45話
薬屋を出た後は街の中を歩いていた。まだ引き続き他の買い物をするようだ。今日は何を買うのか、どこへ行くのかということを俺は知らないので何もわからないのである。
それにしても薬屋のソルが言っていたことが気になったが、あからさまにリカルドは話すなというオーラというか威圧というか、そんなのが出ているような気がするので聞けないでいる。
気になるが、とても気になるが、これは聞けないな。からかってやりたいけどからかえない、もどかしいなー。
いつか絶対にからかってやろうと思い、今は心の中にしまっておくのだった。
「次はどこ行くの?」
「次は雑貨屋だな。そこで明かりを買わないといけない」
「明かり? ダンジョン内って暗いの?」
「暗いところもあるって感じだな。基本は明るいがあそこのダンジョンは暗い階層があるからな。必要なんだよ」
「そんな階層があるんだ」
実際のダンジョンがどういうものかわからないけど、思っていたよりも面倒で楽しい場所なのかもしれない。
正直腕を切られても大丈夫だったということを経験したので、もう何でも行けるような気がしてくる。おそらくだが身体が半分になっても大丈夫だと思う。
そう考えると、怖いものなんてなくなってくる。つまりその分余裕が出て楽しくなってくる。危険が無くなるというわけだからな。
「他に何か買うものあるの?」
「そうだな。後はちょっととしたものだな。適当に必要なものを買って感じになると思う」
「そかそか。了解」
雑貨屋はリカルドの知り合いではないようで、普通に買い物をして終わってしまった。何か面白いことが起きたらいいと思ったのだが、何も起きなかった。
買った明かりは俺でも楽に持てる大きさで、手にぶら下げて持つことが出来るタイプのものになった。基本的に後衛の俺が持つことになるので俺に合わせて明かりを買ったのだ。
重さは魔力で身体強化すれば関係ないので、少し重いくらいでも良く選ぶのには困らなかった。これが見た目通りの子どもだったら持てる明かりを選ぶことは大変だったであろう。
それにしてもなんか昨日のゴブリンキングを倒してから、考え方が楽しさ重視に置いているような気がする。そしてそれでもいいと思っている自分がいるのでそれを改める気持ちも出てこない。
ダンジョンのことにしても、買い物のことにしても。
今まではクランのためにもお金のことや早くランクを上げることを気にして冒険者活動を頑張ろうと思っていた。今はお金のことは気にする必要はなく、ランクを上げることを考えていればいいことになる。
お金はクリム達が稼いでくれているのと、俺たちがゴブリンキングを倒したことの報酬やその魔石を売ったことでまとまったお金を手に入れることが出来た。
なので当分は俺とリカルドはお金を稼ぐことを気にしないで良くなった。それもあって俺たちは気兼ねなくダンジョンに行ける。
そういうこともあって、楽しむことを考えて行動していけるのかもしれない。
もともと俺はファンタジー世界には憧れていたので、冒険者や剣などの武器、獣族やエルフという種族、それから魔法、どれ一つ取っても前の世界では物語の中のものでしかなく憧れはしても手に入るものではなかった。
しかしこの世界ではそういった絶対に手に入らなかったものがあり、実際に自分でそれを使うことさえできる。これで楽しまずにいられるなんてことは何か心配事があったりでもしないと無理な話だ。
冒険者活動をしていれば自然とお金は貯まっていくし、クランの女性たちも少しずつだが改善していっている。この調子でいけば子どもたちも育てることが出来、順調に事が運んでいくだろう。
だから俺が少し楽しんでやっていてもいいと思うし、誰も文句は言わないだろう。
そんなことを考えていたからであろう。リカルドが声を掛けてきていることに全く気付いていなかった。
「レヴィ? 聞いているのか?」
「ごめん、聞いてなかったや」
「何かあったか? 疲れたとか?」
「いや、昨日言った通り身体的な疲れはないんだよ。少し考え事をしていただけだよ」
「そうか、ならいいんだが。何か言いたいことでもあったら遠慮せずに言えよ」
「うん。わかったよ。それで何?」
「ああ、そうだった。次は俺の武器を手入れしてもらうために鍛冶屋に行く」
「了解」
鍛冶屋と言えばこの前行ったところかな。確かリカルドの知り合いの人だったな。
鍛冶屋に着き、扉を開けて中へと入ると今日はお店のカウンターに座って店番をしていた。イメージとしてはいつも店番なんてしないで何か作っているという感じだったので少し意外だ。
そんな失礼なことを考えながらもリカルドの後追って行く。この店は俺には関係ないかな。武器はいらないからな。
でも武器は見ているだけでも面白いので退屈することはない。そうか、こういうのを参考にして俺の水の刃の部分を作ればいいのか。
なるべく鋭く切れそうなものを参考にすれば、もっと魔物を倒しやすくなるかもしれない。イメージが大事だからな。
「剣の手入れをして欲しいんだ」
「なんだもう来たのか? 腕が鈍ってんじゃないだろうな。どれ、見せてみろ」
リカルドが剣を渡すと、店主は受け取り鞘から抜いた。そしてじっと見ると、
「確かに手入れが必要だな。ったく、この数日でどんな魔物を相手にしたんだか、ちょっと待ってろすぐにやってやるから」
「よろしく頼む」
例のごとく俺の存在は空気になっていたが、話は進み店主は奥の方へと入って行ってしまった。
睨んで来る店主もいなくなったことで俺はお店の中の武器を見て回ることにする。しかし前回のことで学んだので、手には取ることをせずに見るだけだ。
俺が使えなさそうな武器がいくつも置いてある。小さい子どもが大きな武器を持って振り回すのはロマンを感じるが、扱いが大変そうだ。持つことは出来るだろうがそれを扱えるかは別問題だ。
それでも俺の場合水で形を作ってしまえば、自分の意思で動かすことが出来るし形も自由に変えることが出来る。今度剣や鞭だけではなくいろんな形にして試してみようと思うので、今は形を覚えるためにも真剣に見ることにしようか。
リカルドも軽く見ているようで、ナイフなど見ている。
それから少し経って、店主が戻って来た。
「終わったぞ。剣身の方は問題はなかったから少し研いだだけだ」
「そうか、わかった。後は投げナイフを十本ほど頼む」
「金に余裕が出てきたのか。それならもっと良い剣があるんだが」
「いや、流石にそこまでのまだ余裕はないからな。今回はそれだけだ」
「っち、早く金持って来ないと他のやつに売るからな」
「わかってるよ、出来るだけ早くするさ」
そうして剣と投げナイフをリカルドは受け取って、また追い出されるようにそのお店を出ることになった。
リカルドは目的を果たすことが出来たし、俺も参考になったので良かった。というかあの店主口は悪いけど、リカルドのことを気にしていることはわかるので、なんだか微笑ましい感じになっている。
睨んできて怖いおっさんだが良いおっさんなのはわかる。
そうして途中で昼ご飯を挟んだり、特に他にすることがないということでリカルドの案内で街を歩き回ってみたりと、その後は楽しくまったりと過ごしていた。
「今日は俺が買い物に付き合うことになってるから今日はこれくらいにして帰るぞ」
どうやらクランの女性たちの買い物の付き添いは今日はリカルドの番らしい。俺も付いて行きたいところだが、リカルドが気にしないといけないことが増えて迷惑になるだけだとわかっているので、大人しく屋敷で待っていることにする。
ということで屋敷へと帰ることになった。
まぁ俺も何もしないでのんびりしていた方が戦い方や振り回す水の形なんかも考えやすいのでその方がいいのかもしれない。
役に立たないことには不満を持つこともあるが、俺が動かない方がいいこともわかっているので迷惑にならないように何かしたいとも思う。
それについては何も浮かんでこないので、一先ずは大人しくしていることだけを頑張りたいと思うのであった。




