐことが出来たらと考えました」
きちんと女性たちは女性たちで今後のことを考えていたことを知って、俺は嬉しく思った。最初は男の人の近くに行くことも出来なかったのに今では前向きに考えれるので良かったと思う。
「もちろん、これからは私たちだけの力では出来ないということもわかっているので、初めだけは協力していただいて、それからは私たちだけで出来たらいいと考えております。そして子どもたちに文字や計算を教えることも私たちでやっていきたいと考えております。子どもたちがどの道に進むにしろ、それらを学んでおいて損はないどころか絶対に学んでおいた方が良いことだと思うからです」
「確かに子どもたちには必要なことだな。それをやってくれるのであれば助かる」
「教材などのお金はまた頼ることになってしまいますが、そこからはどこへ出しても恥ずかしくないほどの教育をします」
「それと女性たちの得意なこととかは何があるんだ?」
「そうですね。お金を稼ぐことに関しては裁縫とかですかね。裁縫であればどこかで布を持って来てそれを縫って持って行くということが出来ますから。後は少しだけですが回復薬を作れる人もいるみたいですので、それに関しては稼ぐというよりも節約という方でしょうかね」
「なるほど。委託などのことも出来るし、回復薬も余った分は売ればいい。素材は俺たちが持ってくれば原価は無いに等しくなりそうだしな。ああ、でも入れ物のこともあるがそれは何とかすればいいだろう」
そんなこんなで決定ではないが、女性や子どもたちの今後の方針はこんなもんであろうということになった。子どもたちの教育は必須のことだし、女性たちも外の世界へとこれまで以上に出ることが出来るようになるのであれば、それは良いことだとも思う。
後は俺たち冒険者のことである。この話はどうなるのだろうか。
「じゃあ次に俺たち冒険者組についてだな。と言っても四人に関してはそれほど変わりはないな。まぁこれから女性たちだけで行動出来るようになるのであれば、少し離れたところへの依頼を受けることも出来るが、それもそれほどうま味があるわけでもないからな」
「ということは今まで通りお金を稼ぎながら、色々と手伝うのが俺たちの仕事ってことでいいんですかね?」
クリムが代表してリカルドの言葉に返した。
「そうだね。そうしてくれるとありがたい」
「わかりました」
「そして、俺とレヴィなんだが」
「その前にリカルドはホルンたちのことはどうするつもりなの?」
俺はリカルドにこれだけは聞いておかないといけないことである。この返事次第では俺の行動が変わってくるのだから。ホルンたちのことはすでに他のメンバーにも話してあるので、みんな話には付いて来れているはずだ。
まぁ俺の隣にいる猫耳少女は除くが。
「俺はこれからもあいつらの面倒は見ていきたいと思っている」
「そっか。それじゃあ私たちはそれぞれ別で行動することになるわけだね」
「やっぱりそうなるのか」
「え? どういうことだ? そこでなんで二人が別々で行動することになるんだ」
リカルドには何となく伝わっていたみたいだが、他のメンバーにはわからないらしく、みんな戸惑っているような感じだった。突然こんなことを言ったのだから当然と言ったら当然であるが。
「はっきり言ってしまえば実力が違うんだよ。確かにあの三人はあの歳ですでにランクCで実力はあると思うけど、私にとっては足手まといでしかないんだよね。事実リカルドを含めて四人で倒したオーガキングを私は一人で倒したわけだし」
「……」
「将来有望なのはわかるんだけど私はそれまで待つことは出来ないよ。それなら一人で行動するしかないし、そっちの方が気楽に動けるからいいかなって思うんだよね」
俺が思っていたことを言うと、みんな何を考えているのかわからないが黙ってしまった。
どうしたもんかなと思っていると、クリムがリカルドに対して質問をした。
「リカルドはどう思っているのですか?」
「そうだな。レヴィが強いのはわかっているつもりだ。実際ダンジョンでも途中暇そうにしながらも魔物を倒していたからな」
そこまで見られていたのか。
「それを見ていたこともあって、俺があいつらと行動するならレヴィは一緒に行かないと言い出すことも少しだが予想していたんだ。実力は申し分ないし、ランクもCに上がった。このことからも一人で行動してもいいと思っている」
リカルドの考えを聞いて俺もこれで一人で行動することが出来ることがわかって、ほっとした。もしだめだと言われたらどうしようかと思っていたところだ。
マリーなんかは心配そうな顔をしていたが冒険者のことは口を挟まないのか、リカルドが大丈夫だと言ったからそれを信じたのかわからないが、何も言ってくることはなかった。
こうして俺はこの日から、本当の意味での自由に冒険者活動を行うことが出来るようになったのであった。
それからの話し合いは子どもたちの教育に関してどの程度のことをどれだけ教えるのかということや得意なこと、やりたいことなどを改めて聞いて、今後の生活に活かしていけるようにと話し合ったのであった。
正直俺の入る隙は無く、教育に関してはマリーが率先してやるようだし、お金稼ぎに関しても前の世界の知識はあっても、こちらの世界の知識がないことから俺は意見が言えずにいたのであった。
しかも誰かが意見を言うと、誰かしらがその意見に対して答えていたので必要ないとも言えた。リカルドといい、クリムといい、なぜこんなにも色々と詳しいのであろうか。俺がいいところを見せようとしていたのに、全て台無しになってしまったではないか。
そんな俺の気持ちとは関係なく、話し合いはさらに進んで行き、結局俺は最初の方だけ会話に参加していただけで、後は聞くだけで話すことはなかったのであった。
こうして今後の方針を大まかだが決めた俺たちは、今日はのんびりと過ごし、また明日からの生活に備えて休むのであった。




