44話
ゴブリンキング倒した翌日、朝となり、出かけるため起きて朝ご飯を食べていた。
今日は昨日言っていた通りダンジョンへと行くのだと思っていたのだが、どうやらそれは俺の勘違いだったようで、
「今日はダンジョンへと行くための準備をするからな。主に買い物だな」
「買い物なの?」
「ああ、昨日消費した分も補充しないといけないし、他にもダンジョンの中に入るのなら必要なものもあるからな」
ということだった。
今日は買い物しかしないのか。ちょっと、いやそれなりには期待していたのに残念だな。
まぁしょうがない、行けないというのであれば諦めるしかないな。一人で行くわけにもいかないし。それに買い物も街の様子とか見ることが出来るのでそれはそれで楽しみだ。
回復薬も使ったからまた買う必要がある。他にも必要なものがあると言ったが俺にはわからないので、大人しく付いて行くほかないだろう。
今日は他の男たちとは一緒に出ることはなく、急ぐことなくゆっくりと過ごしていた。買い物だけだから急ぐ必要もないのだろうし、こんな朝早くから行っても迷惑になってしまう。
そういうこともあって俺はユアと共にのんびりと過ごしていた。ユアも俺がいるときは一緒にいるので、掃除は俺が行った後やるらしい。マリーにも許可を貰っているようだった。
俺は他にやることもないし、出かける準備もする必要はない。なのでこの時間はユアを撫でてやったり、楽しく会話をしたり過ごした。
「レヴィ、そろそろ行くぞ」
「わかったー」
「それじゃ、ユア。行ってくるね」
「行ってらっしゃい、、、」
今まで元気に話していたユアだったが、俺が行くとわかって急に元気がなくなった様子に対して少し笑ってしまったが、バレることなかった。
いつものことだがこんなにもわかりやすく反応されてしまったら、逆になんだか面白く思えてくる。もっと色んな反応をみたくなるが、そこは我慢して耐えるのであった。
屋敷を出て向かった先は、北側に行ってそれから西の方へと向かった。
街の西の方へは屋敷探しの時馬車に乗って行っただけなので、どんなものがあるのかなどはほとんど知らない。実際に歩いて見るのと馬車の中で見るのでは全く違って見える。
まぁそもそも街を歩くことをまだあまりしたことがないから色んなものが新鮮に映る。どんな人たちが歩いているのか、どんなものが売っているのか、そう言ったものもわからないので歩いているだけで楽しくなってくる。
回復薬を買っていたりとリカルドは俺が知らない間に買い物もしているので、今度からは俺も連れてってもらおうと決めたのだった。
でも今日は俺も連れてってくれるということなので、良しとするか。
「レヴィ、そのフード頭に被っておけ」
「え? なんで?」
少し歩いたところでリカルドにそう言われたがわけがわからず首を傾げた。
「目立つんだよ。ただでさえその白髪が目立つのにそれに加えて顔もいいからめんどくさいやつに絡まれる可能性が高くなる」
なんとリカルドが俺のことを褒めてくれたということか。少し違うかもしないが、大体はあっているだろう。
「そんなに目立つ?」
「ああ、すごく目立つな」
「でも今まで誰にもそんなこと言われたことないし、声も掛けられたことないよ?」
「それは俺がいたからだ。冒険者であれば俺が近くにいればちょっかい出す奴なんてほとんどいないし、街の中も俺がいるから声を掛けて来ることもない」
「えっと、リカルドに守ってもらわないとやばいレベルなの?」
「そうだな。街にいる冒険者たちは大丈夫だろう。俺と繋がっていることはわかっているから大丈夫だと思うが、他の街から来る奴や今街にいない冒険者には注意が必要だろうな。それと街の南側は特に注意が必要だな」
「治安が悪いから?」
「そうだ。というか南側では一人で歩くな。俺がいるときはいつも通り歩いていいが、他の場所でも基本的には一人で歩くことはしないで、誰かを連れて行動しろ。もし一人で歩く場合もなるべく目立たないようにしろ」
「わかった」
「そしてもし絡まれたら問題にならないように、ぶっ飛ばせ」
「ぶっ飛ばしちゃっていいんだ」
俺が笑いながら言うと、
「ああ、ただ相手と場所は考えろよ」
と、ニヤリとして俺に言うのであった。
そんな会話をしながら辿り着いたのは、一軒のお店だった。
そのお店は綺麗にされており、何か植物関係に関係しているお店だということは容易に想像できた。お店の周りには色んな植物が植えられていて、何の植物かはわからないが花は咲いておらず葉っぱだけだった。
リカルドはためらうこともせずに中へと入るために扉を開けると、鈴の音を響かせた。
どうやら扉の上に鈴があり、扉を開くとそれが鳴るようになっているようだ。こういうのは前の世界でも見たことがあったので、こっちの世界にも同じものがあるということでまじまじと見てしまった。
しかもその鈴の音も綺麗な音だった。
お店の中の様子は外と同じように植木鉢で植物がいくつも置いてあり、奥にはカウンターがあるがそこには誰もいなかった。
こんなんだと商品が盗まれてしまうと思うのだが、お店の中には植物しかなかったのでこれが商品なのだろうか。しかしリカルドが植物を買いに来たとは思えないのでどこか別のところに商品は置いてあるということなのだろうか。
リカルドがカウンターの方へと真っすぐ進んでいると奥から一人のおばあさんが出てきた。少しだけ厳しそうなおばあさんだと思ってしまった。
「いらっしゃい」
「どうも、ソルはいますか?」
「ちょっと待ってな」
そう言うとおばあさんはまた奥の方へと入って行った。
少し経ってから、再び奥の方から来たのは男性だった。年齢はリカルドと同じくらいか、少し若いという感じだろうか。
「いらっしゃい。今回は随分と早いね。それに一人じゃないみたいだし」
リカルドの後ろにいた俺を見たので、俺も少し頭を下げた。
「回復薬を三本、それと解毒薬を二本頼む」
「少しくらい会話してくれてもいいじゃないか。解毒薬なんてダンジョンに行くつもりかい?」
「まぁな。レヴィ、こいつのランクを早く上げたくてな」
「ふぅん。まぁいいか。ちょっと待ってて」
リカルドと会話をしていたが、また奥へと入って行ってしまった。
しかしすぐに出てきて、俺も昨日見た回復薬や違った液体が入ったものを五本手に持ってやって来た。
回復薬は緑色をした液体だが、もう一つの方は紫色をした液体だった。そっちの方がおそらく解毒薬なのだろうが、
「いつ見ても、毒物にしか見えねぇな」
俺が思っていたことをリカルドも思っているようだった。
「そう言われてもね。解毒薬の素材がこの色なんだから仕方がないよ。それに毒なんて大抵色なんか付いてないからね」
「それはわかっているんだがな」
「はいはい。文句を言ってないで、ほら」
そう言ってソルと呼ばれていた男性が手を出すと、リカルドがその手にお金を置いた。そしてリカルドも商品を受け取って鞄へと入れた。
いつも俺が持っている鞄は今はリカルドが持っている。お金も全てリカルドが管理しているようで、俺が稼いだ分もそれは入っていて俺はまだお金を持ったことすらない。買いたいものも時にないし、言えば買ってくれるそうなので問題はないだろう。
「はぁ、こういうのは普通リカルドがするもんだからね」
ソルがそう言うと、俺の方を見て、
「初めまして、僕のことはソルって呼んでくれて構わないよ。この通り薬屋をやっていて、リカルドとはそれなりに前から知り合いなんだ」
自己紹介されたので俺も被っていたフードを取って返した。
「初めまして、レヴィって言います。えっと、冒険者やってます。よろしくお願いします」
「うん。よろしくね。君のことは良く聞いているよ、破砕の心を清めた天使だってね。聞いていた以上に可愛らしいから天使というのはぴったりだね」
「え?」
「もうここには用はない。行くぞ」
「もう少し話をしていってもいいじゃないか」
言われたことの意味がわからないまま、リカルドがあっという間にお店を出て行ってしまった。困ったようにソルの方を見てみるが、
「今日はこれ以上はだめみたいだから、また今度ね」
そう言われてしまった。
「わかりました」
俺はそう言って一礼した後、リカルドを追ってお店を出た。出るときにはまた扉の鈴の音が聞こえてきたのだった。




