68話
水と氷の剣、なんか長いな。氷水の剣じゃダサいし、ウォーターアイスソードもないな。
新しく作った武器の呼び方が上手く決められないまま、引き続き戦闘することとなってしまった。
オーガキングが金棒を振り上げ、俺に向かって振り下ろしてくる。それに対して俺は剣を下からすくい上げるように、金棒と打ち合わせた。
今までのようにその威力に耐えられず崩れてしまったり、氷が砕けてしまったりしないで、武器同士が当たると両方ともそのままの勢いで跳ね返った。
俺の武器も無くならずに残っている。水の中にある氷は少し砕けてしまったが、まだ問題なく使うことが出来るであろう。
そのまま跳ね返った剣をまたオーガキングへ向かって振るう。オーガキングも同じことを考えたのであろうか、金棒を俺に向かって振り抜いて来た。俺とオーガキングとで打ち合いとなり、どちらも譲らないような戦いとなったのであった。
そして何度打ち合っても俺の剣は無くなることはなく、負けないでそこに残っていた。中の氷は細かく砕けて剣全体に広がっている感じではあるが、それが良かったのであろう。砕けて細かくなるごとにその威力と鋭さが増していくように感じられた。
上、下、横、斜め、どの位置からの攻撃にも俺は反応して見せて、その攻撃をことごとく防いで見せて、その合間にも俺の攻撃を入れていく。オーガキングの方も俺の攻撃を見事に防いで対応して見せた。
おそらくは時間としては一瞬だったのであろう。しかし俺には長い間打ち合っているように感じた。そしてついにオーガキングが持っている金棒が少しではあったが欠けたのである。
そのことに俺は驚き、オーガキングも驚いた。その驚き方に差があったのであろう。
俺はここが勝機だと感じ、オーガキングは危機だと感じた。打ち合った仲である、そのことくらいは容易にわかった。
俺は攻撃する手を止めずに全霊で剣を振るった。一方のオーガキングは防戦一方となってしまい、思うように戦うことが出来ずにいるようであった。
そして何度目かの攻撃でオーガキングが耐えきれずに身体をのけ反らしてしまった。
今以上に魔力を高めると制御が出来ずに上手く扱うことが出来なくなる。しかし上手く制御が出来ずとも瞬間的に攻撃力を上げることは出来る。いわゆる必殺技みたいな物であろうか。
当たれば必殺、外せば隙が出来て一気に戦況が悪くなる可能性がある攻撃だ。でも俺は今このタイミングでやるしかないという気持ちになっていた。外したときのことなんかは考えず、ただひたすらにこの剣を振るうだけだ。
片足を前に出し、横に剣を構え、今出来るだけの魔力を剣に込めて、がら空きであるオーガキングの胴体に向かって、その剣を振り抜いた。
一瞬時が止まったかのように、何も聞こえなくなり、静かな空間が辺りを支配した。しかしその状態も長く続くことはなく、オーガキングの身体が半分に分かれ地面に落ちると同時にもとの感じに戻っていた。
そうして地面に倒れたオーガキングは灰に変わっていき、一つの大きな魔石だけ残して消えていったのであった。
その光景に俺はただ立ち尽くすことしか出来なかったのであった。
「驚いたぜ。一人だけで倒すなんてな」
気づいた時にはすでに近くまで来ていたリカルドの声に我に返り、魔石を拾いながらも返事をした。
「うん。私も倒せるとまでは思っていなかったけど、何とか倒すことが出来たよ」
「ったく、俺たち四人が苦労してやっと倒すことが出来たものを一人で倒すなんてな。やっぱりすごいな、レヴィは」
「一人で倒すなんて信じられねぇ」
「そうだね」
リカルドの声に続いてホルンが驚いたような声を出し、カーシャもその言葉に同意していた。
ホルンやカーシャたちも近くにいたようで気付かなかった。今俺のいつもの探知を使えていないんだな。まぁそのうち使えるようになるだろう。
「でも実際にやって見せたんだ。疑いようがないだろ。それよりもいい加減疲れたからなお目当てのもんを回収して早く休もうぜ」
そうだった。忘れていたが、ダンジョンのボスを誰よりも初めに倒すと、宝箱がその部屋の中に現れるのだ。要するに初めて倒して人に対しての報酬ということなのだろう。
その中には色んなものが入っており、武器やアクセサリーはもちろんのこと魔道具なども入っていることがあるらしい。
今回もこのオーガキングは今までに誰も倒したことがないという情報は正しかったようで、部屋の中にはさっきまでなかった一つの大きな宝箱が置いてあった。
「おお! これがダンジョンの宝箱か!」
興奮したようにホルンが宝箱に駆け出すと同時に、カーシャとルミエも抑えられなかったのであろう。ホルンを追うように宝箱へと駆け出して行った。
それを俺とリカルドはゆっくり歩きながら眺めていた。
「レヴィも早く見なくていいのか?」
リカルドはからかうようにそんなことを言って来たが、
「流石にあの調子を見ちゃうとね。別にゆっくりでいいかなって思っちゃうんだよね」
先にテンションがすごく高い人を見ると、後からだとそのテンションに付いていけなくなるというか、冷静になって来るんだよな。
「二人とも、早く早く!」
一番に駆け寄ったホルンも俺たち二人がいない時に開けることはしないようで、宝箱の前で早く来いと急かしてきた。その様子が年相応の態度で俺は思わず微笑み、その姿をは悪いものじゃないなと思ったのであった。
そして急かされながらも宝箱のところへと辿り着くと、ホルンが代表で開けることになった。最初は遠慮していたのだが俺とリカルドが言うと、しょうがないなと言いながらもすごく嬉しそうな顔をして宝箱へと顔を向けた。
ホルンが宝箱を開けると、中に入っていたのはいくつかのものだった。
二振りの剣にグローブ、杖、ネックレス、指輪の計六つのものが入っていた。この宝箱の中身は入っている個数は一定ではなく、時には倒したときの人数分がないという場合もあるそうだ。だから今回は運がいい方なのであろう。
後は効果や使えるかどうかという問題なのであるが、それは後で確認するということになった。とりあえずはこの部屋から出て落ち着いて休んでから、確かめるのがいいと言うリカルドの言葉に従ってみんなも部屋から出ることになった。
俺は定番っちゃ定番だが、宝箱を持って行けるかと思い、試してみたのだが全く動く気配はなく、一回だけ攻撃もしてみたのだがそれでもだめだったので諦めることにした。その一連の行動を見ていた他のメンバーは呆れるような顔をしていたが、俺は気にせずにみんなの後を追って部屋から出たのであった。
そして部屋を出ると、俺はリカルドへと飲み物を渡し俺も座って落ち着いた。
しかしホルンはそうではなかったらしく、早く今手に入れたものを確かめたいと思う気持ちで一杯のようで落ち着かず、ずっとそわそわしていた。
リカルドもその様子に気付いているようで、苦笑しながらも手に入れた装備品を確認することとなったのであった。
俺としては半分以上が使わないものだったのでそこまで興味が出るものではなかったが、でもやっぱりこういったお宝を確認するというのは面白いことだと思うので、しっかりと話し合いには参加はしていた。
どれを誰のものにするかという話し合いになってしまったが、決まるものは早く決まっていった。まず杖だが俺は使わないので必然的にルミエが貰うこととなった。本人はとても恐縮していたが、ちゃんと貢献していたということで杖を渡すこととなった。
そして剣だがこれは一つがリカルドにもう一つがホルンかカーシャに渡すということとなった。どちらも片手剣ではあったものの大きさが大きいものがあり、これを上手く扱えるのはリカルドしかいないということで、一つは決まったのであった。
ホルンとカーシャの方はゆっくりと決めていけばいいだろう。そういうこととなった。
剣の性能は良く、リカルドも今使っている物よりも良いものだと言っていた。はずれのものではなくて良かったと思う。
そんなこんなで疲れた身体を休めながらも、色々と話し合いながら宝箱をから出て来た装備品の分配をしていったのであった。焦ることもないのでゆっくりと楽しみながらその時間は過ごしていった。




